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「どうしよう、これ」
二人分の椀を抱えた彼は、女に手を引かれてホテル街の方へと歩いて行く友人をぼんやりと眺めつつ呟いた。次の瞬間にはその場に座り込んで満面の笑み。
「悩むまでもねぇか、久々に腹いっぱい食えるぞ、いただきます」
「いただきマス」
声のした方に目を向けると異臭。大男が立っていた。
「……やらないぞ売人」
「売って」
金をひらひらとさせた。憎たらしいことにそれは元だった。
「もってけ馬鹿野郎」
舌打ちしながら椀と割り箸を突き出す。大きさの不揃いな二人が地べたに座って汁物を啜り始めた。
「美味いネ。ハジメテ食べた。あそこのオヤジ、俺に売らない」
「なんでさ」
「俺、デカいから」
「わけわからん」
少年につられて、大男もからからと笑った。
「儲かりマッカ?」
「しけてんよ」
「エ?」
「え?」
どうしてか二人は顔を見合わせた。
「いや、どいつもこいつも金持ってなくてよ。来月からはリウに持ってく額が減るから良いんだけどさ」
「よかったネ」
「よくねぇよ、お前。こっちは代わりにめんどくさい仕事が押し付けられてんだ。もっとも僕はお呼びじゃねぇけどよ、あいつが大変そうでさ。見てられないっての」
「仕事?」
「スパイやんだってよ。お前知ってるか、イセフって組織。そいつらに俺とあいつが目をつけられてるから、リウは逆手に取ってやれって言うんだけど。どう考えたって貧乏くじさ」
「……」
「あーあ、僕もとうとう一人で生きてく時期なのかね。昨日、足の神経がイカれたばっかだってのによ」
「……キャッチしてやるネ」
「あ?」
「力になるネ?」
「何の話だよ、お前の世話になるほど落ちぶれねぇよ」
「違う、お前ら。俺の力になるネ」
そう言って、彼が厚着の懐から取り出したのは銃口。
「……あ」
「イセフのスパイやる。ジャンプする」
椀のなかはすでにすっかり空になっていて、二人ぶんのそれらが地面を転がった。
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