第68話 そろそろお終い?
ネットサーフィンならぬ、ネットカフェを
……でも、そんな気はしてた。アイちゃんの生息域にネットカフェは含まれていない。ネットカフェで泊まるくらいなら、アイちゃんは何処かの空き家に不法侵入して寝てそうだ。
「さっきの場所で最後ですが……いませんねえ」
__バタン。
車に乗り込みながら、山田さんが言う。これで市内のネットカフェはすべて回った。次に行く当ては無いので、私たちは駐車場に止めている車の中で作戦会議を始める。
「そうですね」
「うーん……今回は親御さんの協力もないし、警察の人海戦術も使えない。携帯は持ってない。探す当ては……本当になし。困りました」
そう言う山田さん。でもその顔は少し、笑っているような?
「困りましたか?」
「……はい! 困りましたよ! もう、僕に出来ることは殆ど無いです。探す当てもない、困りました。で……ですよ」
「……はい」
「困ったときは、浅上さんですよ!」
そう言うと思った。
「……えっと、その。私が依頼してるんですけど?」
「良いじゃあないですかぁ、そういうことは。目的は愛さんを発見することです。細かいことは気にしない気にしない。ああ、浅上さんが見つけた場合は依頼料要りませんから。なんせ、僕。何もしてないですからね!」
なんか
「……でも、私も。見つける当てなんて、ありません」
「そこは勘で。浅上さんお得意の勘でお願いします、あるいは女神の加護でもいいです」
いきなり訳の分からないことを言ってくる探偵。
「……意味が分からないんですけど?」
「人事を尽くして天命を待つ、とも言います。昔の人は上手いこと言いますよね? でもこれ結構当たってると思うんです。これまでもね、僕は一応自分で何とかしようと思って頑張ったんですよ。ええ、頑張っていたんです。でも、ダメでした……そういう時、いつも浅上さんが助けてくれたじゃないですか?」
「えっと、そうでしたか?」
あまり心当たりはありません。
山田さんにお小遣いをもらってアルバイトはしたけど。
「ええ、そうでしたよ。僕がどんなに頑張ってもダメだったことを、浅上さんは簡単に解決してくれました。だから、今回もきっと大丈夫です」
「そうですか?」
「はい!」
笑顔で言う山田さん。
根拠はないけど、山田さんに此処まで断言されると不思議と大丈夫という気がしてくる。
「……でも具体的に何をすれば?」
「そうそう、僕も不思議だったんですけど。浅上さんは探し物をする時、本当にどうやってるのですか? 蛇とか行方不明の人とか見つけた時です」
「……あー」
蛇は不可抗力で、行方不明の人は死んでいたからで……。あ、と思う。アイちゃんは体は死んでる、のかな。うん、確かそのハズ。
だったら、死体を探す要領で見つけれないでしょうか?
「うーん」
考える。いや、感じてみる。
「うーーん」
アイちゃんは何処でしょうか、と。
「うーーーーん」
「浅上さん、どうです。ビビっときました?」
「きません」
ダメでした。
なんか、アイちゃんは死んでるって思えないからなー。アンテナが立ちません。
「そうですか。おかしいですね?」
「うーん」
頭を抱える。
どうしよう、探偵は役に立たないし。本当にどうしよう。
横目で
探偵はじっと、こちらを見つめていた。
「……なんですか?」
「ああ、いや失礼。悩んでいる浅上さんが珍しくて、つい」
「私だって悩みます」
「そうですか、今は何を悩んでいたんです?」
「アイちゃんが見つからないことです。あと、雇った探偵が役に立たないことです」
「はははは。手厳しいなあ」
「もっと働いてください」
「ええ、ええ。努力します」
「……努力じゃあなくて、働け」
ニコニコしている山田さんに腹が立って、嫌味を言ってしまった。言ってすぐ、言い過ぎたと後悔。
恐る恐る、山田さんの様子を窺う。
「……ああ、いいですねえ! なんかこう、クルものがあります」
なぜか、山田さんは体を震わせて喜んでいる様子。口元がにやけている。気持ち悪い。
「え?」
「浅上さんに働けって言われると、何というか、こう! 新妻に働けって言われている亭主の様なこう、ワクワクとする気持ちになる!?」
後悔して、後悔しました。やっぱり、山田さんには強めにいかなくてはいけないと決心する。
「ところで、どうです? 今日はもう遅い。十一時を回ってます。探すのは明日にしませんか?」
急にリタイア宣言をする山田さん。
「……でも」
「いやいや、浅上さんは未成年でしょう? あまり遅くまで連れまわしてもいけません。えーと、何だったかな。法律で深夜連れ出しっていうのがあるはずですよ。浅上さんのような女子高生を深夜まで連れまわしてたら、僕がお巡りさんに怒られます。まあ、今でも充分に遅いんですけどね」
と、笑いながら山田さんが言う。
山田さんがお巡りさんに怒られるのか。
アイちゃんの制約も気になるけど、今日は探すのを諦めるべきかも。
「ははは、すみません。出るときは意外と早く見つかる気がしたんですけどね……ダメでした。とりあえず、家まで送りますよ。それに案外、明日になったら帰ってくるかもしれません」
そう言いながら車を発進させる山田さん。
うーん、今日はそろそろお終いかぁ。
……でも。
アイちゃん明日になったら帰って来るかな?
車は走る。
家までは、まだ、遠い。
……でも、予感がする。この夜はきっと、まだ長い、というそんな不吉な予感が。
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