異世界転移したけど主人公が最弱すぎる

「マジカルトピカルカルシウム! 異世界の勇者よ来たれ!」

 古めかしい呪文とともに、魔法少女は杖を振るった。今日は魔法学校の期末試験、世界を救う勇者を召還するのが課題だ。この日のためにわざわざ魔王を復活させ王国を危機に陥らせているくらいだ。

 魔法少女たちは次々とチートスキルを持った勇者たちを召還する。ある者は、他人を転ばせることが異様にうまく。ある者は、プレゼン能力が異様に高い。また、ある者は天気を正確に予報することができる。

 そのなかで、正真正銘の落ちこぼれ魔法少女がいた。彼女は実は秘めたる才能をもっていたとかでは全くなく、本当の落ちこぼれだった。

「まっ、まじかる、かるぴす、かんがるぅー、異世界の最強勇者よ来たれ!」

 落ちこぼれのため、簡単な呪文も唱えることができない。それにも関わらず、最強勇者を求めるという贅沢をするものだから、大変なことが起こった。呪文が反転して最弱の勇者を召還してしまったのだ。

「あれ? ここはどこ? うわわわわわあわわあわ! どこだ! どこなんだぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」

 最弱勇者は、突如として見知らぬ異世界に転移したことに驚き、心臓発作を起こして死んだ。

「ありゃー、勇者を死亡させてしまいましたね。復活の呪文を唱えてあげなさい」

 先生が注意する。

 魔法少女は勇者を復活させた。

「は! なんだ、夢か……。ぐわぁぁぁぁゎわぁわわ! 夢じゃなかったぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」

 勇者は異世界転移が夢ではく現実の出来事だと知り驚いて、心臓発作で死んだ。

 魔法少女は再度、復活の呪文を唱えた。

「はあはあ、生きてる……。死んだのに生きてるどういうことだぁぁぁぁぁぁあっぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 勇者は一度死んだのに生き返ったことに愕然として、心臓発作で死んだ。

 魔法少女は三度、復活の呪文を唱えた。

「勇者さん、大丈夫です。あなたは異世界を救うために召還だれたのです」

 魔法少女は勇者の手を握った。

「ぎゃあああああああぁぁ!」

 勇者の手が砕け散った。

「あわわ、大丈夫ですか!?」

 魔法少女は勇者の肩を抱いた。

「やめろぉおろろろろおおおおぉぉおお!」

 勇者の肩は砕け散った。

「あ、これは一度殺したほうが早いですね」

 魔法少女は勇者の腹、脚、頭を蹴った。勇者の腹、脚、頭は玉砕され、血と臓器があたりに散らばった。

 魔法少女は四度、復活の呪文を唱えた。

「あなたは勇者として選ばれました、異世界を魔王から救って下さい」

「ぼくがっ……、そんなっ、できません!」

 勇者はとてつもない大きな責任のプレッシャーから自殺した。魔法少女は五度目の復活の呪文を唱える。

「大丈夫です、すべてのステータスをマックスにする秘術があります」

「それを先に言ってくださいよ」

「ではかけますね」

 勇者のステータスがマックスとなった。攻撃力、防御力、素早さが最大となる。

「しかし……、これほどの力、一個人が持っていいものだろうか……!?」

 勇者は実存的な悩みをかかえて自殺した。魔法少女は六度目の復活の呪文を唱える。

「安心してください、あなたにはその資格があります」

「そっかー、それなら安心だなうっうう!」

 勇者は呼吸困難となって倒れた。攻撃力がマックスになるということは免疫力がマックスになることを意味し、過剰な免疫力で自身を攻撃してしまうアナフェラキーショックが発生したのだ。勇者はアナフェラキーショックで死んだ。

「恐ろしく使えないな、こいつ」

 魔法少女はイライラして勇者の死体を蹴りながら七度目の復活の呪文を唱える。

「勇者になったらいいことがたくさんありますよ」

「たとえば」

「ハーレムを形成できます。セックスし放題ですよ」

「セックス……しかし、こんな原始的な世界では性病にかかってしまう……! 怖いよ、怖いよ!」

 勇者は性病を恐れるあまり想像性病にかかってしまい死んだ。

 魔法少女は七度目の復活の呪文を唱えようとしたがMPが足りなかった。

「時間切れです! はい、勇者が世界を救えなかった人は夏休み中も補習ですよ」

 先生が冷酷な宣告をする。

 魔法少女は周りを見た。他の生徒の勇者はやすやすと世界を救っている。他人を転ばせることがうまい勇者は魔王軍を転ばせ、プレゼンが異様にうまい勇者は士気を鼓舞し、天気予報が異様にうまい勇者は天気を利用した有効な戦術を立案していた。彼女は自分に才能が無いことを思い、静かに涙を流した。

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