第4話

 駐車場から物音が聞こえる。気になった俺は、分厚いカーテンを少しだけ開けた。窓の外には、引っ越し用のトラックが止まっているのが見える。

 このアパートは入居者の出入りが激しいので、俺は特に気にせずカーテンを閉めた。夏の日差しがカーテンに遮られ、真っ昼間だというのに、俺の部屋は薄暗い。

 光源といえばカーテンの裾からわずかに漏れる光と、先ほど電源を入れた、俺が愛用しているノートPCのディスプレイの光のみ。

 やがてノートPCのOSが立ち上がり、いくつかのショートカットアイコンと壁紙が表示される。

 俺はそれを、正確には自分で設定した壁紙を、恍惚の表情を浮かべて見入っていた。

 壁紙に設定されているのは、当然愛しの我が妹だ。それ以外にありえない。それ以外考えられない。

 こちらに向かって愛くるしい表情を浮かべる妹に、俺は思わずディスプレイ越しにキスをした。

 あぁ、なんて可愛らしいんだ。なんて美しいんだ。なんて完璧なんだ。

 俺の妹は、完璧過ぎる。

 俺は妹がいかに可憐で、流麗で、婉麗で、優艶なのかを綴り、自分のブログに更新した。無論、妹の写真はアップしていない。そんなことをすれば、たちまち妹が世間に注目され、俺たちの関係が壊れてしまうからだ。

 ブログの更新が終わった後、俺は妹の写真を幼少期から順に眺めていく。あぁ、なんて完璧なんだ、俺の妹は。

 俺の『理想の妹像』を完璧に具現化出来るのは、俺の妹しかいない。

 しばらくディスプレイの中にいる妹を愛でていると、もう大学院に行かなければならない時間になっていた。

 いけないいけない。妹のことを考えていると、すぐに時間が経ってしまう。大学院に行く準備をしなければならない。

 俺は外出の仕度を済ませると、ついでに溜まった燃えるゴミを出すことにした。

 カバンを肩にかけ、大きく膨らんだゴミ袋を右手に持ち、俺は家の外に出る。

 ゴミ袋の中には、大量の男物の下着が入っていた。

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