結び-弐-

HRが終わり陽が朱くならない内に帰ろうと席にを立つと少し困った様に俯く梶谷がちらりと見えたのでさりげなく「部活はいいのか?」と声をかけてみた。


彼女は驚いた様に顔を上げると無理に笑顔を作って「大丈夫、いくよ」と言った。


僕は大丈夫かなんて言っていないのにその返事はどう考えても大丈夫じゃないだろうと彼女の横を通り過ぎた。きっと相談を促しても意味がないしなと思ったからだ。


僕もあまり他人に悩みを明かさない人間だが、それは僕の世界の価値観の問題だ。

彼女は他人に迷惑をかけることを気にしているのだろう。


きっとこれから部活に行った際、部員に聞かれるのだろうが彼女は誰にでも大丈夫と一言済ますのだろう。


だがそれで良いと思った。


彼女が自分から打ち明けた時が悩みにのってあげるタイミングなのである。それまで僕は何も触れないでおこうと思った。


しかし、思考が巡るにつれて彼女のことばかりが頭に浮かぶ。くすぐったい胸を抑えると何かもどかしい気持ちが思考を横切る。


だが、頼まれもしない相談というのは僕は余計な御世話で嫌いなので、自分の嫌なことを他人にしないことが何も問題を起こさず生活を送ることという糸を引く僕は、小さく見える彼女の背中を見て何も声をかけることができなかった。


家に帰ったがなかなか気持ちが落ち着かないのでこの気持ちについて考えてみることにした。


まあ、考えると言っても恋なのだが、自分のやりたくないことがやりたくなってしまうという衝動はまるで僕の世界の繋がった糸に火をつけた様な感覚だ。


僕の紡いだ糸が心を焼き。

僕の紡いだ糸が痛みを生み。

僕の紡いだ糸が苦しみを生んだ。


まあ、摩訶不思議だ。

意識を集中せずとも視界の端っこに映る景色が燃えている。

その熱が直接伝わってくる様な過激な紅に何故か抵抗がないのだ。


その衝動に動かされそうになる自分の心の弱さに大きな溜め息が溢れて参ったように頭をかいた。


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