第9話 決着
次の日、放課後までの時間はあっという間に過ぎて行った。嫌いなことは時間経過が遅いというのは嘘なのかもしれない。来てほしくない時間はあっという間にやってきた。
教室内を見渡すと、部活に向けて身支度を始める吉野を見つけた。吉野にもう一度頼み込もうと思い、煌太は席を立つ。しかし、煌太の行動にいち早く気づいた吉野はそそくさと教室を出て行ってしまった。
「完全に避けられてる……」
昨日の話はやはり吉野にとって荷が重かったのかもしれない。無理もない。将来の夢を他人のために犠牲にできる人はほとんどいないと思う。暴力をふるったのは玲愛だ。吉野は暴力沙汰にならないために平野の攻撃を受け続けていたのかもしれない。そこまで考えて手を出さなかったとしたら。そんな気持ちを考えると、煌太は吉野を攻めることはできなかった。
吉野を説得することもできず、何も手段を持っていなかった煌太はとりあえず玲愛の処分が決まる生徒会室前に向かった。生徒会室前には既に、山本先生と奏が立っていた。
「こうちゃん……どうだった?」
神妙な顔つきで聞いてくる奏に煌太は下を向くしかなかった。
「ごめん……全力を尽くしたんだけど、だめかもしれない」
「そう、でも頑張ったんだよね?」
「まだ可能性が消えたわけじゃないから……俺は最後まで信じるよ」
吉野はこの場所に来てくれる。根拠のない思いが煌太の心の片隅に漂っていた。
「先生、会議はいつから始まるんですか?」
「十六時よ。もうあと十分後には始まるわ」
腕時計に視線を落して山本先生は告げる。時間がないためか、いつもより口調が早くなっていた。
すると、遠くの方から足音が聞こえてくる。誰かが生徒会室前に来たらしい。一瞬、煌太は吉野が来たと思った。しかし、目の前に現れたのは会長と玲愛だった。
「あら、あなたたちどうしてここにいるの?」
「玲愛を取り戻しに来ました」
煌太の強い意志に会長は一歩後ずさる。
「この間も言ったけど、黒瀬さんは自ら行ったことについて認めているの。それに関してあなたがどうこう言ったところで何も変わらないわ」
会長は眼鏡を直すと、玲愛の手を引いて生徒会室に入っていく。このまま入られたら玲愛の処分は二度と変わらない気がした。
何かしないと。そう思った瞬間、会長が突然振り向いた。思わず虚を付かれた煌太に向けて悠々と発言する。
「そういえば、あなた達の部活についても話があるから中に入ってちょうだい。一緒に片付けたいし」
傲岸不遜な態度に腹が立つが、煌太達にとってはありがたい話だ。入れると思っていなかった生徒会室に潜入することができるのだから。
生徒会室に入ると会長に席に座るよう促され、煌太達は席に座る。向かい側には会長と玲愛が座った。玲愛は先程から一言も話していない。いつも通り話そうとする素振りも見せない。
「さて、黒瀬さんの処罰についてだけど、以前から話している通り、基本的には退学になると思います。黒瀬さんは光明高校の生徒を殴ったり蹴ったりした。これは、喧嘩の範疇を超えていると思います。相手校の生徒に怪我までさせていますので。黒瀬さんは星屑高校に残しておけないと私は判断します」
「ちょっと待てよ。玲愛は好きで暴力をふるったわけじゃないんだ。人助けで手が出てしまっただけで――」
「根拠はあるの? あなたの言っていることはただ黒瀬さんを守りたいから嘘を言っている風にしか聞こえないのだけれど」
会長の鋭い指摘が煌太に突き刺さる。いつもならここで何も言えずに終わってしまったかもしれない。だけど、今日は違う気がした。今なら言える気がする。
「俺は、玲愛を守りたいから言ってるんだ。こんな理不尽な対応を生徒会がしていいと思っているのか。確かに玲愛は光明の生徒に暴力をふるったかもしれない。でも、その暴力が正当防衛だったら仕方ないんじゃないか」
「正当防衛? 黒瀬さんが誰かを守ったとでも? ――ふふふ」
突然会長は笑い出す。生徒会室に笑い声が響き渡る。何がおかしいのか煌太には理解できない。
「ご、ごめんなさい。黒瀬さんが人助けなんてする人には思えなかったから」
会長は眼鏡を取ると、目尻に溜まった涙を拭った。
「とにかく、星屑高校のイメージを汚す不祥事は私としては見過ごせないし、怪我までさせたのだから、それ相応の対応をさせてもらうわ」
「その対応が退学ってことなんですね」
奏の声音に煌太は強い意志を感じた。訴えかけるように奏は話を続ける。
「生徒会長のやり方はおかしいと私も思います。一見、学校を良くしている風に見えるけど、実際は生徒会長の思い通りになっているとしか思えません」
会長の顔が一瞬固まったように見えた。奏の発言は明らかに的を射ている。
「わ、私は生徒会長として学校のことを考えて言っているのよ。それに、今までだって生徒会のおかげで星屑高校は文武両道で品のある高校として県内でも有名になったの。馬鹿な事言わないでちょうだい」
動揺を隠せないのか会長の声が少しだけ上擦っている。ここでダメ押しの一言を、会長の気持ちを変える一言が言えれば。自らの脳に語り掛けるも、名案は思いつかなかった。
――コンコン。
ドアをノックする音が生徒会室に響き渡る。間が悪かったのか会長はすぐに席を立ってドアを開けに行く。ドアの向こうには煌太にとって切り札と呼べる人物が立っていた。
「あなたは、誰かしら?」
「初めまして。赤星と同じクラスの吉野です」
堂々とした態度で話す吉野はどこか吹っ切れたような、すがすがしい口調だった。
「そう、吉野君ね。今、重要な会議をしてるの。用があるならまた後にしてちょうだい」
「会長、吉野は俺が呼びました」
来てくれた。吉野が。自らの意志で来てくれた。煌太は吉野の勇姿に涙腺が緩む。
「あら、そうなのね。それで吉野君を呼んだのには、それなりの理由があるのよね」
「あります。吉野は――」
「赤星、俺からすべて話す」
煌太の発言を遮った吉野は、会長の前まで歩み出て話し始めた。
「今回の不祥事は、全て俺がらみの事です。俺は入学以前から光明高校の平野と、中学の頃の事でもめていました。平野とはいざこざがあって以来、あまり仲の良い関係を築けていなくて、今回このような騒動が起きてしまいました」
会長に向け頭を下げる吉野はそのままの姿勢で話を続ける。
「黒瀬さんは、何も関係ないはずなのに俺の事を助けてくれました。今まで平野に対して何もできなかった俺に、黒瀬さんは変わるきっかけをくれました。俺のせいで黒瀬さんが退学になるかもしれないって赤星から聞いて……俺は退学に納得がいきません」
顔を上げると同時に、鋭い視線を会長に向ける吉野。吉野の気持ちが双眸を通して伝わってくる。吉野の言い分を聞き終えると会長は、すまし顔で言い放つ。
「要するに、吉野君を守るために黒瀬さんは暴力をふるったと。正当防衛ね……まあ、いいわ。それでも、黒瀬さんが暴力をふるったという事実は変わらないでしょ? 相手の生徒は学校に訴えようとするくらいよ」
会長の言葉は正当だが、正当じゃない気がしてならない。口を挟もうと煌太は口を開くが、吉野が先に話し出した。
「黒瀨さんは確かに手をあげたと思います。本来なら俺があげてもおかしくなかった。ただ、俺には黒瀨さんみたいに平野と戦う勇気がなかった。だけど、黒瀬さんは全く関係ない俺のために動いてくれた。人の為に行動できる人が学校をやめていいはずがない」
吉野の声が生徒会室に響き渡る。煌太は吉野の言葉に感銘を受けた。自分自身もそうだったが、玲愛の行動によって吉野は変わろうとしている。吉野はさらに話を進める。
「外面だけを気にして生徒の問題については目もくれない生徒会の事なんて、俺は信用できない。でも、サーチ部は違った。本当の真実に迫り、いろんな意味で危険から守ってくれた。黒瀬さんの退学にサーチ部の廃部。俺も納得がいかない」
吉野の放つ一言一言に会長はぐっとこらえ、口を結んでいる。そして、何か思いついたのか視線を煌太達に戻したかと思うと、吉野の方に視線を戻し、口元を緩ませ声を発した。
「あなた、サッカー部よね。夏の大会に出られなくても良いのかしら?」
会長がしたり顔をみせる。相手の弱点を的確についてくる会長に煌太は何も言い返せなかった。一方の吉野は会長の発言に動じていなかった。むしろ堂々とした立ち振る舞いで会長に挑んでいる。
「出られなくなっても仕方ないと俺は赤星に気づかされた。本当の気持ちを言うなら大会に出たい。でも、それは違うって気づいたんだ」
語尾を強くして吉野は語る。吉野の強い意志が言葉となってはっきり表れた。
「助けてくれた人達を見捨てて大会メンバーに選ばれても必ず後悔する。いつまでも引きずると思った。だから俺は夏の大会に出られなくても悔いはないんだ。それに大会に出られなくても、赤星や黒瀬さんといった、大切な仲間に支えられてることに気づくことができたのだから」
吉野の目から光る物が落ちた。その一粒の綺麗な涙には、大会に出たかった気持ちも含まれていたのかもしれない。それでも吉野は玲愛を救おうと必死に立ち向かってくれている。人の力って凄い。仲間の力って凄いんだ。吉野の発する言葉に煌太も感極まってくる。
「そう……それでもサーチ部は正式な手続きをしていないのだから廃部になるわ。この間決まった新しい生徒会規則に基づいてね」
「新しい生徒会規則って……」
身に覚えのないことを言われ、煌太は熟考してみるも思い当たる節はなかった。
「こうちゃん覚えてないの? 部員が三名以上いない部活は廃部となるんだよ」
「そんな案いつ決まっ――」
煌太はある結論を思いつく。おそらく、総会の時に決まったはずだ。自分の記憶が薄れていたときに。
「既に可決された案よ。最低でも二年間は取り消しが聞かないため、サーチ部は自然と廃部になるの」
息を吹き返したかのように会長の声が弾む。玲愛の処罰に黄色信号がともったと思うと、直ぐに別の事に切り替えてきた会長に煌太は憤慨しそうだった。
それでも、どんなに怒りを覚えても総会で決まったことは覆せない。それが、星屑高校の決まり。生徒総会での決まり事は星屑高校では絶対だ。
何度も会長に対峙してきた煌太の心が折れそうになる。それでも、見つけなければいけない。煌太は必死になって挽回の余地を考えていると、吉野が会長の方に歩み寄り発言した。
「なら、俺がサーチ部に入る」
聞こえてくる声に煌太は開いた口が塞がらなかった。予想もしていなかった一言に驚きを隠せない。まさか、サッカー部の将来を担うかもしれない吉野が、サーチ部に入ると言ってきたから。
宣言を聞いた会長も驚きの表情を隠せていなかった。一番大事なはずのサッカーを捨ててまでもサーチ部に入ろうとしている吉野の気持ちが煌太には判らない。
「吉野、お前……サッカー部はどうするんだよ」
「やめないよ。サッカーは」
「やめないって……兼部って星屑高校じゃ駄目じゃないのか」
「それは、問題ないわ」
今まで息を潜めていた山本先生がようやく口を開いた。
「サッカー部は運動部でサーチ部は文科部だから。生徒会規則に基づくと、基本兼部は認めないけど文科部、運動部ならそれぞれ一つまでの兼部を認める特例があるわ。そうでしょ? 上本さん」
山本先生の発言を聞いた会長は俯いたままゆっくりと頷くと、虚ろな目で煌太達を一瞥するが何も言うことができず直ぐに視線を逸らした。会長は自縄自縛に陥っていた。
「策士策に溺れるってことかな……もう、いいかしらね」
会長のもとに歩み寄りながら山本先生は包み込むような眼差しを向けた。
「上本さん、あなたも実は被害者じゃないのかなって私は思ってるの。先代の生徒会の人達に色々と言われて来たんじゃないかしら。生徒会長の責任の重さや先輩達の考えを聞いてるうちに、生徒達のことが見えなくなっていった。星屑高校の周囲からの評判しか考えられなくなったのかなって」
山本先生は会長の肩にそっと手を置く。瞬間、今まで背負ってきた重圧に解放されるかのように会長が膝から一気に崩れ落ちた。
置かれた手には山本先生の思いが詰まっていたんだと煌太は思う。山本先生の意志、思いがあふれている気がした。
そんな光景を眺めていると、腰を下ろしていた玲愛がゆっくりと立ち上がり会長を睥睨する。
「私はあなたたちとは違うから。問題の根幹を見抜くことのできない生徒会なんて無能。あなたたちの方こそ存在する意味がない」
淡々と述べた玲愛はそのまま生徒会室を後にした。いつもの会長ならここで反撃の言葉を放っていただろう。しかし、憔悴しきっているのか玲愛の事を野放しにした会長は崩れ落ちたまま微動だにしなかった。
山本先生の言う通り、会長は生徒会という一見華やかな場所で多くの苦難に見舞われたのかもしれない。その影響もあって会長の判断は鈍り、今回みたいに行き過ぎた結論を出してしまったのかもしれない。
「会長さん、黒瀬さんは本当に退学に値する程の行為をしたのでしょうか?」
奏はしゃがみ込むと視線を会長と合わせた。会長は奏の視線をはじめは嫌っていたが、落ち着きを取り戻すように深呼吸すると、皆に視線を向けてゆっくりと話し出した。
「私だって……こんな決断したくなかった。だけど、相手の高校に対して示しがつかなかった」
学校側が背負わなければいけない事を、いつの間にか生徒会長一人が背負ってしまう状況になっていた。生徒会長だって、あくまで生徒の一人。生徒を代表する立場としては責任を取るのは当然なのかもしれないが、学校全体まで背負う必要はなかったのかもしれない。
「実は……事件の起きたあの日、私も黒瀬さん達と同じ現場にいたのよ」
会長の発言に煌太はたまらず反論する。
「嘘だ……あの時、俺は会長の姿なんて見なかったし、そもそも会長は見ていたなら注意するはずじゃ」
「私が見たのは黒瀬さんを追いかける赤星君の姿。実際に吉野君達が騒動を起こした現場を見たわけじゃないの」
煌太の疑問に呼応する形で会長は淡々と答えた。
「あなたたちを見かけて何かあったのかと思った。それで赤星君達が走ってきた方に行ってみたのだけど、そこには誰もいなかった。最初は何があったのか判らなかった。でも、そこで見つけたの」
「見つけたって?」
「生徒手帳が落ちてたの。光明高校の生徒手帳がね」
会長の表情が引き締まる。決定的証拠をもとにさらに説明を続ける。
「生徒手帳が落ちていたのと赤星君と黒瀬さんがいた事から、何かあったんじゃないかと思って。私は翌日、実際に光明高校に行ったわ」
「実際に会ったんですか? 生徒手帳の持ち主に」
「ええ、会えたわ」
会長はゆっくり頷くと話を続ける。
「光明高校の加藤って人の生徒手帳だった。名前も生徒手帳に書いてあったし、間違いなかったわ」
「加藤ってアイツか」
吉野が思い出したように発言をする。煌太もあの時のことを思い出していた。
「加藤君に当日の出来事について聞いてみたら、星屑高校の生徒に殴られたって言ってたわ」
「それは嘘ではないと思いますが、加藤の言っている『殴る』のニュアンスが違うような……」
「私も最初は信じられなかったわ。ただ、あなた達を目撃した以上、加藤君の言っていることが嘘とは思えなかった」
疑われても仕方がない状況だった。玲愛といるところを見られていたのだから。煌太は何も言い返せなくなる。
「私は加藤君に謝罪した。だけど加藤君は『誤ることは簡単だ。このことを黙ってほしければ星屑高校の生徒を退学させろ。もし、何も行動がなかったらこのことを公にする』と脅してきたの」
「酷い……」
会長の発言に対して奏が放った一言が煌太に重くのしかかる。会長は光明高校からも圧力をかけられていた。
「私は星屑高校の生徒会長としての責務を第一に考えた。先輩たちが築き上げてきた星屑高校の威厳を汚すわけにはいかない。私は加藤君の意見を呑んだわ」
「それで、あなたは一年二組だけに来て犯人を知っている人は誰か聞いたのね」
「一年二組だけって……先生、それは違うと思います。会長は紙を配るときに全校生徒にも同様の事をすると言ってまし――」
煌太はそれ以上、言葉にして言い表すことができなかった。会長はクラスでアンケートを取った時に真意を話していたから。
――事態が収束するまで決して噂などしないでください――
当時聞いた言葉が脳内で反芻される。そして、一つの答えにたどり着く。会長は玲愛と学校に対して、少なからず配慮をしていたんだと。
「要するに黒瀨さんが自白してくれたことにより、退学の方向に話が一気に進んだ。学校側がリスクを負わずに済むためにも」
山本先生は総括する。
「学校側は……先生たちは玲愛の事について知ってたのですか?」
先生たちは何故生徒会を止めなかったのか。煌太の中に疑問が残る。
「知らないと思う。私は処分が決まってから先生達に言うつもりだった。当然、先生達は反対するかもしれないけど、私達生徒会なら必ず通せると思ってた」
会長のゆるぎない自信に星屑高校の怖さを感じずにはいられなかった。情報が生徒会からしか伝わっていないという事実があって良いのだろうか。学校に降りかかっている問題を何も知らないで生徒会に一任している先生達を、生徒会側は掌の上で遊ぶように扱えてしまう事実に煌太は言葉を失うしかなかった。
「でも、その考えは間違いだったのかもしれない。目の前の不祥事さえなくしてしまえば、何をしても良いといった私の考えは、外面だけで中身は空っぽ。こんなんじゃ良い学校なんて作れない。生徒会は今まで間違った方向に進んでたのかもしれない」
会長の声音は徐々に弱まっていくと、今にも泣き出しそうな顔を晒していた。
やっとわかってくれた。思いが届いた。煌太の胸中が安堵の気持ちで満たされる。
「玲愛の退学は撤回ですよね?」
「そうね。流石に退学は度が過ぎていたと思うわ。ただ、他校の生徒に暴力をふるったのは事実だし、それなりの処罰はくだると思ってちょうだい」
言い終えると会長は微笑んだ。今まで背負っていたすべての重荷が消えたかのような清々しい表情をしていた。
「やったな赤星」
「吉野……ありがとう。本当に来てくれて助かった。会長、本当にありがとうございます」
深々とお辞儀をする。
「お礼なんていらないわ。私が悪かったのだから。今後については学校側と話し合って適切な処置をとれるよう努力していく。私はもうすぐ生徒会長から退く身だけど、今後の星屑高校のためにも頻繁に生徒の意見を取り入れて、本当の意味で規律のある高校を目指していくわ」
会長の決意は新たな生徒会の一歩になる。迷いのない澄み切った表情を会長は晒していた。
「それで、実際のところ上本さんは生徒会のことをどう思ってるの。今まで生徒会がどんな教えを先代の先輩方から受けてきたのかしら?」
山本先生は、自分が一番知りたい答えを聞き出そうとしていた。生徒会に内緒にしてまでサーチ部という部活を作ったのだから、当然なのかもしれない。そんな気持ちに応えるよう会長はすんなりと話してくれた。
「先程、山本先生の言ってた事はほとんど合っています。生徒会には推薦で入学した生徒しか参画していません。それに、推薦で生徒会に入る生徒を見極めるのが生徒会長の役割になっています」
神林が言っていた、先輩の話は真実を物語っていた。言われた事実に、少し困惑してしまう。
「言われてみると、確かに会長さんは面接の時にいたかもしれません。ただ、私は会長ではなくて先生だと思ってたんですけど……」
「岩田さんがそう思うのも無理もないと思う。私は、制服ではなくて先生達と同じスーツを着ていたから」
会長は言い終えると、全てをさらけ出すように生徒会の内部について話してくれた。文武両道の規律のある高校を目指すためには自らを犠牲にしてまでも生徒を服従させること。会長が推薦組の面接に参加するのは、自らの意見だけを貫くことなく、生徒会長の意志や考えを受け継いでくれる人物を見極めるためだということ。
「そして会長に相応しい人物は、先代の会長の言うことに決して文句を言わない気の弱くて言いなりになれる人だって」
自らを蔑むような発言に会長は苦笑いを浮かべる。今の会長からはとてもじゃないけど考えられない。
「上本さんが言った、生徒会のルールを作ったのは誰なのかしら?」
「……わかりません。私はただ、前の生徒会長から聞いただけだったので。ただ、生徒会長が全指揮権を持っていたのは事実だと思います。他の生徒会役員は指示に従う……コマみたいな存在だったので。でも、これから正しい道を進んでいきたいと思っています。生徒のことを一番に考える、今までとは違う生徒会にしていきたいです」
明るく、快活に振舞う会長の姿勢が煌太にはとても眩しく見えた。
抱えていた問題を誰かに打ち明けることで、助けてくれる人が周囲には沢山いる。たとえ、打ち明ける相手がいなくても、その時は自分が光となって解決に導いてあげれば良い。シークとしての使命はそこにこそあるのかもしれない。
煌太の中でサーチ部の存在意義がようやく理解できた気がした。
「それで……今後のためにも、私達サーチ部はこれからも影の部活として存続していきたいと思っているの。生徒会の補佐をする目的も含めて。だから、お願い! サーチ部を公にしないでほしいの。……ダメかしら?」
「駄目です。部の活動登録は決まりなので、公表はします」
「もう、ケチなんだから」
とってつけたようなセリフを交えながら頬っぺたを膨らませる山本先生。大人の威厳など一切見せずに生徒に真っ向から向かってくれる先生は山本先生くらいかもしれない。
「今後、サーチ部は高校生の疑問に思っていることを何でも調査する部活ってことにしておきます。……表向きは」
「会長! それって……」
「今言ったことは、会長としてではなく私個人としての意見です。生徒会は表向きの事しか知りません」
会長の発言はサーチ部の今までの活動を、そしてこれからの活動も黙認してくれると言ってるも同然だった。
「ただし、何か形となるものを月に一回提出してもらうようにします。そうね……サーチ部が調べた事を紙にして配るのも悪くないかも」
「ちょっと、勝手に決めないでちょうだい。サーチ部の顧問は私なのよ」
勝手に今後のサーチ部について決めた会長と言い争うように、山本先生は討論を交わしている。活き活きした表情を晒す会長の姿が煌太にはとても眩しく見えた。
「あの! 黒瀬さんは悪い子じゃないんです。退学なんて決断、納得いきません!」
突然、生徒会室のドアが開いた。廊下中に響き渡るほどの声をあげて生徒会室に入ってきたのは、引退したはずの沢渡先輩だった。ここまで走ってきたのか、肩で息をしている。
「先輩、来てくれたんですね」
笑顔を見せて話す煌太を見ると、沢渡先輩の表情は険しくなった。
「どうして……黒瀬さんが退学させられるかもしれないのに、なぜ笑ってるの?」
状況を理解できていない沢渡先輩は、辺りをやたらと見回している。
「もう終わったんですよ。沢渡先輩」
「終わったって……煌太君?」
「玲愛はこれからもサーチ部です」
満面の笑みを見せる煌太の表情からようやく察した沢渡先輩は煌太と同じ、いやそれ以上の笑顔を咲かせた。
「よかった……本当によかったわ」
「いつも遅いから肝心な事を聞き逃すのよね。沢渡さんは」
「遅くなるつもりはないんですけど、着いた時には既に終わっていることが多くて」
山本先生の忠告に沢渡先輩は、右手に拳を作り自らの頭を軽く叩くと、てへっと効果音をつけて答えた。他の人が同じことをしたらほとんどの人はひいてしまう状況だと思うけど、沢渡先輩がやると何故か絵になる。
「でも、本当に良かったですね。黒瀬さんの退学が撤回されて。それに、由美が折れるとは私思ってなかった」
「名前呼び……先輩と会長はどんな関係なんですか」
「どんな関係って、同じクラスで幼馴染なのよ」
「「えー!」」と会長以外の皆が驚愕する。
「ちょっと、沢渡さん。そんな重要なこと、何で私達に言ってくれなかったのかしら。色々と上本さんについて聞きたかったのに」
山本先生は語気を強めて沢渡先輩を問い詰める。
「言わなくても良いことだと思ってましたし、私がいなくなった後のサーチ部がどうなってしまうのか少し見たかったんです。煌太君と黒瀬さんの片方が窮地に落ちた時にどうなるのか。まぁ、流石にピンチだと思って来たのですが問題なかったみたいで。よかったです」
語り終えると沢渡先輩は笑顔で周囲を一瞥する。いつもおしとやかでほわほわしている先輩のイメージが煌太の中で崩れた気がする。人を試すとこ、観察するとこ、まさにシークにふさわしい能力を沢渡先輩が備えていたから。
「なるほどねぇ。今回は私もハラハラしていたのによく試そうと思ったわね」
「一年生コンビを信じてましたから。不安はありませんでした」
山本先生の質問に答える沢渡先輩の声には一切の迷いを感じなかった。
「そして、君が吉野君か。うんうん、イケメンだね。流石サッカー部のエース候補。あなたの決断で救われたのも事実だし、感謝します」
頭を下げる沢渡先輩に吉野はとんでもないと言わんばかりに両手をふっていた。
そもそも、先輩には吉野の事を話していないのに。先輩の情報収集の抜かりの無さに煌太は驚かされる。
「さてと、負けっちゃったみたいだね。由美」
「……うん」
会長の隣まで歩み寄る沢渡先輩は視線を会長に固定する。一方の会長は視線を逸らしていた。
「まぁ、私はあなたが会長になった時から少しだけ違和感を感じていたの。小さいころから目立つのが苦手だったあなたが、会長になるなんて思えなかったから」
いつもは傲岸不遜な態度で皆を注意していた会長が、人前に立つのが苦手だった事に驚いた。同時に会長に選ばれた理由も理解できた気がした。
「高校一年生の頃は比較的おとなしい性格だったのに、高校二年生になってから急に活発な性格に変っていったよね。最初はイメージチェンジをしたんだと思ったけど、生徒会長にまでなっちゃって。もしかして……二年生になった時に何かあった?」
「…………」
「化学部が何か関係しているの?」
沢渡先輩の立て続けの問いに会長の体が一瞬震えたように煌太には見えた。
「化学部は何も関係ない。化学部は私の大事な息抜きの場所なの!」
明らかに先程までと違う態度に、化学部に何かあると煌太は確信した。
「そう。でも、由美が高校二年生になった時から態度が変わったのを私は知っている。どうして引っ込み思案な由美が生徒会長になることができたのか、私にはわからないの。だから、教えて欲しいな」
「それは……言えない」
会長は本当に言いたくないのか皆から視線を逸らし続ける。
煌太も沢渡先輩の疑問について考えてみるが、ぱっとしたものが思いつかなかった。以前の話から考えると、化学部には会長の心を変える何かがあったに違いない。
心を変える大きな出来事。交通事故……とか?
突然、煌太の脳内を強烈な痛みが襲った。真っ暗な異空間に漂っているような、現実感のない感覚。目の前に映ったのは見たことのない人がトラックにはねられる光景。まるで、感情移入するかのように目の前に映る人の痛みや心の叫びが聞こえてくる。
痛い、悲しい、悔しい。目の前に広がる星空が漆黒の闇に葬り去られていく。
嫌だ、失いたくない。
自分はまだここにいる。
誰か答えてくれ。
闇から……救ってくれよ――。
漆黒の空間が突然光り出す。目の前に見えたのは一度消えかけた無数の星空。星を背景にうっすらと浮かび上がってきたのは……玲愛の顔と奏の顔。
玲愛と奏。正反対の性格を持ち合わせた二人はまるで目の前に広がる光と闇を対峙しているように見えた。ただ、そこに映る光も闇も自分にとって特別な――。
目の前の景色が再度変わる。煌太は生徒会室に立っていた。
今の光景はいったい何だったのか。まるで一瞬の間に見知らぬ光景が脳内を駆け巡った。
煌太は額を拭う。知らないうちに汗まみれになっていた。周囲を見渡すが、会長は依然黙ったままだった。おそらく先程の質問の途中みたいだ。
口内に溜まった唾を飲み込み一息吐くと、頭痛が治まっていることに気づいた。それと同時に、浮かんできた一つの考えを煌太は会長に述べた。
「会長、もしかして化学部に特別な人がいたんじゃないですか?」
「そ、そ、そんな人いないに決まっ……てるじゃない」
動揺で呂律が回っていない会長の顔が一気に赤く染まっていく。会長はたまらず俯いた。
「由美、煌太君の話は本当なの?」
必死に何か隠そうとしていた会長は、沢渡先輩の声を聞くなりゆっくりと顔を上げる。そして、煌太の問い詰めに降参した。
「サーチ部の人達ってなんでもお見通しね。まるで全てを見透かされてるみたいだわ。赤星君の言う通り、私は化学部に好きな人がいた」
「「おー」」と皆が声を揃えて会長の発言に感嘆すると同時に拍手を送る。
「誰なの? 由美の好きな人って?」
「陽子の知らない人。化学部の一つ上の先輩なんだから」
好きな人を意識したせいなのか会長の顔がさらに赤く染まった。
「会長にも好きな人っていたんですね。意外です」
ありのまま思った意見を言った煌太に対して、会長は慌てて弁解する。
「わたっ、私だって恋ぐらいします」
フンっとそっぽを向く会長。
「会長がデレた」
「デレたわね」
煌太と山本先生は思わずしたり顔を晒す。
「へぇ、これがデレるってことなんですね。初めて知ったかも」
奏はメモをとりながらデレについて学ぼうとしている。こんな時にもかかわらず真面目な奏に、一同開いた口が塞がらなかった。
「――んーもう、やめて。これ以上話さないわ。絶対に封印します」
「もうちょっと聞かせてよ。由美がどんな人に心を許したのか気になるんだもん」
「俺も気になります。お願いします」
沢渡先輩に便乗する形で煌太も問い詰める。最初は嫌がっていた会長は煌太達から頭を下げられると、渋々と話し出した。
「名前は牧野純先輩。化学部でいつも面倒見が良くてまじめな人だった。私は実験のたびに色々とお世話になったの。先輩の指導はとても的確でいつか私も同じようになれたらって思ってた。そして、とある大雨の日の。私は傘を忘れたのだけど、先輩が一緒に帰ろうって傘を差しだしてくれたの」
「ロマンチックねぇ」
「先生、少し黙ってください」
山本先生の言葉を遮り、話を続ける会長に煌太は耳を傾ける。
「その時からかな。憧れの気持ちが恋に変っていったのが。そして二年生の四月頃、先輩に告白したの」
「それで、結果はどうだったんですか」
先が気になったのか早口で話す吉野の問いに会長は肩を落し、ため息をつく。
「あっさりとふられたわ」
会長の返答に徐々に明るくなっていた生徒会室の雰囲気が冷める。
「振られた理由は聞いたんですか?」
「ええ、聞いたわ」
煌太のぶしつけな質問にもあっさりと答えた会長はそのまま理由を語った。
「牧野先輩には、明るくて活発で、リーダーシップをとれる人が好きって言われたわ。当時の私とは正反対の性格の人が好きって。だから私は……」
「なるほどね。それで由美は生徒会長になったんだ」
「……うん。決心したのはその時かな。以前から生徒会長の話はもらってたんだけどね」
目を潤ませながら会長は頷いた。
「まあ、でも私は昔の由美より今の由美の方が好きかな。言いたい事をはっきりと伝えて形にしようと努力する姿、かっこいいと思う」
「そうですよ。俺もそう思います」
好きな人に思いを告げられる意志の強さに煌太は感銘を受ける。自分の気持ちを信じて最後まで貫くことが出来るのは凄いことだ。玲愛も会長もあっさりとやってのけてしまう。煌太にはできなかったことだ。
「慰めはいらない。ただ、生徒会長になろうとしたのは先輩を好きになったのがきっかけだった。これは間違いないこと」
会長の言葉には、とても大きな思いが秘められていた。
「それで、当然生徒会長になった後にもう一度アタックしたんだよね?」
「そうですよね。牧野先輩のために頑張ってきたんですから」
皆の興味が告白の結果に移行したとき、会長自身の表情がまた暗くなった。
「告白はしたけど……また振られたわ」
「そんな……せっかく頑張ったのに」
「慰めは本当に要らないの、岩田さん。既に、先輩には彼女がいたから」
会長の表情に哀愁が蘇る。
「でも……そんなの……切なすぎるじゃないですか。思いを伝えても叶わないなんて」
「それが恋愛なのよね。全てが思うようにいかないことなんて当たり前。相手の気持ちを変えるのがどんなに難しいことか……私は良い経験ができたと思っている。そう……思っている」
会長は発した言葉を諭すように何度も小声で自分に言い聞かせていた。
表面上では気にしていなくても、やはり悲しい事は悲しいのだ。好きな人に思いを伝える事も難しいのかもしれないけど、付き合うことはもっと難しい。伝えることは自らの意志だけでできるけど、付き合うことになると自分だけの意志ではどうにもならない。必ず相手の意志が必要となってくる。
「会長に後悔がないのであれば、それで良いと俺は思います」
「そうだな。赤星の言う通りかもしれない。俺もこの場で真実を言ったこと後悔してないし、逆に言わなかったら後悔していたと思う」
煌太の発言に吉野が呼応する。
「皆、会長の勇姿を笑ったりしませんよ。本当にかっこいいと思います」
「赤星君……みんな……ありがとう」
会長の双眸から涙が零れ落ちた。
「さあ、会長のおいしい話も聞けたわけだし、そろそろ帰りましょうか。部活行く人は部活参加しないと」
「おいしいって……ちょっと先生!」
会長と山本先生の言い合いが再度加熱する。二人は放っておいても問題なさそうだ。
「あ、俺もう相当遅刻だわ。じゃあな赤星、サーチ部に関してはまた今度、聞くから」
「おう、本当にありがとな」
吉野は足早に生徒会室を後にした。正直、吉野が来てくれなかったら今回の件に関しては本当に詰んでいた。玲愛の退学を阻止するために死力を尽くしてくれた吉野に感謝しないと。
会長とのじゃれ合いに飽きたのか、山本先生が煌太達の所に戻ってきた。
「それじゃ、黒瀨さんについてはまた明日ってことで。黒瀬さんに伝えられたら、今日のことを煌太君から伝えてちょうだい。一応、他校の生徒に手を挙げたのは真実なんだから」
「わかりました」
「あ、私から言っておくから煌太君は言わなくていいよ。一応、黒瀬さんの元教育係だから」
沢渡先輩は言い残すと会長と肩を組んだ。
「ちょっと、陽子」
「先生。私は由美ともう少し話すので先に帰って大丈夫です。煌太君も奏ちゃんも本当にありがとう」
幼馴染同士、積もる話もあるのかもしれない。沢渡先輩の言葉に甘えさせてもらう形で煌太は奏と山本先生と一緒に生徒会室を後にした。
会長の呼びかけで、今後の生徒会は変わっていくはず。ただ、生徒会だけではなく学校側も改善をしていかなければならないことが沢山ある。問題がすべて解決するまでは、今までと同様に文武両道の人気高校として世間に知れ渡るのかもしれない。それでも、今回の一件で少しだけサーチ部が真意に迫ることができたと思う。
「まあ、とりあえず一件落着ね」
保健室に戻った煌太達三人は、山本先生特製のコーヒーで一服していた。
「色々ありましたけど、本当によかったです。サーチ部が廃部にならなくて。そして、玲愛も退学にならずに済みそうで」
ほっと一息つきコーヒーを口へと運ぶ。
「苦っ! やっぱりブラックは苦手だな」
「こうちゃんも苦手なんだね。私もブラック、苦手なんだ」
屈託のない笑顔を見せる奏は自分のカップにミルクを注ぐと、手際よく煌太のカップにもミルクを注いでくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
にっこりと満面の笑みを見せる奏。二人でいると、居心地の良い雰囲気が当たり前のように作られていく気がする。
「もしもーし? 私がいるのを忘れてるでしょ」
「そんなことないですよ。そうだよな、奏?」
「――うん」
奏は俯くと、肯定とも否定とも取れない返事を返してきた。少し頬が赤くなっていた。
「あの、すみません」
突然奏が声を発した。何か話したいのか、もじもじとしている。
「えっと……私もサーチ部に入っても良いでしょうか?」
突然の入部宣言に煌太はただただ、驚くしかなかった。
「奏はそもそも文芸部だろ? 文芸部はどうするんだよ。サーチ部は一応、文科系の部活なんだから兼部はできないよ」
「文芸部は辞めることにしたの。さっきの生徒会室での一件を見てたら、私もサーチ部の力になりたいって思えたから」
力強い眼差しを煌太と山本先生に向けてくる奏。そのまなざしに偽りの色は見えなかった。
「そうね、奏ちゃんもサーチ部について知ってしまったし、吉野君も含めて部員が四人になれば少しは楽になりそうね」
「先生。あまり人数増やしたくないって言ってませんでしたっけ?」
「イケメンと可愛い子は別よ、別!」
山本先生は笑いながら煌太に諭す。全く、現金な先生だ。
「なら、奏も今日からサーチ部の一員ってことだな。色々と頼ってしまうかもしれないけど、よろしく」
「私の方こそ、いつもこうちゃんに頼ってばかりだったんだから……こちらこそよろしくね」
保健室の空気が一気に弛緩する。ふんわりとした空間が拡張していく。雰囲気をいち早く感じ取った山本先生は設えてあるベッドに倒れこみ、枕に顔を埋め悶え始めた。
「もー、今日は解散。耐えられない! 黒瀬さんについてわかったことがあったら、私からもあなたたちに伝えるわ。だから今日は解散! はい、帰った帰った」
追い出される形で煌太は奏と保健室を後にする。ドアの向こうでは依然、山本先生の喚き声が響いていた。
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