結び-肆-

まあ、大体分かってはいたが。

今朝の告白された人物とは彼女、梶谷結衣だったのである。

告白されたのはいいのだが初めてのことだったらしくどうしていいか分からないらしい。


「断るのは失礼かなって……」


僕はその言葉にピクリと反応した。

僕は少し強めに言葉を強調するように彼女に向かって言った。


「断るのが失礼?その本人からすれば好きな人間から嘘を吐かれる方が傷付くし、他者から見ればそちらの方が失礼だと思うね。僕は優しくないからこう強く言ってしまうが、気持ちを正直に伝えることに抵抗があるのかい?」


彼女はまるで珍しくものを見るかのような表情をするとハッとして自分の頭を抑えた。


「うん、そうだよね。私間違ってた」


苦虫を噛んだような表情で彼女は続けた。


「私、多分相談して欲しかったんじゃないだ、少しでも楽にして欲しかっただけなんだね。きっと」


「……私、最低だなぁ」


彼女は大きく溜め息をつくと何かを決心したように顔をあげた。

それから僕のことを見て笑みを浮かべた。


「ありがとう。浦辺君に相談してみて正解だった、私のことを否定してくれて嬉しかった」


次に彼女は表情豊かに僕のことをじろりと見つめる。


「それにしても意外だね、浦辺君はもっと冷めた人なのかと思った。だから『いいよ』って言われた時にちょっと驚いちゃった」


「確かに気持ちを正直に伝えろとは言ったけど」


少し傷付いたぞ、と言おうとして止まる。僕がそんなことを言う権利はないからだ。


彼女は少し申し訳なさそうな顔をして謝ろうとするところを僕は手を出して静止させた。


「この話は終わり、最初と最後がごめんなさいは嫌だからね」


そう言って彼女に背を向けて教室を出た。

さよならという声が聞こえたが左手を少し上げてその場を後にした。


自分でも偉そうなことを言ってしまったなと椅子に座りながら考えた。


人を助けるという行為をした後にこんなに気持ちが悪くなるのは僕くらいだろう。


一本の糸がチラチラと揺れるとそれにつられて隣、また隣へと連鎖していく心の奥底に住む感情に苛立ちを覚える。


人を助けたことを誇る自分がいて、

その自分を小さい人間だと嫌う自分がいて、

その自分への卑下に感心する自分がいて、

その自分を嫌う自分がいる。


それぞれは自分の中の自分で、自分の中の他人で、自分の中の感情だ。


意思を持っても器の小さい自分の心を騙し、隠すことは出来ないのだと悟ってしまう。諦めてしまう。


大きく溜め息をつくと彼女のことを思い出し、意味もなく大きく深呼吸をした。

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