第10話

 ある雨の日。

 僕はまた、アイを連れ立って智昭の家を尋ねていた。アイには来なくてもいいと言ったのだが、彼女はどうしても行くと言って聞かなかった。

 今日は僕ら以外にも、多くの来客が訪れている。皆ダークスーツや濃紺など、黒を基調にした服装をしている。

 池永家の周りには白や淡い桃色の造花が並べられ、湿った空気に線香の香りが揺蕩っていた。

「この度はお忙しい中お越し下さり、あ、ありがと、う、ござい、ござい、ます」

 喪主の幸子さんが、涙ながらに参列者に挨拶をしていく。

「この度は、ご愁傷さまでした」

 僕とアイも幸子さんに一声かけ、線香をあげる。遺影写真には生前の、まだ痩せていた頃の智昭の写真が飾られていた。

 智昭の葬儀は、粛々と進められていく。智昭の家柄からか、参列者の数も多い。僕とアイは人と人の間を縫うように、家の外へと抜けていく。

「死因は何だったのかしら?」

「口座から、結構な額が引き落とされていたようだ」

「アレルゲンによる心停止だったらしいわよ」

「どれぐらい卸されていたんだ?」

「じゃあ、食べ物のアレルギー?」

「また智昭くんが、何か買ったんじゃないのか?」

「ペニシリンじゃない?」

「それはありそうだな」

「そんなまさか」

 皆口々に勝手な推測を立てる中、僕とアイはその噂話に背中を押し流されるように、智昭の家を後にした。

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