2569 Core 16「2569プロジェクト」

 ──2499年のラブゾンビ事件から4年後、2502年春


 黒い島はすっかり、平和になりつつあった。汚染された区域ではあるものの、治安の悪さも解消されつつある。ヤタノたち家族は白い島に2499年頃から約4年程滞在した後、再び黒い島へ戻ることにした。


「相変わらず、ここの桜並木は綺麗だな」


「思い出すわね、あの時のこと」


「ずるい!私もお花見したかった!」


「うん……そうだな……」


 ニゴロとアマタの小さなコアをケースに入れ、それを首にぶら下げたヤタノはこう言った。


「じゃあ、今から5で花見でもするか!」


 ヤタノはニゴロとアマタのコアを入れたケースをパカッと当てて光にかざす。

 コアを透過した光は虹の様にミチルとレイコに降り注ぐ。


「綺麗な光!ねえ!ここの風景スケッチしてもいい!?」


 幼少期をアマタに育てられたミチルは、創造性、感受性豊かな子供に成長した。

 今は絵を描くのが大好きなようだ。とにかく色んな物を創作することが大好きな子供に育っている。


「アマタさん、ミチルちゃんが小さい頃、色んな創作の仕方を教えてたみたいね、私は絵を描くの得意じゃないから……」


「ははは!そうだな、レイコは絵心が無いもんな!」


 レイコはヤタノの脇腹を思いっきりつねる。


「いてて!!やめろってば!そこ、機械じゃないんだから!」

「お母さんっ!お父さんいじめちゃだめよ!」

「あら、うふふ。お父さん、ごめんなさい」

「脇腹も機械化しようかな……」

「あーあ、ミチルもお父さんとお母さんみたいになりたいなー!誰か良い人と結婚したい!」


 ヤタノはミチルがお嫁に行ってしまうことを想像したら、急に目が潤んできた。


「ミチル、まだだ、まだそんなこと言わなくていい!」

「幼馴染のハジメ君はどうなの?ミチル」

「ハジメ君かぁ!好きだよ!」


(俺の親友が残したハジメ、ミチルと仲良しだったもんな、あいつにだったらうちの娘は……いや、まだ早い!)


「こら!レイコ!ミチルに恋人候補を紹介するんじゃない!」

「あらあら、ハジメ君に嫉妬かしら?お父さんはかわいいですね~」

「あははっ、お父さん顔真っ赤!」

「お父さんをなあ!からかっちゃダメだよ?!」


 ヤタノ家族はとても幸せな時間を黒い島で過ごした。



 ──2512年、ミチルが18歳になり、芸術を学ぶため白い島の美術大学へ進学することになった。


「ミチル、大丈夫か?寂しかったらこっちにいつでも帰ってきなさい」


「お母さんが思うに、お父さんのほうが先に白い島へ渡るわ、きっと」


「たまに帰ってくるよ、大丈夫。お父さん、お母さん、一人暮らしさせてくれて、ありがとう」


「あっちに行って、変な男に捕まるんじゃないぞ!?」


「お父さんはそればっかりなんだから……ミチル、あなたのやりたいこと、これからもっと心豊かになるように、勉強してくるのよ」


「うん、お父さん大丈夫!変な男には捕まらないから!」


「ほ、本当かー?」


 ──ミチル19歳のころ、白い島の国立図書館にて資料をさがしていると……どこかの大学生らしき男が女子大生に話しかけている。


「ねぇ、ずっと前に起きたラブゾンビ事件って知ってる?その時の子供、僕なんだよ!」

「えー!?その事件知ってる!本当!?すごーい!今は何してるの?」

「宇宙開発目指して国立大に受かったばっかり!ところで!今度さ!どっかで合コンしない!?」


 ミチルが速攻でハジメに走って飛んで蹴りを入れる。


「ハジメぇ!お前!なんで自分のお父さんをネタにして女の子ナンパしてるの!?」

「うぇっ!?お、お前は……まさか……ミチル!?」

「ハジメ!ちょっと来い!話がある!」


 ハジメはラブゾンビ事件直後、マスコミにもてはやされて世間に人気があったから、ずいぶんお調子者の性格になってしまった。でも、宇宙ロケット開発の夢はしっかりと着実に進んでいるようだった。


「なんで、そんな子に育っちゃったの……ハジメ」

「いや……僕全然モテなくってさあ……大学デビューしようと思って……」

「ハジメのアホ!幼馴染の私を忘れたの!?私ずーっとハジメのこと……!好きだったんだよ!?こっちは連絡先もわからなかったのよ!?」

「家はあれから何回か引っ越したんだよ……!ミチルだって!急に黒い島へ渡っちまって!寂しかったんだぞ!俺だってお前のこと好きだったんだ!」


 ……「「す、好き!?え、ええええええええ!?」」


 急に赤面する二人。図書館から警備員さんにつまみ出される。こうして、ヤタノの娘と、カズヤの息子は付き合うことになった。


 ──ミチルとハジメが夏休みに黒い島へ帰ってきた。ヤタノは家に帰省した二人を見て、ハジメに詰め寄りこう言いった。


「うちの娘、大事にしてくれよ」


「あらあら、今日ハジメ君が来たら殴っちゃうかもって言ってたのに、お父さんったら、丸くなったわねえ」


 ヤタノの義手がハジメの両肩を掴み、ギリギリ鳴っている。


「ヒッ、お、お父さん。よろしくお願いします!というか、お久しぶりです」


「ああ、大きくなったなハジメ。今は大学で宇宙開発の勉強をしてるとミチルから聞いているよ。将来、俺が考案したプロジェクトに加わらないか?」


「将来のプロジェクト?」


 ヤタノは空を見上げてこう言った。


「2569プロジェクトだ!」

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