第77話 エピローグ 1

 私は考える。

 敗者は惨めである……惨めであるべきだ、と。

 

 ____マンションに大量の遺体! 無差別、連続殺人か!?


「クス」

 ちんけな新聞の見出しに、笑う。

 こういう時は笑うしかないでしょう。


 浅上いのりは追われている。

 世界の中でも優秀で勤勉、賄賂を受け取らないと評判の日本警察さんに。

 

 既に口座は凍結された。

 持ってる現金は三百万。いやこのお金は、いつかの借りをきっちり返してくる百合カップルから頂いただけ。


 ……ああ、なんて惨め。


「カミ様。かみ様」

「……なあに、エリさん?」

「お腹スきました、ナニか食べるものを」

「……ごめんなさいね、もう無いのよ」

「そうですカ……」

 

 エリさんを見ると、腹が凹んでいる。 

 もともと死体処理用に作ったから燃費が悪い。

 

 もう私には何の力もない。

 死体を調達してくるのは無理がある。

 加えて、エリさんもそうだ。

 辛うじてしゃべってるだけ。しゃべれるだけの死体。力はない。エリさんの口元に肉を差し出しても噛めやしない。 

 

 ……まったく、どうしようもないわね。

 

 まだ警察に見つかっていないであろう、安アパートの一室。

 私たちはそこで息を潜めている。

 

「でハ神様……」

 相変わらずの神様呼ばわりに腹が立った。


「やめて、エリさん。私は神様じゃあないわ」

「ワタシは、そろそろのヨウデす。カミサま」

 エリさんをよく見る。

 なるほど、体が崩れている。確かにそろそろだ。


「では、これで失礼しますカミサマ」

「そう。さようなら」

 エリさんは動かなくなった。

 当たり前だ、死体が動くはずはない。


「さて、と」

 では考えましょう、これからの事を。

 少しでも長く生き延びる為にはどうするかを。


 だって、死ぬのはゴメンですもの。

 今、ココで、死ぬのだけは。

 

 私が私であるために。

 

 世界に修正されるうちは死ねない。


 私は、浅上いのり。それ以外の何者でもないのだから。


 さあて。

 苦しく、醜く、生き汚く、そして惨めに。


 生きていきましょうか。


 くすくすくすくす……。

  

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