復活チートで異世界無双してみた

 田中博太郎は死んでしまった。

 発端は家を出たことだった。十年間引きこもり生活を続けていた彼だが、一発逆転を目指して、年末ジャンボ宝くじを駅前に買いに来たのだ。

 彼の家は駅まで徒歩五分のところにあるのだが、すでに二本の脚で歩くことすら叶わなかった彼は自転車を使うことにした。ペダルを踏むくらいならできると睨んだのだ。

 残念なことに、彼の筋肉年齢はすでに八十代を超えていた。自転車の上でバランスをとることすら不可能だ。無理にペダルを漕ごうとした彼は、自転車を暴走させ車道に出てしまう。

 あっ、危ない! と思ったときにはもう手遅れ。どこからか現れた巨大な七トントラックが田中の頭蓋骨を木っ端微塵に砕く! やはり、家を出てはいけなかった。

 田中の魂はフワフワと天を漂っていた。それを見たのが女神様。なんとなく暇していた彼女は田中を哀れんで異世界に転移させてあげようと思った。

「田中よ、哀れな田中よ」

 女神様はささやく。

「不幸なおまえにプレゼントをあげよう。これから異世界に連れて行ってやるが、一つだけ好きな能力を与えてやろう」

 それを聞いた田中の脳内はフル回転。どんな能力があれば異世界無双できるのか。炎を操る能力とか、電流を手から出す能力はどうだろう。いや、属性能力だと苦手属性があるし……。では、時間停止能力ではどうか、いや、使い勝手が悪そうだ……。知識チートも賢くなきゃ使えないし……。

 散々悩んだ末に、スタンダードが一番という結論になる。復活能力だ。復活さえできればこっちのものだろう。

「復活能力ですね、わかりました。それでは楽しい異世界ライフを」

 転移した世界で、田中が最初に感じたのは息の苦しさだった。その世界には酸素がなかったのだ。

 喚いて、喉をかきむしり、地面を叩く。どうやっても苦しさはなくならない。

 やがて、田中の顔は青くなり、いかなる動きも見せなくなる。酸素がないから死んだのだ。

 だが、ここから復活能力の本領発揮だ。全身の細胞が活性化し、死ぬ前の状態に戻る。

 そして、田中はまた苦しさに苛まれる。首をかきむしって痙攣したすえに動かなくなる。

 もちろん、復活能力は一度や二度死んだところで無効になったりはしない。永遠に能力はなくならない。

 田中は死んで復活し、死んで復活し、死んで復活し、死んで復活する。この世界のどこにも酸素はないため、たとえのたうち回りながら惑星一周したとしても救いはどこにもない。

 女神様に文句を言っても無意味だ。彼女は女神であり、外界に生きる人間が必要とする環境など、知ったことではないのだ。

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