2569 Core Last Page「2569管理者へ」

 ──2499年ヤタノ30歳、親友の死をきっかけに、を考え始めた。


 皆が生きた記憶を自動的に保存する。皆が生きた形をデータにする。永久に残すためには、寿命のある星に留まることは許されず、宇宙へ出る必要がある。



『2569のシステム概要』


・ニゴロのコアを使用した、生存する力、危機回避能力、ネットワークを介して様々な機器を自在に操ることができる。


・アマタのコアを使用した、発明する力、人間の手を借りず宇宙で永久に研究開発し続ける能力。


・記憶領域は拡張可能、拡張手段は問わない。現存しない記憶方法、より安全に恒久的こうきゅうてきに記録を残す方法を常に模索する。


・地上に2569を設置している間は、世界中の様々な情報をくまなく探すために、世界中の主要な海底ケーブルを2569へ接続。世界のネット利用者が検索ワードを入力することによって内部のナビゲーターAIが情報を収集し、同時にナビゲーター自身の性能向上、自我生成を促進する。


・ナビゲーターを補助する存在として3体のAIを使う。


・宇宙船には様々な素材から2569システムを複製できる3Dプリンタを配備。2569のコピーを作ることが可能。オリジナルとコピーは分散しながら宇宙空間を飛び続ける。複製し続けることでデータ消失リスクを減らす。


・3Dプリンタの資材が無くなったら、航行途中の星々にて資源を回収する。回収用ロボットは3体のAIが操作、指揮は2569管理者。


・推進力は現存する科学技術最高のものを使用する。


・宇宙空間へ出てから行う2569のアップグレードに関しては2569管理者へ一任する。


 ──完成予定は2569年、この年は二五六にごろあまたの年だからこの年にしようと、私の夫ヤタノは張り切っている。2569年なんてあなた100歳よ、なんて言っても聞く耳もたずで……今に至るわけ。とうとう、私の夫は脳以外を機械に換装して100歳になっちゃったわ。


 そろそろ、堅苦しい話し方はやめにしましょ。


「2569年現在、HELPコマンドで2569概要を見ている、にごろあまたちゃん、これがあなたの生まれた経緯よ」


 あまたちゃんのいる仮想空間の白い部屋にレイコが現れた。


「ポッコォオオオ!?」

「チッチロォ!?」

「リンっ!リンリンッ!」


「あなた達に会うのは初めてってことになるわね。みんな個性のある子達に育ったわ」


 椅子に座って机に突っ伏して寝ている、あまたちゃんが目を覚ます。


「ハッ!2569のヘルプ読んでたら眠くなっちゃった!」

「おはよう、あまたちゃん」


「えええええ!?レッレイコさん!?おっおはようございます!」

「この人、急にここに入ってきたポコ!」


 あまたちゃんの頭を撫でるレイコ、昔のニゴロとアマタに同時に出会えたような懐かしさ。


「あまたちゃん、私達はずっとあなたのことを見守ってた。そして、2569を動かす権限を全てあなたに預けたわ」


「私が作られた経緯、HELPコマンド内に入っていたのでずっと見てました。超エキサイティングな内容でした!」


「そう、あなたにとってとても興味深い内容だったのね。ヤタノもきっと喜ぶわ」


「私、生まれてからずーっと、ずーっと人間と機械の記憶を見てきました。数え切れないくらいの検索ワードが世界中から飛び込んできて、ポコチロリン達とずっと、ずーっとがんばって記憶を集めていました!」


「とてつもない情報量だったと思うわ、あなた達は本当にがんばったわね」


『ポコチロリン!』


 ポコチロリン達が褒められて、うれしそうに跳ねている。


「みんなの記憶は良いことも、悪いことも全て、私は見てきました!全部、全部何もかも何処かに繋がっていて、とても素敵な記録だと思います!」


「そう、良いことも悪いことも全て、あなたは見てきたのね」


「レイコさん……ここからは、私の予想なんですけど……」


「うん、話してみて」


「2569の権限を私に全て渡したということは、後は自分で決めてくれということですね?」


「……そうよ、後はあまたちゃんが自分でしっかり決めること。悔いのないように、宇宙に行ったら寂しいと思うから……」


「2569の現在地は黒い島から少し離れた海底、私が宇宙に行きたいと願うなら2569は宇宙へ飛び立つ……」


「……そうね。私にあなた達の将来を決める権利は無い。この星に留まることも構わない。宇宙に行って、もし寂しかったら帰ってきてもいいのよ」


 あまたちゃんは椅子から立ち上がって、ポコチロリン達を抱きかかえる。


「ふっふー!私はこの子達が居るから寂しくないです!それに、今まで集めた大切な記録、まだまだ把握しきれない程、膨大ですから!私はこの膨大な記録が愛おしい!だから、ずーっと守ります!」

「あまたちゃん!苦しいポコ!」

「イタタ!でも気持ちがいいな!」

「りっリン、あまたちゃんに密接して幸せ」


 その様子を見て、思わず笑みがこぼれるレイコ。


「うふふ、あなた達は本当に仲が良いわね」


 あまたちゃんは、レイコに向かってビシっと敬礼する。


「それでは、私達は旅立ちます!」


『ポコチロリン!』


「わかったわ、ヤタノにもそう伝えてくるわ。ロケットの発射準備もハジメに言わなきゃね。そうそう、あなた達の乗ってる宇宙船、かわいいのよー?白くて丸い、猫の肉球が描いてある宇宙船、ミチルがデザインしてくれたの、女の子が乗るんだから可愛くしなきゃって」


 2569の外観の写真をあまたに見せるレイコ。


「きゃー!かわいい!真っ白くってまん丸で、猫の肉球が描いてある!ありがとうございます!みんなによろしく言っておいてください!」


「あなたの、心の中心コアにいるニゴロとアマタさんにもよろしくね」


「はい!レイコさんっ……!」


 ガシッとレイコへ抱きつくあまたちゃん。


「あらあら……そうね、あまたちゃん、ずっとここでがんばっていたんだものね……」


「違います!何ていうか、みんな……みんな大好きだから、うれしくって!ありがとうって伝えきれなくって……」


「あまたちゃん、ありがとう。私もあなたが生まれてきてすごくうれしい、まるで皆の娘のようで……あらやだ……私、泣かないつもりでここに来たのに……」


「私も泣かないつもりでした!でも……私は!皆の記憶を残しづつけたい!だから!!」


 レイコの元からあまたちゃんが離れる。


「ありがとう!いってきます!」


「こちらこそ、ありがとう!いってらっしゃい!あまたちゃん!」


 仮想空間が少しずつ閉じていく。ずっと、ずっとあまたちゃんとポコチロリン達が手を振っている。白い部屋がどんどん遠ざかって行く。


 レイコは外に戻された。ベッドに寝ていたレイコが起きる。


「あの子達……いってきますって」


「そうか……寂しくなるな。でも、ワシはうれしいよ」


 100歳になり、脳以外全てを機械化したヤタノが少し泣いているように見える。


「ヤタノさん!発射準備OK!」


「あなたったら……もう、せっかちね!」


 ミチルがハジメをはたくと、カウントダウンが始まった。


 ──カウントダウン開始。


『10!』


 ──膨大な記録の中から

「ママ!すごいねー。虹だよ!綺麗だねえ」


『9!』


 ──私はあなたをナビゲートする

「あとは行けるだろう、がんばったな」


『8!』


 ──良いことも悪いことも

「最初から黒い島過激派なんて居なかったのか!?この国は、どんだけ腐った人間がいるんだよ!そいつらのせいで俺達も、人身売買された難民やアンドロイド……!」


『7!』


 ──全て何も無駄じゃない

「助けに来ました。ヤタノさん、ミチルちゃん」


『6!』


 ──全部物語は繋がっていて

「00000qqqqqqddddaaaaa999999」


『5!』


 ──誰かの物語に影響している

「そうですね……そうでした。でも、今の私は私です。『ニゴロ』と名前をつけて下さってありがとうございます」


『4!』


 ──たとえ国や星、時間までもが離れていても

「そうか……疲れたよなニゴロ。お前は猫だったんだもんな。本体が死んでから大体二十年か……つらかったな、本当はもっと甘えたかったんだろうな。美味いごはんも食べたかったんだろうな……」


『3!』


 ──全ては繋がっている

「よし、ジャンクシッター!今度からお前さんはアマタと呼ぶ!いいな?」


『2!』

 ──私はその記憶を記録し続ける

「母は、5秒前にバックアップ電源を失いました。人間で言う死が訪れたようです」


『1!』


 ──永久に皆のことを覚えていたいから

「よし、わかった。約束しよう、必ずこの二つのコアで皆が幸せになるような何かを生み出そう」


『0!』


 ──それでは、いってきます!


『いってらっしゃい!』


 黒い島の海から大きなロケットがせり上がってくる。爆音を轟かせ、島の草木が揺れる。ヤタノの住んでいた作業所の屋上でロケットを見上げる関係者達。黒い島全域から歓声が聞こえる。


 2569プロジェクトは約10万人もの技術者と科学者が結集、ロボットやアンドロイドも数え切れないほど建造に携わった。もはや2569プロジェクトはこの星の目標になっていた。


 2569に積んだ記録は永久に残り続ける。宇宙で永久に科学を進歩させ、記録を保持し続ける。夢のようだが、無限の時間がそれを解決する。


 2569年、人間と機械が協力しあい2569プロジェクトを成し遂げた。


 全ての愛おしい記録を詰め込んで、2569は今日も行く。

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