2569 Core 15「ゾンビの親友」

 ヤタノの記録


 2499年2月4日


 俺とレイコとミチルは白い島で『白黒問題』のゴタゴタが収まるまで、ジャスティス艦長の知り合いの貸家に住み、外出もせずひっそりと滞在していた。ミチルはレイコによっぽど懐いたようだ。アマタの事はもちろん忘れるわけがないが、日に日に元気になっている。


 そういえば、カズヤのところの息子は今日が誕生日だって電話で言ってたっけ。最近、カズヤに直接会ってないな。あいつの勤めている病院にでも今度行ってみようか。


 2499年3月


 カズヤに会って話してみたら、あいつの勤めている病院で義体技師が急に仕事を辞めてしまって困っているらしい、ヘルプで入ってくれないかと頼まれた。もちろん二つ返事でOKした。あいつにはでっかい借りがあるからなあ。


 2499年4月1日


 病院の終業時間にカズヤとエイプリルフールのバカ話をして笑っていると、あいつが急に「俺の頭を検査してくれないか?」なんていうから、俺も半分悪ふざけで検査機にカズヤを乗っけて脳をスキャンした。


 あいつは脳の病気にかかっていた。検査結果をカズヤに見せたら「ははは、ヤタノ、よくまあこんな手の込んだ検査結果用意してたなぁ……今日は4月1日だろ?嘘をついてもいい日だからって心臓に悪すぎるぞ」と言われた。


 俺も冗談だと言いたいよ。でもそれが冗談だなんて言えなかった。さすがに無理だった。


 2499年4月2日


 カズヤは今日、奥さんと息子に病気のことを伝えると言っていた。そんでもって、俺に最後の頼みがあると言っていた。話を聞いたときはカズヤに「なんでそんなことするんだ?」って率直な疑問を投げかけた。そしたら、カズヤは「お前だったらどうする?俺は最後に家族を驚かせて、笑わせてやりたい。俺は幸せだったぞ、生きてたぞって街中駆け回ってあいつらの元に帰るんだ」と言った。カズヤらしい生き方だ。もちろん、俺は最後の頼みを引き受けた。


 命は有限だ、しかもいつ尽きるかなんてわからない。俺だったらどうするんだ?今までの思い出、記憶、すべてを無くすことが怖くて仕方がない。もし、俺が同じ立場ならレイコ、ミチルに俺の記憶全てを残していつでも会えるようにしてやりたい。もし、独りになっても寂しくないように。


 ──しかし、どうやって?


 2499年4月5日


 あいつは家族に別れを告げ、俺の元にきた。


「ヤタノ、俺はお前のことも、もうすぐ忘れちまう。でもな、お前が親友でよかったよ」


「こんなの不条理すぎる……なんでカズヤ、お前が死ななきゃならないんだ」


「さあな……だけどな、ヤタノ、お前のおかげで少しだけあらがえる。ありがとう」


 少しばかり、カズヤの体に電極を埋め込む手術を施した次の日にカズヤはどこかに行ってしまった。


 カズヤがいつも使っていた白衣が残されていて、メモが添えられていた。


『これ走るとき動きづらいから、おまえにやる』


「わかったよ、大事に着るよ」


 俺は白衣を着て家に帰った。


 2499年5月5日


 この日はレイコとミチルが街に買い物に行きたいって言うもんだから、3人で買い物に行った。街はなぜかいつもより騒がしく、車が渋滞していた。


「なんだこれ、何で今日はこんなに人が多いんだ?」

「パパ!ママ!あれ!すごい!行こう!」

「どうしたの?ミチル……あら」


 道路の脇にある消火栓が抜けて噴水が上がっている。街の中に虹がかかる。


「わー!お母さん、あれみて!虹!きれいだねー」

「あら、綺麗ねぇ!でも街の人も大変ねえ……」


 ──あ、一ヶ月経ったのか。


「レイコ、悪い。ちょっと俺そこの噴水の所みてくる。事故かもしれないからあまりここを動かないで、ミチルを頼む。怪我人がいたら助けないとな」

「わかったわ、あなたも気をつけて」


 カバンから白衣を取り出し羽織る、この街の騒ぎの原因を予測したヤタノはカズヤを探す。レイコにはカズヤの病気のことは話していたが、この騒ぎの原因になる手助けのことは話していない。


「こりゃあ、後でレイコに全部説明したら怒られるだろうなぁ……」


 案の定、発見したカズヤの身体はボロボロになっていた。


「あーあ、心配して来てみりゃ、やっぱりダメだったか……」


 動くしかばねとなったカズヤとの約束を果たしに、カズヤの奥さんと子供の元へ連れて行こう。


「あとは行けるだろう、がんばったな」


 奥さんと子供の元へあいつを届けた。これで黒い島から脱出するときの借りは返せたか?お前の息子の名前はハジメだっけ?確かミチルと同い年だな、良い友達になれるかもな。今度お前の家が落ち着いたら、騒ぎのお詫びと挨拶に行くよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る