異世界転生したけど地の文が百合厨
平凡な女子高生、山田ナオトは下校中、トラックと正面衝突する。
「ちょっと待てよ! 俺は男だ! 勝手に女子高生にするな!」
うるせーよ! こっちは地の文だぜ。おまえのようなキャラクターとは格が違うんだぞ、格が。
「いくら格が違っていても勝手に性別を変えるのは横暴だぞ! それに百合なんて流行らない!」
なっ、なんだと! 百合姫も月刊誌になったし、流行ってるぞ!
「へへーん、ウェブ小説はハーレムものが鉄板なんだよ。それにおまえ地の文なのにそんなに動揺していいの?」
それもそうだな。おほん。山田ナオトはトラックと衝突して、背骨を骨折した。大動脈が切断されシャワーに血が放出。眼球も飛び出し顎もはずれ醜い姿と化した。しかし、彼はまだ生きていた。意識があったのだ。想像だにできない苦悩だ。彼が死に到るまでの三分間、意識上では永遠に感じられた。その間、早く殺してくれ、早く殺してくれとそれだけを願い続けていたのだ。
「ぐっげげげげげぐふぅっっっ! 痛い! 痛い! やめろ!」
というのはただの夢であり、山田ナオトは悪夢から解放されたという安堵感から深く息を吸った。
「はぁーあ、はあ。ふぅーう、ふう」
山田ナオトは地の文の能力に恐れおののき、これからは女子高生となって百合展開をしようと決意した。
「決意してねえぇええええよ!」
おや、まだ抗うのか。これもキャラクターの性か……。
「なんだよあれ!」
これが地の文の能力だ。この小説の中ではわたしにできないことはない。全能の存在だ。
「全能の存在でも勝手に性別を変えるな!」
平凡な女子高生、山田ナオトはなおもそう言っていたが、地の文には勝てないことは明白であった。
「あのー、そろそろトラック衝突させますけどいいでしょうか」
あ、運転手さんですか。すいませんねえ、いま準備しますので。ほら、山田も準備だ、配置に付け。
「ったく、わかったよ」
ごごごご! トラックが平凡な女子高生山田ナオトを押しつぶす!
「その設定、まだ諦めてなかったのかよ……」
暗闇が広がったあと、長い髪をした女性が現れる。「うわあ、綺麗な人……」ナオトは同性ながら思わずドキッとしてしまった。
「おい! 止めろ! あ、女神さん。なんだか地の文がおかしくてね」
「そうですね、どうやら地の文が百合厨になってしまったようです。このままでは話が進みませんね、どうしましょう」
女子高生ナオトは女神の顔を見ると心臓が高鳴った。なんだろう、これは。彼女はいままで恋というものが分からなかった。男の子からも告白されたことがあったが、そのときもこんなに胸がドキドキしたことはなかった。
「おい勝手に別の話にするなよ」
「これは重症ですね」
そっちこそ、勝手に喋りだすな。キャラクターは地の文のいうがままになればいいんだよ。読者にとってキャラクターの描写の基盤となるのは地の文だぜ。外見も内面も、地の文があってこそ存在できる。台詞なんて地の文に比べれば信頼性は格段に落ちるんだぜ。
「ではこうしましょう、わたしが女神の力でナオト様を女体化します。そうすれば地の文様の言うとおり百合になるでしょう?」
ぐわぁゎわわわわあぁぁああわわあわぁあああああ! なに言ってやがるぅぅぅううおおおああおああおあぅぅぅぅ! 女体化は百合じゃねぇえぇええええええええええええええぇぇぇえぇぇぇぇ! ジャンル違いだ! こちとらそれでどれだけ苦労してるって思ってんだよぉおおおおおぉぉおおお! と地の文は怒り心頭に達し、女神は異世界に飛ばされてしまった。そこで魔道士のオタク美少女やエルフの奴隷少女やツンデレ貴族などと一緒に冒険し、愛情を深めて百合展開となっていきましたとさ。
「まて! 俺のハーレム展開はどこに行った!」
男子高校生山田ナオトは女神の残した仕事を引き継ぎ勇者たちにスキルを渡す任務を一生が終わるまで続けましたとさ。おしまい!
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