第5話
少女と歩き出してしばらく経つと、シートに座る一人の女性に出会った。
「こんにちは」
僕の右手を握る少女がにこやかに声をかける。
「え、はあ……こんにちは」
女性は控えめに挨拶を返す。そのタイミングで僕も軽く会釈をする。
「お姉さんはここがどこだか知っていますか?」
「深海電車……ですよね?」
「ここから出る方法は知っていますか?」
「答えを見つける……こと」
「なら、どうしてここで座っているのですか? 答えを探しに行かなくてよいのですか?」
少女は無邪気に質問を繰り返した。女性は困ったように視線を泳がせる。
「そんなに簡単なものではないわ」
「それならば、立ち上がり答えを探すべきではないのですか?」
「そうね……」
女性は淡く微笑み、それを自ら掻き消すように暗い影を落とした。
「でもね、問いもわからないのにどのような手段で答えが見つかるのかしら?」
「それも探せばよいのです。答えがここから出るのに必要ならば、答えを必要としている問いを探すのです」
「あなたの言っていることはとてもよくわかるわ」
「それならーー」
「でもね、わかり過ぎてしまったの」
「わかり過ぎてしまった?」
「答えを探すことの難しさを、ね」
女性は無表情でそう言った。
「見つけるのが極めて難しいものを探すのは愚か者のすることです」
「…………」
「それでもあなたは、いいえ、あなた達はそれを続けるのですか?」
女性は少女と、そして僕に問うた。
「はい、探します」
少女は僕の返事など待たずに極めてはっきりとした口調で答えた。
「彼と二人で、答えを見つけます」
「そう……」
女性はそう言うと静かに立ち上がった。
「それなら頑張って」
女性はゆっくりと僕らが歩いてきた方へ消えた。
後には一欠片のサンゴが残された。
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