第13話    「たかるんじゃねぇ!」

「訓練止め! これより、休憩とする!」

「「「はっ!」」」


 ぼんやりしてエミリア様ご一行を見送ってたら、ちょうど訓練が終わったみたい。

 結局、十分に見ることができなかったよ。


「キャァアアアッッ!!」

「!?」


 な、なに!? 何事なの!?

 なんだかサイレンみたいな高音の声が一斉に聞こえ始めたよ!?


 え、もしかして、歓声!? 休憩に入ったから上げてるの?


 観客席から立ち上がり始めた人達は、皆女性ばっかり。頬を赤くして目をキラキラさせてる。


「ルイス様ァアアアア!! どうかこちらに微笑んでくださいませぇ!」

「タオルをお持ちしましたぁ!! お使いになってぇ!」

「ルイス様、ステキ!」


 ルイス様?

 それってまさか……。


「ハーヴェイさんのこと?」


 ううん、それはないよね。だってあのハーヴェイさんだよ?

 たしかに、街で待ち合わせしたとき、彼は周りには女性ばっかりいたけど。


「うん、ないよ」

「何がないんだ?」

「もちろん、ハーヴェイさんがモテるなんてことですよ」

「おい。っつうか、女がほっとかねぇんだからしょうがないだろ?」

「だけどあの人、自分から話しかけに行くから……」


 ……?

 あれ? 私、今誰と会話してるの?


 勢いよく振り向くと、苦笑を浮かべてる話題の人がいた。


「あ、ハーヴェイさん。こんにちは」

「よう、クガ。見学に来てくれたのは嬉しいけどよ、今さっきなんか気になること――」

「それよりも、すごい人気ですね。いつもこうなんですか?」

「おい、流すなよ!?」

「そうっすね。いーっつもこうっす。まったく、どうして副隊長だけモテるんすかね。百人切りだからっすか?」

「チェスターも自然と会話に混じんなよ!?」


 溜息交じりにさとりを開いた表情を浮かべてるなんて、苦労してるのかなスクワイアさん。

 サラッとハーヴェイさんの文句を二人でなかったことにしてみた。だって、なんだかちょっとイラッとしちゃったからね。


 …………イラッと? 何にしたんだっけ?

 ……? うーん、まぁ、いいよね。そんなに気にするようなことでもないはずだよ。


「それより、いいんですか? 彼女達、ハーヴェイさん目的で来られてるんですよね?」

「いいっていいって。流し目一つでも嬉しがってくれるからな」

「……」


 パタパタ手を振って、どうでもよさそうに返された。まるで自分は関係ないみたいな反応だけど、ハーヴェイさんは張本人のはずなのに。


 ……ハーヴェイさんって、女の人にモテたくて行動してるんじゃないのかな?

 ナンパなことを言ったかと思えば、今みたいに興味なさそうな態度をとるなんて。どこか、矛盾してるよ。


 どっちが本当なのかな。


 ……? なにかな、すっごく視線を感じるんだけど。

 えっと……あっちのほうから?


「……!」


 さっきぶつかったエミリア様達と視線が合った。と、いうより、向こうがジッと私をにらんでた。滅茶苦茶うらめしそうに親のかたきみたいに見てきてる……!?


 矢みたいにするどくとがってる視線がバンバン飛んできて、突き刺さってくるんだけど。


 まさか、あの人達もハーヴェイさんのファン?


「? クガ? どうかしたのか?」

「え!? あ……いえ、べつになんでもないです」


 これ以上話してると、色んな人達の恨みを買っちゃいそう。

 もう帰っちゃおうかな。


「あの……私、もう帰りますね」

「は? なんでだよ。もう少しゆっくりしてけよ。せっかく来たんだしよ」

「そうっすよ! 副隊長ファン以外で来てくれる女の子なんて滅多に来ないんすから、帰るのは禁止っす!」


 ハーヴェイさんだけじゃなくて、スクワイアさんにも引きとめられたけど。

 でも、会話をする時間が長引けば長引くほど、彼女達の目つきが鋭くなっていくよ?


「いえ、だけど……ちょっと」


 もう帰らせてほしいな。


 そう言いかけた途端、地響きが聞こえた。


「うぉぉおおおお!? 女子だ!? 副隊長を差し置いてチェスターと和やかに話してるってのに目を疑ったが、幻覚じゃなかっただと!?」

「おい! しかも彼女、あの『食堂の天使』じゃねぇか!?」

「マジか!?」

「私服姿も可愛いぜ。ヤバいな、おい」

「まさに天使……!」

「俺達の癒しだ!」

「!?」


 え、ええ!? な、なに!? なんなの!?

 いきなり集まってきた騎士団の人達に囲まれて、周りが男の人ばっかりになったよ!?


 訓練後だから彼らは汗ダラダラなのに密集されて、すっごく蒸し暑い。

 どうしてそんなに急に寄ってきたの?


 それに『食堂の天使』ってなに? そんなのは食堂にいないよ? あるのはベティさんのおいしいご飯だけだからね?


「たかるんじゃねぇ! クガが怯えてるだろうが!」

「ハーヴェイさん」


 ハーヴェイさんが私の前に立ってくれたおかげで、大勢の人の目が見えなくなった。

 視線の多さに怖くなっちゃってたのを、気づかれてたみたい。


「……ありがとうございます」

「お礼はほっぺにチューでいいぞ」

「今度、ベティさんにかけ合って昼食多めにしてもらいますね」

「聞かなかったことにすんなよ……。いや、昼食多めも嬉しいけどな……」


 ガックリうなだれてるハーヴェイさんを見ても、罪悪感なんか起きません。

 変なからかい方しようとするからですよ、もう。


 それに、ただでさえ厳しい嫉妬しっとの熱線の温度を上昇させる気なんて、まったく起きないですから。


「おお……! 副隊長の誘いをあしらった、だと……!?」

「やはり天使だった!」

「見ろよ、顔色一つ変えてないぞ!?」

「むしろ迷惑そうじゃないか!?」

「ますますれたぜ……」

「さすがっすね! クガさん!」

「おい、お前ら。自然な流れで傷心してる俺をさらにえぐりにくんのやめろよ」

「傷心とか……」

「何っすかそれ。超面白い冗談っすね、副隊長」

「…………お、ま、え、ら……!」


 からかわれてるよ、ハーヴェイさん。

 そして、それを見てとっても楽しそうに「隊長みたいな怖い顔ですよ、副隊長~」ってさらにイジってるなんて。第三部隊の人達って仲がいいんだね。


 

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