アンダー・クラウド

鼠虫

第1話 目覚め

この現実に嫌気がさす……

「はぁ…酷い夢だ…」

今日も悪夢で目が覚める。

ここ数日やけに鮮明な夢を見ることが多い。

そのおかげでなかなか寝起きが悪い。

ある日、俺はいつもの通り1日分の予定を消化し眠りにつこうとしていた。(なんかいつもより体が重いな)そんなことを頭の中で呟いた。その刹那、急降下するような睡魔に襲われベッドにのたれこんだ。

こんな感覚は初めてだ。だんだん意識が遠のくのが分かった。

俺、死ぬのか・・・?



(……あれ?俺、どうなったんだ…?)

深い闇の中、目が覚めた。

ツルッとした地面がひんやりと冷たい。

俺はその場で立ち上がり辺りを見回した。

もう一つ冷たい感覚が手の中にあるのに気がついた。(なんだ?これ)

握りしめ形を確認しようとしたが、目で見えない以上、突起のある金属の棒かガラスかぐらいの情報しか得られない。

とりあえず俺はそれをもったまま一歩足を踏み出した。

すると、その行動が何かのカギだったとでも言うようにガチャッと鈍く重い金属音がした。俺はもう一度辺りを一望した。すると光の点のようなものが闇の中、ポツンとあるのに気がついた。俺はそれに吸い寄せられるかのように足を進めた。光が近づいてくると、その光はやがてカギ穴のように見えてきた。その時まさかと思い自分の右手を見た。さっきと違い、光源があるおかげで手の中にある何かをしっかり見ることができた。そのまさかが的中した。さっきから自分が握りしめていたのはカギだったのだ。

「おいおい、マジかよ…」

カギ穴を目前にして俺は足を止めた。

カギ穴からは風鳴りが聞こえる。

一度覗いてみたが光が眩しすぎて、とても肉眼で直視できるものじゃない。

「このカギで開けろってか?…ハハハ、とりあえずやってみるか」

俺はカギ穴にカギをさし、ゆっくりとカギをまわした。

全く手応えがない。カチッと少々控えめな音がした。

それと同時にそのカギがサラサラと消え始め、俺はあわててカギから手を離した。みるみるうちにカギは消えていく。完全にカギが消えて俺は、え?もう終わり?と思いかけた。が、次の瞬間、カギ穴から数センチ左の部分に縦方向に大きな亀裂が入り光の直線が走った。

巨大な扉が開くようだ。

光が差し込み、自分の背後に広がる闇が消えてゆく。

ある程度扉が開いてから俺はその先を見て息をのんだ。

朝焼けか夕焼けかは分からないが、その風景に雲海がひろがっていた。とても良い景色だ。自分の後ろにあった闇すべてが消え去ろうとしていた。足元もサラサラと消えはじめていた。

「え、うそ、だろ?まってまって!」

足場が無くなった物体は落下を始める。勿論、掴まる物もない。

絶叫、絶景。俺は空気を必死に掻いた。愚行だ。

絶景をただ見るだけなら良いのだが、その中を落ちるなんて悪夢以外何物でもない。(俺はどこまで落ちるんだ。)

ひたすら落ちる。落ちる中、いろいろ考えた。

これは夢だ。落ちる感覚に襲われれば目覚めて元どおり。でも今現在落ちているのに目が覚めない。

この雲海の下には海か地かーー

(このままだと100%死ぬ。どうにかしないと…)

とりあえず落ちながらも下界を確認した。

俺はさらに恐怖した。

下は暗く森のようだ。イコール地面ということになる。

これでは本当に死んでしまうと思い、飛べもしないのに

両手を羽ばたき、もがいた。

あと1000mもない所まで地面が迫ってきた。

俺は悟った。もうダメだ……、そう覚悟した次の瞬間

急降下していた感覚が急に浮遊感に変わったのだ。

気づけば俺は光の球体の中にいるようだった。

ほんのりあたたかく何とも言えない感覚が全身を覆った。

そしてゆっくりと地上が迫ってくる。

地上につくと光はゆっくりと消失し、俺はしっかりと

自らの足で地を踏んだ。途端に心に嬉しさが湧いて、

「よっしゃー!俺、生きてる〜‼︎」

森の中、若者一人が発狂する。かなりの変人、馬鹿者だ。

叫んだ自分が急に恥ずかしくなって我に戻る。

(とりあえず、あの光の正体は…)

気になって仕方がなかったので俺は周りを見渡した。

「誰かいませんかー?」

すぐ返答があった。

「急に叫びだすからびっくりしたじゃない。」

近くの茂みからゴソゴソと出てきたのは、洋風の古典的な軽い武装をした、薄い金色の長い髪がよく似合う女の子だった。

右手は左腰の短剣に添えられていて、まだ警戒心むき出しの状態だ。

「名前は。」

彼女がそう切り出し、俺は

「えっと、俺の名前は……えっと…」

呆れ顔の彼女。

「もういいわ。自分の名前が分からないなんて。君、どこからここに、どうやって来たんだ?」

続けて俺は、

「どこからここへって言われても…。あ、暗闇で大きな扉を開いたのは覚えてる。扉を開いたら、落ちた。単純にね。それくらいしか覚えてない...」

またまた呆れ顔。

「そ、そうなの。そこから前のことは覚えてないのね?」

頷くしかない。なにしろ本当に覚えてないのだから。

彼女は話しを進めてきた。

「まだ名前、言ってなかったね。ヴィスタリア、ヴィスって呼んで」

柔らかな笑顔でそう言った。数分前の戦気むき出しのとのギャップがあり過ぎてなんだか笑ってしまいそうになった。

「なによ、人の名前聞いて笑うなんて失礼ね」

「ごめんごめん」

そのまま俺たちは夕暮れ、暗い森の中をゆっくりと歩いた。その時、まだ俺は気づいてなかった。これが夢じゃないってことを。

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