第57話 今はもうない過去 その8

 __だから、好きなのよ。

「ええ?」

 えっと、どうゆうこと? いのりが言うには水野くんは私のことが好きらしいけど……でも。


「えええ~。そんなはず無いよ、だって私いじめられてるし」

 私はいのりに言う。

 そう、それは事実だ。そのせいで私は、いのり以外に友達がいません。


 __くすくすくす。それが彼なりの愛情表現なのよ。可愛いいと思わないかしら?


「全然思わない」

 もし本当にいのりの言うとおりだとしても、迷惑です。


 __そう? まあ、いいわ。とにかく私は水野くんに助けられた。だからもう水野くんに見当違いの復讐をするのは止しなさい。……ああ、あの取り巻きの女子二人は殺しても良いわよ?


「そっかー」

 なるほど、なるほど。私が復讐しなきゃいけないのはあの二人だったのかー。

 ……あ、でも。


「ねえねえ? それでも私は水野くんには恨みがあると言うか。今までいじめられたし、三人一緒に殺しちゃうのはどうかな?」

 良いアイデアだ、私はいのりに提案してみた。


 __だから、水野くんはダメよ。私の恩人なんだから。それにあなたも○○○○ランドに連れていって貰ったでしょう? そこの○○○君人形も買ってもらって、何言ってるのよ。それでチャラにしなさい。


 呆れたように、いのりが言う。

「長年の恨みはそんなことで消えないよぉ!」

 私はいのりに抗議する。


 __ねえ、夜子? あなたは恨んでいるかもしれないけど、私は感謝してるの。炎の中でもうダメなのかって考えていた時、助けてくれたから。そうね……だからって言うのも変だけと、好きなのよ、きっと私は。


 いのりが、考えている様子でゆっくりと話す。


「へ? 何が好きなの?」

 __だから、私は水野くんのことが好きなの。

「へえええ!?」

 いのりはとんでもないことを言った。


「ええ! 何でなんで!? 水野くんのこと好きなんて。いや、えっと……やめといた方が良いよ!」

 __あら、どうしてかしら?


「だって、えっと……趣味悪くない?」

 __ほっといてよ! 人の勝手でしょう!?


「いやいやいや、えっと。きっと水野くんは意地悪だよ。嫌がらせしてくるし、あと、しょうらいせー? とかが不安だと思う」


 __将来性なんて、小学生で分かんないわよ。それに水野くんが意地悪してるのは夜子だけ。心配ないわ。


「えーと、水野くんは……私のことが好きなんだよね? ……好きなのに意地悪するなんて……どうかしてないかな?」


 __そう言うものなのよ! 年頃の男の子って言うのは。あなたのお母さんが言ってたわ!


「うーん、でもぉ。いのりが水野くんと付き合うようになったら、いのりがいじめられないかな?」


 __あら? 誰のこと、いのりって?


「あ! 今の無し」

 しまった。つい、いのりに名前を喋っちゃた。お母さんに、名前をつけるなって言われていたのに……。


 __くすくすくす。もしかして、いのりって私の名前かしら? そうだとしたら嬉しいわ。素敵な名前だし。


 ああ、ばれちゃた。秘密にしてたのに、でもいのりは嬉しそう。うーん、だったら良いかな。

「うん。そうだよ、いのり。いのりが、あなたの名前。私がつけたの」


 __そう……ありがとう。名前をくれて……嬉しい。


「いのりが、喜んでくれて私も嬉しいよ」


 __もう私は、貴方だけの身代わり人形じゃあ無くなるけど……これからも私たち友達よ?


「うん! もちろんだよ!」


 __じゃあその友達に免じて水野くんに変な事はしないでね?


「えー?」

 __し、な、い、で、ね?


「……はーい」

 復讐禁止か~、辛いな。


 __それで、私の恋を応援してくれないかしら?

「えー?」


 __具体的に言うと、私を水野くんに渡してくれないかしら?


「えええええええ!!」

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