第65話 チョコあげる?

「そろそろチョコあげる日だよ、アイちゃん!」

「……バレンタインデーって言いなさいよ?」


 今年も来る。

 チョコあげる日が!

 私は家でアイちゃんと作戦会議をしていた。 


「……で? 夜子ちゃんは誰かあげる人いるの?」 

「いない!」


 水野君は未だ現れません。一体どこで何をしているのでしょうか?

 彼氏もいないし、私にはチョコをあげる当てがない。


「いいよねー、アイちゃんは。翔太君いるもんねー?」

「ま、まあね」

 アイちゃんが少し顔をそらしながら言う。さては、照れているな。

 

「いいよねー、アイちゃんは。ラブラブで」

 私は攻勢を緩めない。この時期は、ラブラブな彼氏持ちを攻撃するのが唯一の楽しみですので。


「……ま、まあね」

「いいよねー、アイちゃんは。チョコあげる人がいて」 

「……い、いやね。夜子ちゃんもあげればいいじゃない? あ、ほら。義理でもいいし。クラスの男子にでも。ホワイトデー狙いでさー。結構、義理でも嬉しいらしいよ?」

「あー、それでホワイトデー三倍返し的な?」

「そう。三倍返し的な。いや、相手によれば十倍くらいはイケるんじゃないの?」

「相手?」

「ほら……山田さんとか。くれそうじゃない?」

「あー、でも山田さん本気にしそうで……怖い」

「い、いやー? いいんじゃない。えと、ほら、あの人真面目そうでしょ? まあ、少なくとも真剣にその……夜子ちゃんのこと考えてると思うし。そんなに嫌わなくても……いいんじゃない?」

 

 む。アイちゃんが急に山田さんをプッシュしてきた。

 今までなかった事なのに、何故でしょう?


「どうして、急に山田さんをしてくるの?」

「あー。いや、えと。まぁいいじゃない! で、どうなの? 夜子ちゃん的にあの人は!」

 アイちゃんは、山田さん推しの理由を言わない。


「えー、山田さんは対象外? ってこの話前にもしなかったかな?」 

「前も確かにしたけど。あれから暫く経ったし、前と変わったかなーと思って」

「ふーん。でも変わらないよ。私は、好きな男の子がいるのです。その人、水野君を待ってるの」

「…………そう、それも変わらない、のね」

「うん!」

 私は結構一途で、約束事は守るタイプ。

 元気に返事をすると、アイちゃんは何故か俯いた。

 

「……アイちゃん、どうかした?」

「いや何でもないわ」

 アイちゃんはそう言うけど、悲しそうというか、落ち込んでいる様子です。

 

「翔太君と喧嘩でもしたの、相談に乗るよ?」

「……喧嘩はしてないけどねえ」

「お。その様子だと何かありますね?」

 私は俯いているアイちゃんの顔を覗き込む。


「ちょっと、近い近い」

「へへー」


 ブーブーブー。


 アイちゃんと話をしているとスマホが振動した。


 スマホを取り出すと、ラインが来ていた。山田さんからだ。


{こんにちは! 浅上さん。山田です(`・ω・´) いつもお世話になっています。この前はどうもありがとうございました。助かりましたよ本当に。今後ともどうぞよろしくお願いします。……あ、それでですね。話は変わるのですが。僕、甘いモノとか大丈夫です! いや、世間にはいるじゃアないですか。甘いものを食べられない、嫌いだとか言う男が。ああ、人生の半分以上を損してますよねえ? 僕は大好きです! 僕は大好きですから!! それでですね! そろそろ世間はそんな時期………



 __すごく長かったので、途中で読むのをやめた。

 

「なんだったの?」

 アイちゃんが聞いてくる。


「なんでもないよ」

 ラインは、スルーすることにした。


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