2569 Core 9「一人で頑張るな」

 ──脱出の日、昼。


「ヤタノ一つだけ聞くニャ、お前は機械の腕と足だけで一人で小隊を相手に出来ると思っているのかニャ?」


「この腕と足があれば……いけるはずだ。片足で3人相手にできた、それが4本、12人は最低でも倒せる」


 ニゴロとレイコはため息をついた。ヤタノは自分がどれだけ馬鹿なことを言っているのかわかっている。


「それじゃ勝てるわけがニャいじゃないか……だから、ヤタノが寝てる間にニゴロとレイコは皆が生きて帰れるようにしっかり準備しておいたニャ!」

「ニゴロはあなたが寝ている間、すごく頑張っていたのよ」

「レイコも頑張ったニャ、ヤタノは一人で抱え込みすぎだニャ」


 レイコが、ヤタノの手をとり家の外へ連れ出す。

 外に出ると、ゴミ処理場で使用されている人型重機が五台並べられていた。


「お、お前達、これどうしたんだ?」


 間もなくするとゴミ処理場の車がやってきた。作業員の二人だ。


「おーい!ヤタノさん!その猫からアマタさんとミチルちゃんのこと聞いたぞ!」

「先輩!これヤバイですよ!こんなの上にバレたらクビどころじゃ済まないです!」

「何言ってんだ!どっかの国が好き勝手に俺達の地元で暴れてるんだぞ!?」

「それはそうですけど……!あっ!そうだ!のこと話さなきゃ!」


 鉄次が申し訳なさそうに話し出す。


「……実は、この島が多国籍軍に占拠された直後に、アマタさんの子供をゴミ処理場で発見して、預かっていたんです」

「なんだって?アマタの子供?前に聞いた黒い鉄の赤ん坊のことか?」

「ええ……先輩が名前を付けて『クロ』って言うんですけど」

「見た目の色で決めた名前か?ネーミングセンスを疑うな」

「いやぁ!だって黒いんだもの。クロでいいじゃないか!」


 クロの名付親、英雄は笑いながら言った。


「それで、そのクロはどこにいるんだ?」

「それが……クロは、アマタが危ない事をそこにいる猫から聞くと、すぐにと言って、そのままどこかへ……」

「まて、俺の頭が追いつかない。黒い赤ん坊が?そう喋ったのか?」

「違うんです。もうクロは人間で言う大人くらいには成長しているんです。言葉も理解しているし、僕らよりもずっと、頭が良いんです」

「あいつ、機械をくっつけて成長するんだわ。ここに来たときのアマタさんと似ている」

「そんなこと、あるわけが……」


 『そんな事は絶対に無いはずだ』とヤタノは言いかけたが、ヤタノの脳裏にはニゴロが初めて来たその日からの記憶がフラッシュバックし、目の前の奇跡に対する否定的な言葉を飲み込んだ。


「多国籍軍が来て治安が悪くなってすぐの頃にクロを見つけたもんだからな。アマタさんには悪かったが、安全のために俺達が預かっていたんだ」

「クロはすごいんですよ!手から何本もコードを伸ばして、色んなアンドロイドの電脳をスキャンして学習したり、自分で身体のパーツを作ったり。まるで、ジャンクシッターが進化したような……やっぱり、アマタさんの子供なんだなって……」


 後輩作業員はクロのことを意気揚々と喋っている間に、現在のアマタの状況を思い出し、トーンダウンしていった。


「あいつらが狙っているのは、この黒い島で発達した技術なんだ。クロが捕まっちまったら、アマタさんに申し訳がたたない。俺達が黙っているうちに……こんなことになっちまった。すまねえ、ヤタノさん。俺達にも手伝わせてくれ」


 先輩作業員が頭を下げる。

 ヤタノは、思わず涙をこぼしてしまった。


「……違う、誰も悪くない。ありがとう、作業員さん。ニゴロも大変だったな。レイコも心配をかけて悪かった」


 ──ヤタノは拠点キャンプひとりで行くつもりだった。両腕両足に仕込まれた4つの爆弾を使えば敵の大多数を倒し、陽動することができる。レイコとニゴロ、ミチルとアマタを脱出させる計画プランばかり考えていた。それは自分の命を犠牲にすることが前提の作戦だった。


「あなた……まさか死ぬつもりで……」


 レイコが心配そうにヤタノを見つめる。

 ヤタノは今まで弱気になっていた考えを涙と共に振り払った。


「いいや!違う!皆で生き残って島を出るぞ!」

「お?いつものヤタノさんに戻ってきたな!俺も手伝うぜ!」

「先輩!俺は地獄までついていきますよ!」

「地獄!?縁起でもニャい!皆で生きて、この島を出るニャ!」


 作業員二人が仲間に加わり、いよいよ拠点へ人質奪還、脱出の準備が整った。

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