第2話 「あ、間違えた」
「――い。おーい」
眠い。なんでかな、すごく眠くて。
あったかくて、ポカポカする。まるで、陽だまりの中で寝てるような。
できればこのままずっと、目を閉じていたい。
そんなのは、許されるはずがないのに。
「おい、おーい。起きなよ、いい加減。もう充分寝たでしょ」
体をゆさゆさと揺さぶられる。誰かが、近くにいるの?
揺られるたびに、意識が少しずつハッキリしてくる。
まだ強い眠気に
「ひゃ!?」
思わず、変な声が出ちゃった。
だって、視界いっぱいに、金髪に碧眼の外人さんの顔が入ってきたから。
「!? えっ?」
だ、誰? 近くないですか!?
「あ、やっと起きたね。じゃあ立って、説明したいから」
「え? え?」
よくわからない内に、その男の人に手を引っ張られて立ち上がらされた。
立った途端に、彼は私の手を放した。
「まずは初めまして。私は君達人間で言う、神様と呼ばれる存在の者」
「かみ、さま?」
私まだ、現実との区別がついてないのかな?
そもそも、ここはどこなのかな?
たしか私、さっきは……。
! そう、たしかUFOにさらわれて、それで、気を失ったはず。じゃあ、ここは……。
「宇宙船の中ですか?」
「違うから」
そうなの?
でも、そうかも。それにしたって、物がないから。むしろ、真っ白な空間に彼しかいない。
なら。ここは、どこなの?
「ここは
「狭間の……」
些細なことって、そうなのかな?
……わからない。だけど、とりあえず神様だって名乗っている人に聞かなきゃ。
「あの……私、死にましたか?」
「死んでいない。死んでいたら、幽界に君は行っている」
「幽界……? 死後の世界ってことですか?」
「そうだね」
あっさり
でも、それだったらここにいる理由は?
「私、どうしてここにいるんですか?」
「どうしてって、君が望んだから」
「え?」
望んだって、なにを?
私は、なにかを望んだ
「望んだって……なにも望んでないですよ?」
首をひねっても、全然わからない。
それに対して、神様は不機嫌そうに、そして不思議そうに、眉をしかめた。
「そんなはずない。だからわざわざ、あんなUFOっぽいのまで出して
あ。あれ神様の持前だったんですか。UFOっぽいのってことは、本物ではないのですか。
聞きたいことが増えたけれど、口に出すと今まで以上に場がこんがらがるような予感がしたので耐えた。
「……まさか。わかった、少し待って」
そう言うと、彼は目を閉じた。
? 何をしているのかな?
なんとなく声をかけちゃいけないような気がして。私はただ、手持無沙汰で待つしかない。
やがて、神様はまぶたを上げて、一言呟つぶやいた。
「あ、間違えた」
「……え」
間違えたって、え?
なにをなのかな?
「ごめん。君の言う通り、望んだのは君じゃなかった」
「です、よね?」
誤解が解けたみたい。
これで、めでたしめでたし、なのかな?
「あの、じゃあ、私を元の場所に戻してもらえるんですか?」
「……それはできない」
「え?」
なんで?
できないって、どういうこと?
神様は眉間にしわを寄せて、ため息をついた。
「もうすでに、手続きはとられているから。間違いとはいえ、途中で変更はきかない。君には予定通り、異世界に行ってもらう」
「え……」
異世界?
異世界って、よくファンタジー小説で出てくるような?
まさか私が?
嘘、だよね?
「しかし、こちらに落ち度があったのは事実。異世界に落としたのち、なんとか元の世界に戻れるように
「! あ、ありがとう、ございます」
よかった。帰れる。
少しの間、異世界に行くだけ。それなら、まだ大丈夫。
これなら日常に支障はない、よね?
「すぐで悪いけど、君を異世界に落とすね。いい?」
「わかり、ました」
展開が急で、なにがなんだかよくわからないけど。
でも、神様の「いいか?」は疑問形だったけど、反論するような余地はなかった。これは、決定事項なんだって、私が反抗したって変わらないことだって、すぐにわかった。
「では、よろしく頼む」
「は、はい……」
なにが起こるのかな?
思わず身構えた私に、神様は手を伸ばした。目が、彼の手のひらに
当たり前だけど、目の前が真っ暗になる。そして、ふっと足元の感覚がなくなった。
「え」
でもそれならもう、一回経験したから平気――
「っひゃぁぁぁあああああぁ!?」
下からごうごうと風が吹き上げる。風に
もしかして、いや、もしかしなくても。今度は落ちてるの!?
目を開いてみたらついさっきの真っ白な景色のまま、神様の姿だけが見えない。なにもないなら、この落下してる感覚もなくっていいのに!
「伝え忘れてた。なるべく早く元の世界に戻してあげたいけど、いつになるかわからないから。もし君が死ぬまでに間に合わなかったら諦めて」
「え、ええ!?」
姿は見えないのは、ワザとですか?
声だけしっかり聞こえるなんて、どういった原理?
でも、それじゃあつまり。
もしかしたら、帰れないかもしれないの?
「! か、神様の嘘つきぃいいいいい!」
嘘つきー、嘘つきー、嘘つきー、つきー、きー。
私の叫び声だけが
身体と一緒に、私の意識も落ちていった。
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