異世界転生の語り手が信頼できない
異世界に転生したときのことですか? ええ、よく覚えてますとも。あれは私が高校生の頃です。いや、大学生だったけな。制服を着ていたような気もするのでやはり高校生か中学生かのどちらかでしょう。ひょっとすると小学生かもしれません。とにかく、学生時代ということは確かすぎるほど確かです。いや、無職のときだったかもしれない。うーん、ブラック企業に勤めていたときかも。いやいや、やはり高校生のときです。
わたしが高校生のとき……だったかな? 交通事故で死にました。トラックに轢かれたのです。いや、ダンプカーかな。なんだかよく分からないけど赤い車です。そしたら、ええと、赤い光、いや紫、桃色だったかもしれませんが光が溢れて、私を包み込み上? に引きあがる? ような感覚に襲われました。エレベーターが上昇したような感覚に近いような気もしなくもありません。しかし、私が別の場所に移動したということは神に誓って本当です。
気づけば、女神が私の前に立っていました。え? どうして女神と分かったって? なにを言っているんですか、女神が前に立てば誰でも女神だと分かるじゃないですか。いや、分からないと。そうですね、それではこういうのはどうです。その女性は胸に『女神』という名札をつけていたということにしましょう。これで私はその女性が一目で女神と分かったということを納得していただけましたか?
女神はいいました「おまえは手違いで死んでしまった、かわいそうなので異世界に転生させてあげよう」と、いや「異世界に危機が迫っています、あなたの力をお貸しください」でしたっけ? さもなくば「おいおまえ、スキルやるから異世界行け」かもしれません。とにかく、その女性か男性かもはやよく覚えていませんが私の目の前か後ろにいた人物あるいは人物以外は、異世界に行けといったんです。本当です、これは。
そんなこんなで、私は異世界へと転生あるいは転移しました。次の瞬間、私は屈強な黒騎士となっていたのです。間違いました、貧弱な黒騎士です。いや、黒騎士というよりも悪役令嬢に近い存在なのかもしれません。もっと正確にいうとリビングデッドやスケルトンなどの人外的な存在であったかもしれません。とにかく、非常に強いことは確かです。そこは本当なんです。信じてください。信じてくれないと話が進みません。どのように強かったって? それは……。魔法ですよ、魔法がすごいんです。例えばですね、「ファイアー」と叫べば火が出ます。ぼうぼう火が燃えるんです。木が燃えて人が燃えて街が燃えて山が燃えます。ぼうぼうぼうぼう。うわー火事だ助けってーてみんな悲鳴を上げるんですよ。「ウォーター」と叫べば水が出ます。じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ。海水量よりも多い水が出て相手を溺死させます。怖いでしょ。どうだ参ったか。魔法だけでなく剣術も強かったですね。伝説の魔剣と幻の聖剣の二刀流でさくさくさくさくと相手を切り裂きます。いやあ、なんでも切れるんですよ。木とか人とかだけではなく家とか山とか海とかもね、帝国軍の馬二千匹と象五百体を切ろうとしたら異世界の全ての動物を切ってしまったこともあったなあ。あれはいい思い出だ。剣と魔法でなく、現代テクノロジーのスキルもあるんですよ。例えば……そうですね、スマホです。スマホによってなんでも情報が出てくるんですよ。明日の天気とかね、それで戦略を練って戦争に勝利するんです。私は指揮官? 元帥? になって暴虐をつくす帝国を打倒して世界に平和をもたらしたような気がなんだかしてきました。
あとたぶん恋人がいるはずです。ヒロイン? というやつですかね。とにかく、美少女であることは確かなような気がするような、しないような。いや、美少女であることだけは確かでしょう。髪型はピンク? 青? 黄色? そのうちのどれかでしたよ。いえ、そうだ、思い出しました。ピンクと青と黄色のグラデーションをしたカラフルな髪色なんです。カラフルな美少女です。魔法使いをやってましたよ、私の補助役でね。主にザコキャラを剣で倒す係りなんです。あと薬草などを利用して回復薬を作るんです。武器を合成して新しい装備品を作ったりもします。踊ってパーティを楽しませたりもね。まあ、不器用な子ですよ。スキルは上級だけど全振りなんです。
それでどうしたかって? ええとですね、そう、そうです。帝国を倒したんです。魔王も倒しました。邪悪な魔女も倒しました。世界を支配していた竜王も倒しましたし、地下の巨大ワームも倒しました。突然変異した凶暴な亀も、宇宙の彼方から飛来したUFO軍団も、未来世界から歴史干渉しにきたロボット軍団も倒しましたよ。私は勇者なのですから。本当ですよ。私は言ったことは全て本当なんです。
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