第33話 「なあ、俺から提案があるんだけど」
「あ、そういえば……ハーヴェイさん、ギルドってどこですか?」
「っへ? ギルド?」
思い出したけど、ハーヴェイさんに会うまで、そこに行こうとしてたんだよね。
「なんだ? 依頼しにいくのか?」
「依頼しに……というよりも、私が依頼を
「は!? それって、ギルドの構成員になるっつうことか!?」
構成員って、社員ってことだよね? だとしたら、その通りだよ。
「たぶん?」
「っ駄目だ! 駄目だ駄目だ駄目だ! あんなとこ、あんたを行かせるわけにいかないって!」
「!?」
勢いよく
必死の形相を間近に見るのって、少し怖いのにな。
「あそこは男ばっかりだし、粗暴な奴らも多いんだよ。そのくせ女子に免疫ない奴らなんだから、あんたが一人で構成員になるって言いだそうもんなら、あっという間に
「手籠め……」
それは、嫌だな。仕事とかもらえるようなところでも、安全なところが良いよね。
ハーヴェイさんは、嘘を言ってなさそう……。女好きみたいだけど、お人好しだからそんなことはしないよね。
「な? 悪いことは言わないって。やめとけよ」
「……わかり、ました」
残念だけど、仕方ないよね。……でも、仕事先を見つけるのはどうしようかな。
これはやっぱり、そのままマクファーソンの皆さんのお世話になって、使用人になるしか方法がなくなってるのかも。
「ってかさ、どうしてあんたギルドに行きたいなんか言い出したんだ? なんか、そんなに金を手に入れたい事情でもあるのか?」
「……住み込みの、仕事を探してるんです」
「住み込みの仕事? ……ああ、そういえばあんた、前に居候してるって言ってたよな。その相手とうまくいってないのか?」
うまくいってない?
……たしかに、最初の頃はレイモンドさんがよくわからなくて、嫌われてるなって思ったけど。今は、そうでもないかも。
心配そうな表情で顔をのぞきこまれた。それを、首を振って否定する。
「いえ、そういうわけじゃ……。むしろ……住み込みで使用人として働かないかって、言ってくれています」
「? なら、なんでだよ」
「……全部お世話になったら、申し訳ないです」
思えば、異世界に来てしまった時から、ジョシュアさん達に頼ってばっかりだったよね。
住む家にご飯、それに仕事までもらったら……さすがに、申し訳ないよ。
「運が良かったって、世話になったらいいだろ」
「でも、それは……余計迷惑、だから……」
許してくれるからって、なんでもお願いするのはどうかなって思う。
それに、どれぐらいまで頼ってもいいのか、相手が不快に思わないのか、私には予想できないしわからないから。
それなら、最初から程々の方がいいような気がして。
私の答えに、ハーヴェイさんが呆れた様子でため息をこぼした。
「難儀な性格だな、あんたって」
「……そうかもしれないです」
でも、そのほうがいいかなって思ったから。
「なあ、俺から提案があるんだけど」
「? ……何ですか?」
どうして、ハーヴェイさん神妙な顔をしてるのかな?
彼は、ゆっくりと言葉を切り出した。
「あのさ。クガさえ良ければ、騎士舎のところで家政婦として住み込みで働かないか?」
「……え?」
騎士舎? それって、どんなところ?
キョトンとしてると、何故かハーヴェイさんは慌てた様子で両手を振ってみせた。
「も、もちろん住むっつっても、男女の寝場所は分かれてるから身の安全は保障する! 料理を作ったり、掃除をしたり、洗濯をしてほしいんだ。うちは人手が足りなくて、おまけに
「あ、あの」
まくし立てられても困るから、まだ続きそうだったハーヴェイさんの言葉を遮った。
私の声に気づいて、彼はさらさらと流れるように
「あの、私。騎士舎ってどういうところなのか、わかりません……」
「は?」
ハーヴェイさん、口を開けたまま固まっちゃった。ジッとまじまじ見られてるけど、居心地が悪いよ……。目を泳がせるしかないけど、私、なんか変なことでも言っちゃったのかな?
「……ああ、そっか。あんたって辺境から来たんだった。だから知らないのか。騎士舎っつうのは、独り身の騎士が住むデッカイ借り家のことだ。そこで、共同生活を送ってる。つっても、部屋は別々で、共同なのは食堂と風呂場くらいだけどな」
それって、元の世界で言う寮ってことなのかな。
でも……風呂場が共同って、女の人はどうしてるの?
あ、もしかしたら、騎士にも女性がいるのかも。だとしたら、男女で分かれて利用してるのかな。
……でも、ちょっと待って。たしか、初めてハーヴェイさんと会った時に、騎士に女はいないって言ってたような?
「あ、あの……女の人はどうしてるんですか? お風呂とか」
「は? 女? ……! あ、ああ、そっか。安心しろよ。家政婦は部屋に備え付きでシャワーがある」
「そう、ですか」
よかった。ちょっと安心したよ。
騎士舎で家政婦……でも……。
「あ、あの……私、洗濯はできなくて。それ以外だったら、できますけど。それでも、大丈夫ですか?」
「洗濯が? どうしてだよ?」
「一度、洗濯用の魔道具を暴走させちゃったので」
「魔道具の暴走!? あっぶねぇな……怪我はなかったのか?」
ギョッと目をむかれて驚かれた。やっぱり、それぐらいの大事なんだね。魔道具の暴走って。
たしかに、あの時はすっごく大変だったよ。アンナさんも私も、パニックになっちゃったし。レイモンドさんが異変に気付いてくれなかったら、裏口付近が泡であふれかえっちゃうところだったし。
「はい。怪我はしなかったんですけど、泡だらけになりかかって……」
「泡だらけ…………いいな、エロイな」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ」
小声であんまりよく聞こえなかったんだけど、ハーヴェイさん何か言ったのかな。
でも、なんでもないって言われたから、特に重要なことでもないのかな?
「洗濯用の魔道具に関しては、騎士舎はないから平気だ。むしろ、手洗いになるけど、それは大丈夫か?」
「やり方を教えてもらえれば、大丈夫です」
洗濯板とか使うやり方かな? 握力はいりそうだけど、それならなんとかできそう。
少なくとも、魔道具よりも望みはあるよね。
「わかった。じゃあ、いつから働く? なるべく早いうちからの方が助かるんだ」
「……あの。誘ってもらって虫のいい話だって思うんですけど、少しだけ、待ってもらえないですか?」
すぐには決められない。それに私は、迷ってるから。
マクファーソンの人達に迷惑はかけたくない。でも、あの人達ともう少し関わっていたいって思う。
それに、アルに何も言わずに食事を作るのをやめるのも気が引けるよ。
私のわがままに、ハーヴェイさんはあっさりとうなずいた。
「そうだよな。ま、とりあえず考えといてくれ。今度会った時にでも、答えを聞かせてくれよ」
「はい。ありがとうございます」
嫌な顔一つしいないで、承諾してくれた。
お礼を言って頭を下げると、ハーヴェイさんは「いいっていいって」と手を振ってくれた。
「もうすぐ休憩時間も終わるから、俺はそろそろ勤務に戻るな。じゃあ、良い返事待ってるからな」
「はい」
「またな、クガ」
「……はい、また」
去りながら片手で手を振るハーヴェイさんを見送った。……あの人って、動作がいちいちタラシっぽい気がするよ。
……でも。困ってる私にわざわざ仕事を紹介してくれるから、ハーヴェイさんってやっぱり、お人好し……というより、面倒見がいいのかも。
面倒見が良いところも、先輩に似てる。女好きなところは似てないけど、ね。
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