2569 Core 14「白黒問題の終結」
──ヤタノは特殊輸送部隊の任務と『白黒問題』について驚くべき事実を航行途中に聞かされた。
「なんだって?今起きている多国籍軍介入、難民拉致、技術者の誘拐すべて、セラ国の政府が仕組んだ事だと?」
「セラ国の政府と言うと誤解があるな、一部の黒い島から甘い蜜を吸っている連中の仕業だ」
ジャスティス艦長はうんざりとした表情でため息をつく。
「黒い島は高度な技術を持ち、汚染物質を世界中の国々から高額な値段をもらって処理する。この国から見れば金のなる島だ」
「それは昔からそうだな。だがその代わり、人の平均寿命は短く、汚染された土地でもある」
「白い島にいる政府の連中の中には、黒い島を金づるとしか思わない
「その権力者というのは去年、白黒問題の発端となり殺害された役人のことか?」
「それが、違うんだよ」
「どういうことだ?じゃあ、黒い島の一部の過激派が殺したのは誰なんだ」
「殺された政府要人は大幅な政策転換を考えていた。黒い島への大幅な資金援助の増大、難民の受け入れを白い島でも行うこと」
「そんな話は全く聞いたことがないぞ」
「その方針は白い島で甘い蜜を吸っている人間達にとっては、邪魔者でしかなかった。だから政府要人を殺し『白黒問題』をでっち上げた」
「最初から黒い島過激派なんて居なかったのか!?この国は、どんだけ腐った人間がいるんだよ!そいつらのせいで俺達も、人身売買された難民やアンドロイド……!」
「落ち着け、ヤタノ。少しコーヒーでも飲もうか、じっくりと話をしよう」
ヤタノとジャスティス艦長は艦長室に入る。室内は落ち着いたアンティーク調の小部屋だった。ヤタノとジャスティス艦長は小さなテーブルをはさんで椅子に座る。
「ジャスティス艦長。一つ聞きたい、あなたは俺達の敵か、味方かそれをハッキリさせてくれないと、腹を割って話すことができない」
「俺は、お前たちの味方だ。お前たちが黒い島に俺の兄貴が住んでいることはもう分かっているから話が早い。俺は、あの島を救いたいんだ」
「英雄さんの兄弟だとはね、ホントに驚いたよ」
「俺と兄貴以外の親、親戚はもう死んじまったが元は皆あの島の出身だ。俺は、何十年も前になるが、考えもなしに島の現状を変えたくて白い島に渡った」
「英雄さん、怒ってたけどジャスティス艦長に会えて嬉しそうだったな……」
「兄貴には迷惑をかけた。だが、俺は少しでも偉くなって黒い島の差別された環境を変えたかったんだ」
「それが、今の特殊輸送部隊か?」
「そうだ、政治家にはなれなかったが、体力だけはあった。俺は軍隊に入った。そのキャリアの積み重ねがここだ」
オレンジ色の光に照らされたジャスティス艦長の顔の古傷が軍隊での苦労を物語っている。
「兄弟揃ってタフそうだもんな。それで、この特殊輸送部隊の任務は?」
「……現在は黒い島からの重要人物の輸送。他国への技術漏洩の阻止、及び拉致された難民の救出」
「多国籍軍と影でやりあってた、ってことか?」
「出来る限りは……な」
ジャスティス艦長は言葉を詰まらせる。悔しさがにじみ出ている顔だ。
「この部隊一つでカバーしきれる規模じゃないだろ」
「もちろん、それは理解している。だから、証拠集めをしていたんだ。
「まさか、政府と海外のPMCとのつながりを?」
「そうだ。政府内に潜む黒い島関連の利権集団とPMCのつながりを証明して、一網打尽にする。だが捕まえられたのは今までたった5名、新兵ばかりでロクな証言が得られなかった」
「それならさっき、追加で20名捕虜を捕まえたってことになるな」
「まさか小隊をまるごと捕らえることが出来るとは、こちらも思っていなかった。ヤタノ、お前には感謝している」
──トントン、とドアをノックする音が聞こえる。
「入れ!」
隊員が部屋に入ると敬礼をし、急いで伝令する。
「ジャスティス艦長!
「よし!わかった!全証言を記録しておけ!」
ヤタノは島の脱出だけではなく、島全体の問題が良い方向へ動き始めていた事を理解した。
「クロに感謝しなきゃな……」
ヤタノはクロが全て救ってくれた戦闘を思い出す。そして、クロの母アマタと、猫のニゴロ。思い出しただけで、ヤタノは涙がこぼれた。
「あいつら……!助けられなかった……!」
「あいつら?誰のことだ?」
「仲間が、大切な仲間が居たんだ!」
「そうだったのか……俺達が来るのが遅すぎたな……すまなかった」
ジャスティス艦長はヤタノの肩に手を置いてこう言った。
「ヤタノ、お前達のおかげで『白黒問題』に決着がつく。いや、俺達が終わらせる。信じてくれ、あとはゆっくり休むんだ」
──2498年、桜が全て散った頃
海外のPMCとのパイプを持ち、黒い島の利権を
黒い島の隔離は解かれ、軍隊もすぐに引き上げた。島民は元の生活に戻っていった。
難民問題や、世界のゴミ処理場であることはすぐには解決しないが、ジャスティス艦長や水面下で動いていた役人の働きによって、国を悩ませていた問題は良い方向へ動きだしていくことになる。
──白い島、特殊輸送部隊の格納庫にて
ジャスティス艦長と隊員の会話
「ん?なんだと?ドローンで撮影された黒い影の記録?」
「あれは……とんでもない映像だと思うのですが……」
「ハハハッ!ありゃ俺の兄貴の息子だ!抹消!消さないとお前、二階級特進な!」
「いや~……二階級特進は勘弁してください!じゃ、抹消しときます!」
ジャスティス艦長はコーヒーを飲みながら考える。
(クロ、ありゃすげえ機械だ。恐らく、島一番のテクノロジーだろうな。でも、誰にも知らせやしない。どこの国にも渡さねえ。一応、俺の甥っ子だからな)
ジャスティス艦長は次の輸送任務に移った。
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