「冒険者登録、お願いしま、す」

「いけません。あなたのように幼い子を冒険者に推薦するような人はここにはいません」

「俺が推薦人だ」

「何しちゃってくれてるんですか!?」


 さっそく断られてしまった。やっぱり先日に成人していることを伝えたのは本気にされていなかったらしい。

 断ったミリーにティオヴァルトが咲也子の推薦人であることを告げるとまるで鬼でも見たかのような顔でティオヴァルトは睨まれた。ミリーは顔芸が豊富だなとどこかずれたことを考えながら、咲也子は試験の合格証明であるスタンプ帖をウエストポーチから取り出して見せる。


「合格してきまし、た」

「おめでとうございます。ええ、冒険者登録には必須ですね、わかってますよ! 冒険者登録だってできるのはわかってるんですけど・・・! 冒険者。汚いマッチョじゃない、冒険者・・・あれ? 悪くない? むしろ良い?」

「あの女失礼なこと言ってねえか?」


 冒険者・・・汚いマッチョ・・・と偏見を全開にして呟いているミリーに、ティオヴァルトが冷たい視線を送る。

 きれいなマッチョもいると思うよと咲也子は心の中で念じておいた。そうじゃない。


 ミリーがあきらめたようにうなだれながらも必要書類と思われる紙をデスクから取り出す。抱えられている咲也子の前に差し出されたそれは2枚重なって、下に転写するタイプの用紙だった。


「こちらに、お名前と、年齢、パーティメンバーの名前の記入をお願いします。テスター、お持ちですよね? こちらに種族名と愛称を書いていただきますと、登録されて盗難防止にもつながります。この太枠のところですね。所属ギルドは冒険者ということなので赤となります。また、発行国やランクなどはこちらで記入させていただきますが、討伐履歴などを確認のための魔石に主人登録させますので、こちらの針に指をさしていただいて、血液をプレートについている魔石に吸わせてください」


 うなだれながらも仕事を全うしようとする心持ちは見事で、実際有能ではあった。

 ティオヴァルトに腰を抱えてもらうことで受付のカウンターに高さを合わせ、教えてもらった箇所に記入していく。パーティ名は別に無記入でも構わないということであったので無視した結果、1分もかからずに書き終わった。

 その次は、と突き出た一本の針先を見る。その下には雫型の紅石が揺れてそれを守るように針の下が囲っていた。見るからに鋭いそれに。


(痛そうだなぁ・・・)


 思いつつも針に指をさし、ぷっくりと小さな血の球が指先にできたのを確認してギルドプレートの透明な魔石にその指をあてる。予想よりは痛くはなかった。


 前でミリーが声のない叫びをあげ続けていたのが妙にうっとうしかったし、ティオヴァルトが先ほどよりも鋭くなった冷めた視線をそんな受付嬢に向けていた。

 そんな様子に周囲でうかがっていた冒険者たちは苦笑いをしていて、中にはミリーほどではないがはらはらとした視線を投げかけている者もいた。

 

 すうっと透明な魔石に血の球が吸い込まれると同時に書類に書かれた文字が、同調したようにうねってプレートへと移行していく。すべての文字を移し終えると同時にプレートが強く光り魔法陣の刻まれたなかに、赤く染まった魔石が特徴的なギルドプレートが完成した。


 おずおずとそれを手に取って、ランクD 咲也子と自分の名前が書かれているところを見て、完全に自分のものだと思ったのか、咲也子がまた花をまき散らさんばかりに空気をやわらげた。


「おれ、のー」

「よかったな」


 とりあえずの目的は達成した。

 嬉しそうにギルドプレートを掲げた咲也子に周囲の冒険者からは生暖かい目とミリーからは止まないのではないかと思われるほどに激しい拍手が送られた。

 プレート作成後。ティオヴァルトに降ろしてもらい掲示板を見ににいったものの力仕事や体力のいる仕事などばかりで、咲也子ができそうな依頼は一切なかった。

 

 古い依頼は月一で消化されるのだとミリーが教えてくれ、その月一の日が昨日らしかった。咲也子はしょんぼりと肩を落としてティオヴァルトの腕の中に戻っていった。

 一連の行動中も生暖かい目線は止むことはなかったことをここに記したい。

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