第78話 エピローグ 2

 ____ザッザッ ザク


 月のキレイな夜。

 冬の寒さで、夜空の星もよく見える。


 ____ザッザッ ザク


「……悪いわね、夜子ちゃん」

 木にもたれた愛ちゃんが言う。


 ここは森。

 月明かりだけが辺りを照らしている。月は銀色の光。暗闇の中に降り注いでいる。


 そんな中、私はシャベルで土を掘っていた。

 

「いいよ、土を掘るの慣れてるから」

 私は愛ちゃんに言った。


「……そう」

 

 シャベルを付き入れる。

 驚くほど簡単に穴が掘れる。まるで、ここに穴が開くことが決められているように。


「あーあー、これで終わりかー。嫌になっちゃうわね」

「うん?」

「……もっと生きていたかったわ」

「……うん」

「翔太のこと、よろしくね? ……てか、アイツ私が居なくなって悲しんでくれるかな?」

 愛ちゃんは難しそうな顔をして言う。


「悲しんでくれるよ」

 翔太君は、とても悲しむと思う。


「そう、なら良いか。いや、それもなんか、辛いわね」

「うん」

「……あぁー! なんなのこれ!? 死ぬってことは分かってたのに、何なの。全然気持ちの整理つかない。ぐっちゃぐちゃ」

「うん」

「もっと穏やかな気持ちになるのかと思ったけど、違うもんね」

「うん」

「ね、ね。もしもね、翔太が私のことコロッと忘れて、他の女にいったら殴っといてね?」

「うん」

「それでね、もしも……私のことで悲しんでたら、それとなく慰めてやって?」

「うん」


「……ま。それなら……良いか。安心した」

 愛ちゃんは言う。


 ____ザッザッザク

 もうすぐ穴は完成する。

 もっと土が固かったらよかったのに。


「あんたはどう? 少しは思い出した?」

「うん、まあまあかな」

「……まあまあか」

 

 夢を見ているように、おぼろげな思い出。

 有ったような、無かったような。

 思い出そうとしたら、消えてしまう。


「……お、掘れたじゃん」

「掘れたね」

「ご苦労ご苦労……よいしょっと」

 愛ちゃんが、穴に入る。


「なんかオッサン臭いよ愛ちゃん」

「良いでしょ別に……あーなんか良い感じ」

「そう?」

「うん、じゃあ。埋めて夜子ちゃん」


「……うん」

 愛ちゃんに、土をかける。


 ああ、どうして。

 夢のような思い出。楽しかったことは間違いない。

 終わらないものは無い。

 どれ程親しい人も、愛しい人も、いつか別れが来る。

 わかっていた、わかっているハズだったのに。

 ああ、私はわかっていなかった。

 何気ない日常、その価値を。

 どうして私は今になって気づくんだろう。

 

「あー、夜子ちゃん、夜子ちゃんや。そんなに泣かないでよ」

 愛ちゃんが言う。


「……うん」

「まあ、悪い気はしないけどね」


「じゃあね、さようなら」

 愛ちゃんが私を見上げている。


「……さよなら」

 私は言った。

 

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