第2話

 僕が歩きだすとどこからか一人の幼子が現れた。


「こんにちは」


 女とも男ともとれないその幼子は丁寧に頭をさげた。


「君も乗客なの?」


「はい、そうです」


 僕が優しく訊くと、幼子は元気に頷きながら答えた。


「お兄さんも乗客ですよね?」


「そうだよ」


「答えは見つかりそうですか?」


「……どうだろうか?」


 あまりにも無邪気で愚直な問いに僕は一瞬迷った。


「君の答えは見つかりそうかい?」


「いいえ。答えは見つかりません」


「それはどういう意味かな?」


「問いが与えられていないからです。問いがないのに答えはあるのはおかしいですよね?」


「ああ」


「だから答えは見つかりません」


「それなら君はこの電車からおりられないのでは?」


「はい、そうです」


 幼子はそれがどういうことなのか理解しているのかいないのか、同じ調子で答える。


「君は人ではないものになるのかもしれない。それでもいいのかい?」


「構いません。それが運命です」


 幼子は羽織っていたくすんだローブを勢いよくとった。そこにあったのは、蟹や海老などの甲殻類の殻が集まってできた肉体だった。


 幼子は頭以外が人間ではなかった。


「もう死にます」


 幼子は平然と言った。


「仕方のないことです」


「……君は生きたくないのかい?」


 唖然としたままだった僕は、ようやく我に返り幼子に問うた。


「生きていますよ」


 幼子は言う。


「人ではなくなっても、死ぬことはないのです。人でなくなるだけです」


「それは死ではないのか?」


「違いますよ」


 幼子は笑い、僕の脇を通り先ほど歩いてきた道を行く。


「あなたに答えが見つかりますように」


 幼子は願うように、歌うように言うとローブを羽織い消えていった。


 僕はしばらく幼子が消えた場所をみつめ続けていた。


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