第2話 「二人目の主役」
「殿下!城下町で反乱です!」
部屋に駆け込んできて慌てふためく家臣に、王子様は整っているせいでいくぶん冷酷に見える表情を緩めた。
「案ずるな。否、案ずべき事態ではあるけれども、国を治める立場にある我々こそ動揺を悟られてはなるまい。とにかく、くわしい状況を教えてくれないか」
家臣はこの年若く聡明な王子に尊敬の眼差しを向けつつ、ところどころ噛みながらも報告をした。どうやら警備の役人を人質に取らりながら減税を主張している国民がいるらしい。しかも、クーデターの規模はなかなか大きいとか。
「王の耳にはまだ届いていないだろうね」
王子様はいつもの調子で口にしたが、内心はとても焦っていた。そもそも、この内乱の原因は国王の悪政によるもので、この事態が王の耳に入ればこれを見せしめとばかりに反旗を翻した国民を一人残らず罰してしまうに違いない。
最近の王様への不満が一気に表面化してきているし、王様自身、気が立っているのを同じ城中にいて不安に感じていた。
(あの人のことだ。何をやらかすかわかったもんじゃないな)
臣は、おそらくは、と自信なさげに報告をして不安げに見上げてくる。王子様はため息をかみ殺して、近衛の将軍の息子を呼ぶよう臣に言いつけた。
「やっと重い腰をあげる時が来たねえ。まあ、あの人達の場合、腰が重いのは物理的にだけど〜笑」
部屋の隅、本棚とクローゼットのわずかな隙間に座り込んで寝ていたはずの人物が、けらけらと笑いながらこちらを見上げていた。
「ロロウ……」
「あーあ、よく寝た」
伸びをして、読みかけの本をそこらへんに追いやるとロロウはあぐらをかいて頬杖をついた。
「使い物になるかね、将軍家の今の息子なんかおバカちゃんって有名なのにさあ。確かに先先代は傑物だったって話だけど、一世紀くらい前の栄光にすがられてもー、もうみんな平和でぼけぼけぶくぶくしちゃってるじゃん」
王子様は、間の抜けた喋り方をするもう一人の王子様を見下ろして、今度は盛大にため息をついた。
「ロロウ、お前、いい加減馬鹿な振りをするのはやめろよ」
このだらしのない弟、ロロウ王子は城中からもバカと聞こえ高いが、兄弟二人のときにはその喋り方以外きわめてしっかりとしたもので、つまり彼は兄以外の人間に馬鹿を装っているのだった。
そのぶん期待を一身に背負わされている第一王子のチャーミングはことあるごとに馬鹿のふりをやめろというのだが、弟は知らぬふりを決め込む。
「ねえ、噂で聞いたんだけどさ、軍で支給されてる鎧のデザイン変わったのって、みんな太りすぎてサイズ合わなくなったってマジ?そりゃあそんな理由の装備一新のために税金使われたんじゃクーデター起こしたくなるのもわかるわー」
笑い事ではないはずなのだが、憚らずに爆笑を続ける弟を見下ろして、チャーミング王子は引きつった笑いを浮かべた。
弟の言うことは多少ふざけてはいるものの残念ながら否定ができなかったのだ。
本来貴族は王族や国を守るのが仕事だ。彼らは戦時代に功績を上げ、爵位を賜った武人や参謀であるわけで、元々は腕の確かな兵であるはずだった。それが今では、その形骸ばかりをのこして中身のない、階級をかさに着てふんぞり返る連中がほとんどになってしまった。
「いや、でもさ、今回は実際結構やばくね?西と東の反乱に割と兵割いちゃってんじゃん、大丈夫なの?」
「一刻を争うんだ、鎮圧に行った隊を待っている余裕はない。王の親衛隊の耳に入れば、反乱を起こした国民がただじゃ済まないしな」
「あー親父って最近あったまおかしいもんな。ま、今に始まったことじゃないけど、身分に制限つけたときにはまじで引いたわ。てか、そうなるとやっぱ将軍今東行ってるしあの馬鹿息子招集するしかないじゃん!うわ、つるかめー」
などとロロウ王子が騒いでいると、部屋の外から例の将軍家の息子がタイミングよく声をかける。
「近衛将軍ゾランの息子、ジンでございます。火急の用と伺いましたが」
話の邪魔になるロロウが机の下に隠れたことを確認すると、チャーミングは居住まいを正した。
「入れ」
「はっ、失礼致します」
入ってきた息子のジンは思ったより太ってはいなかった。が、むしろ色が白く線が細い。彼はてきぱきというよりぎこちない動きで王子に向き合うと、
強かなシンデレラ。 牟田かなで @muta
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