第12話    「アル以外で初めて見たよ」

 久々の休日。今日も一日中本を読むのもどうかなって思って、半日だけで切り上げちゃった。

 少しでも情報を集めなきゃとは思うんだけど、ずっと文字を追ってると頭が痛くなるからね。



 パンプ王国の歴史書を一冊読んでみたけど、異世界についてにおわすような記述はなかった。でも、興味を持つような内容は書いてあったけど。


 このパンプ王国以外に大国は他に6つ存在してる。その国々に取り囲まれるみたいに、この国が存在してるってことは知ってた。


 でも、四季が存在してるのはこの国だけなんだって。


 理由はパンプ王国が神様の祝福を受けた唯一の国だからみたい。その祝福が四季だっていうのも不思議な話なんだけどね。

 他の国は一つとか二つだけ季節があるんだって。一年中寒いロシアとか、一年中熱いインドみたいな国なのかな? 想像もつかないけど。

 でも、この国に落とされてよかったよね。他の国だと、体調的についていけないよ。熱いのも寒いのも平気といえば平気だけど、やっぱりそれだけっていうのはつらいから。



 それ以外にも読み進めていくと、異世界っぽいなって思う内容があったけど……。まさか、人間以外にも種族がいるなんてビックリしたよ。

 魔物とは違って、種族として認められてるのはいくつかあって。たしか……獣人族、人魚族、竜人族、エルフ族だったかな?


 獣人族は見た目は人間なんだけど、人の耳の部分に獣の耳、それにシッポが生えてるみたい。あと、ひとくくりに獣人族なんて言われてるけど、実際はその族の中でも多くの種がいるみたい。

 例えば、猫の獣人もいれば、狼の獣人もいるんだって。他に多い種類も、ウサギとかクマとか……。

 ト、トカゲの獣人とか、いたりするのかな? ……興味があるような、ないような。


 人魚族は童話にあるような、上半身が人間で下半身が魚みたいになってる人達なんだって。普段は海の底に暮らしてて、滅多に地上には出てこないから、詳しい情報はわかってないみたい。

 ただ、すごく歌が得意みたいで、その歌の魔力で天候も操るんだとか……。

 だから遭難を恐れて、船乗りの人達は絶対に人魚族を怒らしてはならないって言い伝えがある。


 竜人族は、人と竜の両方の姿になれる。

 それだけじゃなくて、寿命も人の2倍から3倍長いみたいで、つまり、200歳以上生きるのが普通な種族。見た目も人と比べてゆっくり変化してくんだって。

 竜の姿の時は自由自在に空を飛べるから、竜人族の住処は人間が入りにくい山の奥地いわゆる、秘境ににある。どうしてそんな不便なところにあるかというと……なんでも、人間嫌いみたい。

 たまに国から出る竜人の人もいるみたいだけど……もともとの人口が少ないから、会える確率は限りなく低いって書いてあった。


 エルフ族の特徴は耳の先が長くとがってるところ。

 寿命は竜人以上に長生きで、500歳から600歳まで生きるみたい。途方もなさ過ぎて正直、想像もつかないよ。

 自然と寄り添うように生活してるから、精霊から派生した種族みたいな扱いをされてる。

 エルフ族はそもそも他の種族自体と関わり合いたくないらしくて、森に隠れて生活を送ってるみたい。彼らが住む森は、人とかが入らないように魔法をかけて迷いの森みたいになってるんだって。



 正直、得た知識そのままだから本当かどうかわからないけど。人間と関わりがあるのは獣人だけみたい。 さっき挙げた6つの国の内に一つは、獣人が多く住む王国がある。むしろその国だと、人間の方が少ないらしいよ。


 パンプ王国の住民はというと、人族がほとんどだから他の種族とは会う可能性は低いけど、少し気になるよね。

 機会があったら、会うこともあるのかな?



 ◇◇◇



 そんな今日身につけた知識を振り返りながら帰ってきたけど……これからどうしようかな。


 この後の休日の使い道は、特に考えてなかったから。……でも、とりあえず読書で終わらす気分にはなれなくて。


 お散歩でもする? ……だけど、あてもなく歩いてるといつかの時みたいに、変な人達に絡まれちゃうかもしれないし。そうそうないとは思うんだけど、ね。


『もし休日に時間が空いたら、今度稽古けいこでも見に来いよ』

『……暇だったら、うかがいますね』


 頭に浮かんだやり取りに、足が自然と止まった。


「あ」


 そうだ、たしか。

 ハーヴェイさんに、日中の剣の鍛錬の見学に誘われてるんだった。 


 日課になったハーヴェイさんの朝練を見てた時に、昼間の稽古の様子も顔を出してくれって誘われて。

 ……でも、昼間の稽古ってやっぱり、第三部隊全体での練習とかじゃないのかな?

 今日は私は休みだけど、騎士の人達の休日じゃなかったはずだから。


「いいのかな?」


 ……だけど、ハーヴェイさんってああ見えて一応、副隊長だから、その彼が許可をしてるから大丈夫、なんだよね?


 行って怒られることはないって信じよう。


 以前ハーヴェイさんから聞いてた、訓練場の場所にそのまま向かう。騎士舎から大体徒歩10分程度だから、騎士の人達にとっては便利だよね。


 初めて訓練場に向かうから行き方が合ってるか自信ないけど、たぶん間違ってないはず。


 見えてきた建物は、屋根付きの円形の建物。

 中に入ってみると、観客席の一列目に出た。後ろを振り返ると観客席が6列くらい並んで、周りをグルリと丸の形につながって設置されてる。


 何人かが座って見てる人達がいるから、見学禁止ってわけじゃないみたい。私だけじゃなくって、ちょっと安心。

 ……でも、どうして女性の人ばっかり多いのかな。もしかして、騎士の人達の婚約者とか恋人なのかも?


 視線を正面に戻すと、土が敷かれたグラウンドみたいなひらけた場所が見える。


「あ」


 そこで、走り込みを行っている集団を見つけた。


「ハーヴェイさん」


 それ以外にもスクワイアさんとか隊長さんとかがいるから、第三部隊の人達なのかな?

 他に集団はいないけど……もしかしたら、部隊ごとに訓練をしてるのかも。


 ……でも、これで全員とかじゃないよね? 人数的にも30人くらいしかいなさそう。

 そうしないと王都の警備が手薄になっちゃうから、たぶん半分ずつにして別日とか時間制にしてるのかも。


「っ!?」

「あら、ごめんなさい?」


 観察を続けてた私に、背中から何かがぶつかった。

 結構な衝撃をまともに背後から受けて、しゃがみこんじゃった。とっさに体勢を立て直せたから、転ぶまでいかなくてよかったよ。


 誰なのかな?


 背後を振り返ると、日傘をさして優雅に微笑む女性がいた。

 目鼻立ちがクッキリしてて、唇も紅をさしてるせいかバラみたいに鮮やかに色づいてる。彼女がまとう服装は、ふんだんにリボンやレースが使われててとっても高そう。

 一言で言ってしまうと、ド迫力な色っぽい美人。おまけにスタイルも抜群。私の腰より一回りも細いなんて……ご飯とか、どこに入るのかな?


 そして、彼女を囲むように、同じく豪華な装飾のドレスを着こなした女性陣が立ってた。


「まぁ、なんて子かしら」

「エミリア様に先に謝罪をさせるなんて」

「どうしてそんな恥知らずの者がここにいるのでしょうか?」

「それに加えて、みすぼらしい恰好。私なら恥ずかしくて外を歩くことなんてできませんわ」


 どうして初対面で、そこまでの敵意を向けられないといけないのかな。

 そんなに失礼なこと、しちゃった?


 キョトンとしちゃって、綺麗な女の人達の口から出るののしりに無反応だったけど。それが余計彼女たちのカンにさわったみたいで、ますます目くじらを立て始めた。


「皆さん、仕方ないわ。彼女のような生まれではそんなことも習っていないのよ。寛大な心で、受け止めなければなりません。それが、私達貴族の務めでしょう」

「まぁ……」

「なんて慈悲深い、エミリア様」


 複数人が口々に一人をたたえる様子は、違和感の塊でしかないけど。でも、褒められてるエミリア様って呼ばれてる人は艶やかに微笑んでるから嬉しいのかな?


 そもそも、このエミリア様も何気なく私のことをけなしてるよね?

 これで慈悲深いってことは、彼女達の中の慈悲の定義は私とは違うの? それとも、異世界だとそれも意味が変わってきちゃうのかな?


 不思議。

 あ、でも。とりあえず。


「あの……謝るのが遅くなってしまって、ごめん、なさい。怪我とか、ないですか?」

「……なくってよ」

「そう、ですか」


 よかった。

 ボウッと立ってた私が悪かったから、怪我でもさせちゃったら申し訳ないよ。


 ……? でも私、一応壁際にそって歩いてたはずなのにな。

 それに、ぶつかったときは立ち止まってたから、向こうからあたっちゃったのかも。だから最初、エミリア様のほうから謝ってきたのかも。


 それが気恥ずかしくて、誤魔化ごまかそうとしてるのかな?

 

「……あなたにこの場はふさわしくなくてよ。街娘らしく、市場にでもお出かけになったら?」

「…………え?」


 やわらかく笑みながら小声で吐かれた毒に、言われた瞬間はわからなかった。

 戸惑ってるうちに、エミリア様は他の女性達をうながして移動していった。


「聞き間違いじゃないよね……?」


 優しそうな微笑みで人を侮辱するなんて。そんなの……。


「アル以外で初めて見たよ」


 貴族はそういうのができないといけないって決まりでもあるのかな?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る