第56話 今はもうない過去 その7

 今日は8月2日。

 私はいま、自分の部屋で一人反省会をしています。


 ……楽しかった。水野君に連れて行ってもらった夢の国は楽しかったです。


 楽しかったはずの旅行から帰ってきて、でも私は今、モヤモヤ、ざわざわとした変な気分です。これが、きっと……罪悪感というものでしょう。……あああ、いのりに申し訳ない。


 水野くんぶっころし計画は全く進まず。それでいて、私は倒さなければいけない相手の罠にかかっておびき出された。……さらには夢の国で遊びまくってしまった。

 ふぁあああ、いのりに申し訳ないなぁ。かたき討ちをしなくちゃいけないのに……。 


 私は○○○○ランドで買ってもらった等身大○○○君人形に抱きつく。両手両足を使ってホールド。そのまま、部屋の床をゴロゴロする。

 ああ、このモフモフ具合がたまりません。モフモフごろごろ、モフモフごろごろしながらポジティブに考えてみる。


 そうだ、そうですよ。

 確かに私は水野君におびき出されたとはいえ、幸運にも殺されなかった。きっと、水野君も夢の国で遊ぶことに夢中になって私を殺すことを忘れていたのだ。……フフフ、馬鹿なやつ。ヤツは、せんざいいちぐーの好機を逃した。


 今度は私の番だ!

 モフモフごろごろ、モフモフごろごろ。


 うーん、でも具体的に何をどうすればいいのか……。


 モフモフごろごろ、モフモフごろごろ。モフモフごろごろ、モフモフごろごろ。


 まったくいいアイデアが……。


 モフモフごろごろ、モフモフごろごろ。モフモフごろごろ、モフモフごろごろ。モフモフごろごろ、モフモフごろごろ。モフモフごろごろ、モフモフごろごろ。


 いいアイデアが、浮かびません!!!


「よるこー……何やってるの?」

「お母さん!?」

 いつの間にかお母さんが、私の部屋に入ってきていた。


「え、お母さん。どうしたの? あ! あああっぁあ! それって!!?」 

「……うーん、いくらそれが気に入ったからってそんなにゴロゴロ転がらなくても。……よく目が回らないね?」


 お母さんは不思議そうに言う。でも、そんなことより! お母さんが手に持っているのって。それって!?


「ああ? ほら、この人形。直ったわよ」

 お母さんが、いのりを渡してくる。

 私は落とさないように注意して、ゆっくりと受け取った。


「ええええ! 予定より早くない?」

「うん。あなたがとても悲しんでいたみたいだからね。それに……放っておいたら何か取り返しがつかない予感がしたから、お父さんを急かして早めに治してもらったわ」

 そう言うと、お母さんは部屋を出て行った。

 ……お母さんにどれだけ急かされたのか? 1か月掛かる予定がほぼ10日くらいで治した。仕事が早すぎるよ、お父さん。でもお父さん、グッジョブです!! 

 私は、急かしたお母さんと此処にはいない頑張ったお父さんに向けて精一杯のお礼を言う。

「ありがとー!」


 __くすくすくす。楽しそうねぇ夜子?


 いのりが話しかけてきてくれた。水野君に燃やされる前のように、元気みたい。


「よかったぁ! 元気になったね!!」

 いのりを顔の前にもってきて、体とか顔を見る。

 ……うん! キレイに治っている。焼け焦げた黒髪も、火傷した顔も元通り。うれしいなぁ。


 __ああ。ひどいわねえ、夜子。私がちょっといない間に浮気なんて。


「へ? 浮気って?」

 __惚けてもダメ。ほら、そこの○○○君人形。私なんて忘れてその子と楽しそうに遊んでいたじゃない。私がいなくなったからって……ああ、悲しいわ。


「ち、違うよ!」


 __くすくすくす。冗談よ。


「……えー。びっくりしたー。この子を可愛がってたり、水野くんに復讐出来てないから、てっきり怒ってるんだと思った」


 __え? 水野くんに復讐?


 いのりが不思議そうな声を出した。


「うん。貴方をひどい目にあわせた水野くんを殺そうとしてるんだけど……なかなか上手くいかなくて」


 __え、えっと、……ちなみにだけど……殺そうとしたって、具合的には何をしたのかしら?

「え、うーん。実はねー大したことは出来てないの、ごめんね。やったことと言えば包丁で突撃くらいかなー」


 __包丁で突撃!? えええ! それで水野くん、どうなったの?

「避けられちゃた。ごめん」


 __ごめんじゃないでしょ! 危ない危ない! そんなことしちゃダメよ夜子。

「でも、あなたを燃やした復讐をしなくちゃだから」


 __燃やされてないわ。


「え?」

 __水野くんには、燃やされてないわよ?


 んん? どうゆうこと? 私は頭の中がはてなマークになる。


 __いや、だからね。私が燃やされたのは、水野くんの取り巻きの……何て言ったかしらあの二人……えーと、さとやんとしーちゃん? て言ってたかしら水野くんは。あの二人に焼却炉に投げ入れられたのよ。水野くんはむしろ止めてたし、燃やされてた私を助け出してくれたのよ。


「ええええ! それほんと?!」

 __本当。


「……じゃあ、えっと。ええ? ……私はあなたを助けてくれた水野くんを殺そうと、してたの?」

 __そうゆうことになるかしら。


「えええええええ!! どうしよ、どうしよう。……ん? あれ、でもおかしくない?」

 __何がおかしいのかしら?


「私が水野くんに突撃した後の話なんだけど、水野くん私を○○○○ランドに連れていってくれたよ? おかしくないかな? アレって水野くんが私を返り討ちに殺そうとして……誘い出した罠なんじゃない?」

 __へええ、良いわねぇ夜子は。私が治してもらっている間に水野くんと楽しく夢の国に行ってたの、へええええ! あ、ちなみにおかしいのはあなたの頭だと思うわよ。


「ん? もしかして今、ひどいこと言った?」

 __いいえ? 当たり前の事実を指摘しただけよ。


「そう? んーじゃあ、どうゆうこと? 何で水野くんは私を○○○○ランドに連れていってくれたのかな?」


 __はぁぁぁあ。良いわねぇー夜子は…………。あのねぇ……好きなのよ、水野くんは、あなたのことが。



「へ?」 


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