6

「どうしよう、これ」

 二人分の椀を抱えた彼は、女に手を引かれてホテル街の方へと歩いて行く友人をぼんやりと眺めつつ呟いた。次の瞬間にはその場に座り込んで満面の笑み。

「悩むまでもねぇか、久々に腹いっぱい食えるぞ、いただきます」

「いただきマス」

 声のした方に目を向けると異臭。大男が立っていた。

「……やらないぞ売人」

「売って」

 金をひらひらとさせた。憎たらしいことにそれは元だった。

「もってけ馬鹿野郎」

 舌打ちしながら椀と割り箸を突き出す。大きさの不揃いな二人が地べたに座って汁物を啜り始めた。

「美味いネ。ハジメテ食べた。あそこのオヤジ、俺に売らない」

「なんでさ」

「俺、デカいから」

「わけわからん」

 少年につられて、大男もからからと笑った。

「儲かりマッカ?」

「しけてんよ」

「エ?」

「え?」

 どうしてか二人は顔を見合わせた。

「いや、どいつもこいつも金持ってなくてよ。来月からはリウに持ってく額が減るから良いんだけどさ」

「よかったネ」

「よくねぇよ、お前。こっちは代わりにめんどくさい仕事が押し付けられてんだ。もっとも僕はお呼びじゃねぇけどよ、あいつが大変そうでさ。見てられないっての」

「仕事?」

「スパイやんだってよ。お前知ってるか、イセフって組織。そいつらに俺とあいつが目をつけられてるから、リウは逆手に取ってやれって言うんだけど。どう考えたって貧乏くじさ」

「……」

「あーあ、僕もとうとう一人で生きてく時期なのかね。昨日、足の神経がイカれたばっかだってのによ」

「……キャッチしてやるネ」

「あ?」

「力になるネ?」

「何の話だよ、お前の世話になるほど落ちぶれねぇよ」

「違う、お前ら。俺の力になるネ」

 そう言って、彼が厚着の懐から取り出したのは銃口。

「……あ」

「イセフのスパイやる。ジャンプする」

 椀のなかはすでにすっかり空になっていて、二人ぶんのそれらが地面を転がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る