「肉、どうすんだ? このまま置いとくと腐るぞ」

「焼肉しようと思っ、て」


 【アイテムボックス】から串から着火剤までそろっているバーベキューセット一式を出す。なぜそんなものが入っているかというと、知識に触発された‘暴食‘と食欲に触発された‘強欲‘の二人の蛇に頼まれて咲也子が購入したためだ。あの時の2人の勢いはすごかったなと思いつつ、持っている経緯をティオヴァルトに話すとこちらも微妙な顔をした。


「いや、神の一部って奉られてるわりには。あー・・・イメージとだいぶ違うんだな」


 何を言いたいかはよくわかる。言わないでいてくれたティオヴァルトのやさしさに咲也子は遠い目をした。


 そんな会話をしつつもティオヴァルトの持っている解体用のナイフで肉を切り、咲也子が串に刺していく。火種としてはひんが‘小さな火球‘で火をおこすことに成功していた。水属性なはずなのに、なぜ火属性を使えるのかは謎である。       

 速やかに準備を終え、下味として塩コショウ、乾燥パセリなどを振りかけて網の上に置く。後は焼けるのを待つばかりだった。


「あんた、どうして冒険者になったんだ?」

「どうい、う?」

「いや、なんか目的があって冒険者になったのかと。だってあんた、神様なんだろう」

 

 ぱちぱちと炎がはじけながらも肉が焼けていく音の中、ティオヴァルトは問いかけた。袖ごと火に手を当てながら温まっている咲也子はきょとんとティオヴァルトを見返した。神と讃えられ祀られている咲也子がなぜ、こんな危ない仕事をしなければならないのか。

 

 主神殿すら投げ出したティオヴァルトの呪印を解いたときに、少なくとも呪印が解けるという加護持ちだと言えば。日々の生活に困るようなことはなく、むしろ諸手をあげて歓迎されるだろう。それくらいに加護持ちは貴重なのだから。

 どこかで鳴いた鳥の声を背後に、咲也子は焼けた串を手に取る。ふーっと息を当てそれを冷ましてひんに与えながら、答えた。


「観光したくっ、て」

「は?」

「冒険者じゃないと、入れないところあるらしいか、ら」

 

 だから冒険者になったんだ、と答える咲也子に、食いちぎりかけた肉を落としてしまった。

 何かが落ちた音に振り向いた咲也子と目があう。黒々とした幼い瞳が不思議そうにこちらを見てくるのを見て、思わずこちらが間違っているのではないかと思ってしまったティオヴァルトは悪くないと思いたい。


「そう、か・・・」


 少なくとも、ティオヴァルトの知っている冒険者たちのなかで、観光のために冒険者になりましたなどという話は聞いたことがなかった。頭を抱えたい気分で、落とした肉を拾い草むらの方に投げる。疲れたように大きくため息をついて、もう一度肉にかじりつく。

 

 下味のついた蛇肉はあっさりとしていてどこか鶏肉に似ていて旨かった。もそもそと一生懸命に肉をかじっている咲也子を横目で見てから空を見上げた。今日も雲一つない、晴天だった。

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