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「お家に招待する、の」
「・・・は?」
疑問を含んだ声に来てくれないのかと思い咲也子はお菓子でつることにした。しかし、別にティオヴァルトは行きたくなかったわけではない。
「ティオ、おいしいお菓子もある、の」
ただ、何を言われているのかわからなかっただけだ。ただ、このままここに置いて行かれるのではないかと、思っただけだ。通常の奴隷であれば喜ぶはずのそれを、ただ恐ろしいことのように感じた。
抱えられたまま、ティオヴァルトの頭を咲也子が抱え込む。子供特有の甘い匂いがティオヴァルトの鼻孔をくすぐった。思わず硬直したティオヴァルトに咲也子が続ける。
「ご飯3食、お昼寝付、き。おやつは1日に2、回」
「食ってばっかじゃねえか」
「家の周りの魔物たちはみんな強い子、だ」
「行く」
即決だった。
咲也子は自分では絶対につられるような条件には一切引っかからずに、強敵と聞いて決断したティオヴァルトに、頭を抱え込む力を少し緩めた。
基本的に、ティオヴァルトは強敵に飢えている。奴隷となるまでは強敵を求めて戦略迷宮を旅してまわり、その迷宮踏破の功績が讃えられ、Sランカーただ一人のソロとなってしまうくらいには。
ただでさえ、最近は咲也子と一緒にいることで、戦略迷宮巡りなんてできない日々。それが嫌だったわけではないが、そんなところにおいしい
もちろん、そんなものがなくったってついて来てもいいと言われたのだから、喜んでついていったが。
そんな2人のやり取りが終わるのを、<当千>をなでながら待っていたツキヒが口を開く。
「帰る?」
「帰、る」
「連れてくの?」
「ん」
「転移石、設置してきたよ」
「ツキヒえらい、ね」
単語の会話が開始された。
親指をたてて見せるツキヒに、咲也子がティオヴァルトに抱えられたままその頭をなでた。それとないように2人の会話に聞き耳を立てていた冒険者たちは総じて顔に疑問符を浮かべている。この単語の会話は、わかりやすいと言えばわかりやすいが、わからないと言えばまったくわからないからだ。つまり、わかる人しかわからない。
「ティオも一緒に、お家帰る、の」
全ての会話の終着点はその一言に尽きた。
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