異世界転移したが地の文が皮肉すぎる

 どうやらご大層な能力をもった魔術師の少女がいるようですねえ。ああ、ははは! これはすごい美人だ! いやー、たいしたもんだよ。これほどの美少女は異世界モノすべて見てまわってもどこにもいないって感じだよ! ホントホント! マジでそうだから。

 ん? 例の「美少女」がなにやら魔法を唱え始めましたよ。皆さんご注目! ほらほら美少女さんがすっばらしい魔法を披露するそうですよ。なーんでも、世界で誰も見たことがない召還魔法とか。え? 美少女さん。なに怒ってんです? いや、私はあなたのことを褒めてんですよ。なーんで、怒られるのかなー? その「美しい」お顔が台無しっすよ。かははははは! ほらほら~、笑えよ~、その美少女の美人顔を撮ってやるからよ、へいへい! ピースピース! きゃはははははは! ホントにピースしやがったうける! 

 あー、そうだそうだ。物語を進めなくちゃね。なあ、みんなみんな、この小説には「ものすごい」設定があるらしいぜ。聞いたか? なんでも作者がいうには異世界の設定を考えるのに一年間費やしたらしいぜ。やるなあ! まじでそこまでやるか普通! いやいや、作者さんよぉ、これはいい意味で言ってんだぜ。なあ読者のみんな、そうだろう? 設定考えるのに一年費やすやつがあるかーふつー! はははは! なんつーの、天才っかつーの。なんとまあ、まねできないな絶対。

 さあてさてさて、すばらしい作者様が書いたこの世のものとは思えない美少女さんが誰も見たことも聞いたことも読んだこともない召還魔法を唱えちゃうぞ。どんなになるかなぁー。まずは、その擬音を聞いてみよう。

 ババーン。異世界から勇者が現れた。

 ははははははは!「ババーン」だって、「ババーン」! なんつー擬音だよ。誰も考え付かない、最高の擬音だぜ。もう一回聞いてみようぜ。

 ババーン。

 ばばーん! ばばーん! これが召還されてきた音だもんな! センス最高かよ。もしかしたら文豪になれるんじゃないか? ノーベル文学賞も夢じゃないかもよ? ばばーん! ばばーん! ってね、流行語大賞かよ!

 はい、ババーン。勇者が現れました。

「勇者様、よくお越しいただきました。いまこちらの世界は大変なことになっているのです。どうか助けてください」

 世界の具体的な危機書かないところすごいな、読者に想像の余地を残しておくのか。作者天才じゃないか~?

「分かった。助けましょう。それで、危機とは一体なんでしょうか?」

 すんなりと請け負う勇者。きっと、とてもお優しい性格なんでしょうね、まるで何も考えてないようだ。

「さっきから、地の文がうるさくてしょうがないのです。このままでは精神的に参ってしまいます。勇者様ならば主人公補正で地の文をも殺すことができますので、どうかやっちゃってください」

 へっ! 地の文とはメタフィクションですか。たいそう文学的なことをおやりになるの……っえ!? ちょっと待て、地の文って俺のことじゃねぇか! え? 殺す? え、ちょっと待ってどういうこと?

「分かりました、では、この伝説の剣で一刀両断しましょう」

 待て! 待て! 俺は地の文だぞ! なんでもできるんだぞ! 止めろ! 剣を置け。置くんだ! 近づかないでくれ! お願いだ! 話せば分かる! 命だけは、命だけは助けてください! いやだぁ! 死にたくない! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!

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