第2話 夢と現実

夢か現実か。


夕闇、かなり暗い森の中をひたすら歩いた俺とヴィス。

「どこまで続いてるんだ?この森は」

あまりにも森が開けてこないので不安になり質問を投げる。

「森を抜けるまであと5時間は歩かないと…。あ、もしかして、けっこう疲れてる?」

ああ、まあそれもあるな。むしろ不安よりもそっちのほうが今は大きいか。

素直にうなずく。すると彼女は、

「じゃあ、今夜は野宿にしたほうがいいかなぁ…」

ちょっと待った。

「...えっ。それ本気ですか?真面目に言ってますか?」

ええ、勿論、とでも言うような表情で頷かれた。

「私は大丈夫なんだけど君がね。丸腰の冒険者をほっとくほど私も悪人じゃないの。それに、君、この世界のことまだまだ知らないじゃない。私、教えるのが好きなの。」

それはご足労どうも。切り替わって、俺はまた疑問に思った。

「ヴィス、あんたはどうして見ず知らず俺を助けようとしてるんだ。」

少し難しい顔になる彼女。でもすぐに答えてきた。

「それは、君が私の夢に出てきたから。」

「そ、それだけ?ただそれだけの理由?」

「そう。ただそれだけで君を助けてる。」

ものすごく真剣な顔で言われた。めちゃくちゃな理由だ。

俺がこの目の前にいる人の夢に出てくるなんて。

ありえないと俺は思った。

「たぶん、今君はありえないと思ってる。でも本当なの。君は私の鍵かもしれない……。」

「待って。・・・今なんて?」

はっ、とした顔になってテキトウな微笑を彼女はうかべた。

「今のは忘れて?あ~でも一回聞いたらなかなか忘れられないよね~」

とかなんとか言いながら彼女はこぶしを握り俺に向かってきた。

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢我慢。」

「待って!忘れる!忘れるって!!」

あら、そうなの、というような表情をして彼女はこぶしをおろした。

再び微笑を浮かべ俺から三歩後退した。

「ひとまず野宿できそうな場所を探そっかー。」

彼女は再び歩き始めた。俺はすぐ後ろを歩く。


「そろそろかな。よっと。」

しばらく歩くと泉と大きな岩がある断崖についた。

「今日はここに泊まろ~!」

「お、お~。」

彼女のテンションについていけない。

「じゃあ、とりあえず寝る場所はこの岩と岩の間ね。上に岩があるから急な雨も大丈夫かな? 私は隣の岩に空いた穴で寝るからー。」

「とりあえず飯が食べたい………」

空腹と疲労のダブルパンチは正直きつい。

「あ~ごめんごめん。今適当に食材出すから、ちょっと待って~」

ゴソゴソと腰に掛けている袋を漁る。

はいどうぞ、と渡されたのは黒くて結構固い紡錘型のパンのような物だった。

とりあえずかじってみる。少し塩っぽくて固い。

「…それ、そのままでも美味しいけど焼いたほうが...」

それを先に言ってほしかった。

「今から火起こすから待ってね。」

数分後、焚き火に二人向かって座り黒いパンを焼いた。

「これ何て言うんだ?」

「これはね、チェイズっていう食べ物なの。小さい時から遠出するときはこれを持って行けって両親から教わってきたの。」

「そうなんだ~。なあ、ヴィスの両親ってどんな人なんだ?」

唐突にそんなことを質問した。

「母さんはとっても優しくって強くて、父さんは賢くて几帳面な仕事人でって、たぶん言葉じゃ言い切れないかな?」

微笑。そしてまた疑問を投げる。

「今両親は何してるの?お父さんはどんな仕事をしてるの?」

その質問を聞いたとたんに彼女は黙り込んでしまった。

無理しなくても、と言いかけると遮られ、

「もうこの世界にはいないんだ。事故だった、と知っている人から伝えられてる。父さんと母さんは一緒に仕事をしていたの。毎日町の周りの森へ出かけて狩猟をしていたんだ。それで・・・ね・・・」

涙声になってきたところで俺は、

「もういいよ。ごめん。聞いた俺が悪かったよ。だから、もう泣かないで。」

気づけばそんなことを言っていた。

彼女はうなずき、潤んだ目を拭った。

「君、優しいんだね。ありがと。」

「あ、い、いえいえ。」

何照れてんのよ、とでも言いたげな顔で睨まれた。


あれからかなりの時間がたった。

食事と雑談を終えて寝床に行こうとした時、ヴィスがふと夜空を指さした。

綺麗な星空だった。

大地を一望できる高い崖っぷち。最高の眺めだ。

遥か遠くに見える大きな山のふもとに街の光が薄っすらと見える。

明日のお昼過ぎには街に着くという。

「明日は街に着けるように今日はしっかり休んでね?」

「了解です、リーダー」

「何がリーダーよ。バカじゃない。ほら早く寝た寝た。」

おやすみを言った後、俺は眠りにつくまでかなりの時間を費やした。

今日会った彼女のこと。この世界のこと。まだまだ分からない部分が多すぎる。

でも一つだけ言えることがある。これはきっと夢じゃない。現実だ。

そんなことを考えていると隣から、か細い声が聞こえてきた。

「・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」

彼女はうずくまって泣いていた。

「・・・・なんで泣いてるの・・。」

とりあえず声をかけてみる。涙ぐんだ彼女がこっちを向く。

ゆっくり近づいてくる。手が伸びてきて、次の瞬間には彼女は

俺の体に顔をうずめていた。

女性経験をほとんどせずに学生時代を過ごした自分には

どうしていいのか分からず、身動きが取れなかった。

「・・・・あのー、ヴィスさん?」

うずめたまま頭を横に振られた。

 

五分、十分その状態が続いた。

「ごめんなさい・・・。初めて会った人にこんな・・・」

「いや、俺は別にいいんだけどさ。」

両者の沈黙。まだ少し彼女の目には涙が残っている。

すぐに疑問を問いかけたくなる衝動を抑え、

「ヴィス、早く寝ないと明日しんどいぜ。」

「・・・うん。」

それだけ言うと俺は自分の寝床に帰った。

明日、普通に話せるかな? そんなことを考えていると

程よい睡魔が迎えに来てくれた。

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