3
「ティオ、蛇さばけ、る?」
「は?」
フードを外しながら、唐突に咲也子にされた質問の意味が分からなかった。
今ここに捌かなければならないような蛇はないよなとあたりを見まわす。
食堂で昨日と同じメニューを少し少なく注文して、昨夜と同じ場所で昼食を取ろうとやってきた。
ため池の前のベンチはやっぱり人気がなかったし、目の前にいる<壮麗>以外に蛇らしい物体は尾の先ほども見られなかった。
目があった<壮麗>が怯えたようにその無数に生える羽を震わせた。
「これなんだけど、ね-」
「!?」
【アイテムボックス】から冷凍された大蛇をだす。空中からいきなり現れたように見えるそれに。
ずどぉん、と重い音を立てて放りだされたそれは予想もしていなかったような大きさで、Sランカーただ一人のソロともいわれているティオヴァルトも思わず後ずさった。
存在するだけで春の日差しに温められた空気の熱を奪うかのようなそれに、思わず横に置いた大剣を手に取る。
素早い反応に悪くはないなと思いつつ咲也子は布越しとはいえそれを掴んで冷えてしまった手を温めるようにもんだ。
「どうしたらいいか、わかなく、て」
「<虹蛇>の・・・希少種か」
つくづく、き少種に縁があるらしかった。穴の中で見た時には黒かったそれは、光の下で見るそれは黒を基調としてしてはいるが弾く光を虹色に輝かせていて。確かに<虹蛇>という種族名にふさわしかった。
まあ、それが春のうららかな日差しの中にあって違和感がないかといわれれば、むしろ違和感しかないというしかなかったが。
ティオヴァルトが腕まくりをする。がっしりとした筋肉に覆われた腕を見せて咲也子から<虹蛇>を受け取る。
ティオヴァルトは自分のマジックバッグの中から解体に必要なナイフや鱗をはがす道具を引っ張り出し、広げた麻の敷物の上に<虹蛇>を転がす。日差しの温度差で徐々に解けてきたそれの鱗の隙間に道具を突っ込みはがしていく。2/3ほどの鱗をはがし終えたところで、残っていた鱗がすべて消えてしまった。
不思議そうな顔をして質問する咲也子に、結構な労力のいる作業に若干汗をかきながらもティオヴァルトは教えてくれる。
「ドロップアイテムを落としたら、すぐに消えると思ってたんだけ、ど?」
「まだドロップアイテムがあるってことだろ。たまにあんだよ。スクールでもやるけど。あんた運、いいな」
「それがキメラの本質だから、ね」
「・・・どういうことだ?」
「世界を自分の都合のいいようにまわす能力が、全ての
褒められながらも昨夜‘暴食‘した知識の中では当てはめられなかったそれに、やっぱり実施の方がどんな机上の知識よりも身になるなと咲也子はうなずきながら答える。
理解の範疇を越えたのか、納得したのかはわからないがティオヴァルトは眉を顰めるだけだった。
ドロップアイテムや解体の方法についてもスクールでも教わると聞いて、咲也子の中の‘暴食‘が暴れて、一瞬目が青く光る。ますます行ってみたくなった。
ちなみに、今までティオヴァルトが1回にドロップしたアイテムの中で一番個数が多かったのが<騎士>の雷属性を倒したときに、鎧と剣と飛び散った魔石だったらしい。つまり3つ。飛び散った魔石はどういう風にカウントするのか尋ねようとしたところでしゃがんで解体作業を行っていたティオヴァルトが立ち上がる。考えている間に終わったらしい。
「鱗と肉と魔石だな」
「3つ、も。大収穫、ね」
「本質か?」
「本質、ね」
咲也子があらかじめ用意しておいた大きめのバットにあふれんばかりに乗せられた肉と鱗。ティオヴァルトのおおきな手のひらには乗り切らなかったと思われる水晶大の魔石が握られていた。
バットから1枚鱗を取り出して、鱗きれいねーとひんにしゃべりかけている咲也子は、ひんが自分の腹部の鱗を見ながら実に微妙な表情でうなずいていたことに気が付かなかった。
春の陽気の中で肉を出しっぱなしにしておくのは衛生上どうかと思いティオヴァルトは咲也子に声をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます