第11話 「俺は肉食系だからな」
「……よし」
これで皿洗いもおしまい。桶いっぱいにあった皿の枚数に驚いてた時期もあったけど、今はすっかり慣れちゃったな。
私はいつものごとく、昼時に家政婦として厨房で働いてた。
厨房のカウンターから食堂内を見渡した料理長のベティさんは、一つ
「人の波も引いたね。ちょうどいい、
「……先にいいんですか?」
料理が載ったおぼんを押しつけられてよろけちゃった。ベティさんの力が強いのか、それとも私の
今日のまかないは、肉と野菜の炒め物か。うん、おいしそう。
じゃなくって、ベティさん、私が先に休みをもらっちゃっていいのかな?
私よりベティさんがもらった方がいいよね?
「若いもんが遠慮してんじゃないよ! いいから、行ってきな! ほら、あんたと仲のいいあの騎士もさっき来てたよ」
「あの、仲の良いって……わっ……!」
背中を勢いよく押されて、つまずくみたいに前に身を乗り出しちゃった。べ、ベティさん、やっぱり力が強すぎると思います……。
ベティさんの進め通り、食堂内でまかないを食べようかな。このまま厨房内にとどまっても、ベティさんのことだから追い返されそう。
食堂に入っていくと、彼女の言うように人はだいぶ減ってた。ポツポツといる人達が、それぞれで昼食をとってる状態かな。
そのうちの二人と目が合った。
「よう、クガ。昼食か? こっちで一緒に食べろよ」
「マジッすか!? クガさん! ぜひこっちに! こっちに来てくださいっす!」
「ハーヴェイさん、スクワイアさん」
食事に手をつけたままのハーヴェイさんと、テーブルに手をのせて全身でアピールをするスクワイアさんがいた。
あの、スクワイアさん、そんなに暴れなくても行きますし、両手をブンブン振り回さなくっても見えてますから。
呼んでくれてるし、私も一人で食べるより知ってる人と食べたほうがいいから、お言葉に
スクワイアさんとは斜め向かいになる、ハーヴェイさんの横に座る。
テーブルの上におぼんを載せると、二人の食事の量が気になった。
……これはさすがに、「あ、そうなんだ」で流せない景色だよね。
目に止まったものに視線を固定させたまま、感じた疑問をハーヴェイさんにぶつけた。
「前はそんなに食べてなかったですよね? どうかしたんですか?」
「あー……最近、食欲が増しててな」
「それにしては……」
「食べ過ぎっすよねー」
「食べれれば食べれるだけいいだろ?」
限度ってものがあるかと。
どうして、パンとサラダてんこ盛りに、スープなみなみに
「……」
「……」
「あ? んだよ、二人とも。べつにいいだろ?」
ハーヴェイさんを見てるだけでお腹いっぱいになりそう。
違う席で食べようかな。
「あの、やっぱり私、一人で――」
「待ってくださいっす! 俺を置いていかないでほしいっす!」
「…………わ、わかりました」
席を立とうとしたのを察して止められちゃった。スクワイアさん、カンがいいね。
目の前の光景にともに耐える仲間を失うもんかって感じで、半泣きで制止されたらためらっちゃうよね。
「……そんなに引くほどかよ?」
「当たり前っすよ! なんすかその量!? 副隊長の末恐ろしいところはそれを消費した後に平然と動けるところっすよ!」
「当然だろ。っつか騎士が自分が動けなくなるほど食ってどうすんだよ。これでもまだ抑えてんだぞ?」
「…………まだ食べられるんですか?」
「んー……あともうワンセット食える」
「「……」」
腹半分目!?
一体どういうことなの!?
スクワイアさんと内心大混乱してたけど、やがて私達はそっと視線を交わして
これ以上ツッコムのをやめよう、
意見が見事に合致したところで、おもむろにハーヴェイさんが笑ってみせた。その手に握る厚切りステーキの切れ端を見ると、少しウンザリしちゃうよ。
「俺は肉食系だからな☆」
「……」
『面倒くさい人だ』なんて本音を飲み込んだ私を、誰か
うん、言ってることは間違ってないよ? まさしくそう、なんだけど。どうしてかな、なんか
キザったらしく片目をつむってみせないでいいです。チャラさが増してますよ。
「またまたぁ~。先輩は雑食系じゃないっすかぁ」
「あ?」
「?」
雑食系? どういうこと?
ケラケラと笑って、スクワイアさんは私とハーヴェイさんの疑問に答えてくれた。
「あんなに女の入れ食い状態で来る者拒まず去る者追わずのお人が、何を言ってるんすか」
「チェスター? クガのいる前でその発言なんて、
「っ!? ひ、ひぃぃぃいいいっ!!」
く、黒い……笑顔が黒いよ、ハーヴェイさん。
一見爽やかそうだけど邪悪な空気がにじみ出てる笑みができるなんて、器用すぎるよ。スクワイアさんが、逃げ腰になって悲鳴を上げてるじゃないですか。
それとスクワイアさんがひどい
というよりも、ハーヴェイさんはこめかみに青筋を浮かべるほど、どうして苛立ってるの?
「何を怒っているんですか? 実際、スクワイアさんの言う通り事実ですよね?」
「!?」
「!? ちょ、え、あの、それはマズいっすよ!?」
「え?」
なんでそこでスクワイアさんが
しかも、まずいって何が?
もしかして……。
「あの……ですね。まさかですけど、男性にも手を」
「出してねぇよ!? 何を言っちゃってんのクガ!? こんな斜め上の考え方をされるなんて、俺予想外すぎて呼吸すんの忘れそうになったぞ!?」
「あ、違うんですか」
「当たり前だろ!? 俺はそっち方向には進む気はねぇからな!?」
滅茶苦茶食い気味に否定された。そんなに嫌だったのかな? カッと目をむいてるハーヴェイさんの鬼気迫る表情は、死活問題と言わんばかりに主張してるね。
……そして私、気づいちゃいました。「そっちの方向に進む気はない」って宣言のときに、食堂にいる何人かが残念そうな顔をしてることに。
ハーヴェイさんに伝えとくべきかな? ……ううん、でも、逆に伝えない方が彼の精神のためにもいいかも。
「そう、ですか」
……よかった。
……………………あ、れ?
「?」
「おい、なんでまた首をひねってんだ。まだ疑ってんじゃないだろな」
「え? あ……いいえ、そうじゃないです」
ハーヴェイさんに嫌そうに聞かれたのを、すぐさま首を振って否定する。
べつに、ハーヴェイさんに疑問を持ったわけじゃなくて。
「なんでも、ないです」
「? そうか?」
私は、どうしてハーヴェイさんに否定されたときに安心したの?
「??」
よく、わからないよ。
うー……ん……?
……あ、そっか。もし、それで男性も平気って言われたら、どう反応していいのか困っちゃうところだったから、かな?
…………うん。そう、だよね。
それだけに決まってるよ。
他に理由は、ない。
そのはずなんだから。
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