第4話
小魚の大群がいた場所に立ち止まっていた僕に、一つの人影が近づいてきた。
「誰だ?」
喉に張り付くような声で、影に問う た。
「名前などありません」
返ってきたのは、穏やかな少女の声だった。
しばらくすると人影が少女の形を帯びてきた。
「あなたも乗客ですか?」
「ああ、君もか?」
「はい」
少女は長い黒い髪を持つ美しい少女だった。その黒い髪には花が咲いたようにリボンが一本結わえてある。
「どうしたのですか? こんなところで」
「いや……」
「答えを見つけなければここから出られませんよ?」
「知っている」
「なら、どうしてこんなところで立ち止まっているのですか?」
少女は話している間、終始微笑みを浮かべていた。その微笑は僕の心を穏やかにすると同時に、どこか不安にさせた。
「……小魚の大群を見た」
「そうですか。珍しいですね、こんな深海で」
「いや、それを見たのはこの電車の中でだ」
「ここで、ですか?」
少女は不思議そうに首を傾げた。
「ああ、君は答えを見つけられない人が人ではないものになることを知っているかい?」
「……いいえ、それは」
知りません。少女ははっきりと言った。
「僕は人ではないものになっていく人を見た。つい先ほど見た小魚の大群がそれの成れの果てだろう」
「つまり、ここから出られなければ……」
「そうだ。僕たちは人ではなくなる」
僕と少女の間に沈黙が重くのしかかった。
「……でも、でも、答えを見つければいいのですよね?」
「おそらく、な」
「では、答えを探しましょう」
「見つかるかどうかはわからないのだぞ?」
「構いません。人でなくなるのは嫌ですし、それにやる前に諦めたくはありません」
「……わかった」
僕は大仰に頷いた。
「行こう。答えを探しに」
「はい」
少女がにこやかに笑う。僕が右手を差し出すと、少女は左手を絡ませた。
こうして、僕の旅に美しい少女が加わった。
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