第55話 今はもうない過去 その6
終業式は昨日終わった。
私が火傷したことを気にしているのか、終業式のあった日は水野くんや取り巻きの女達は私にちょっかいを掛けてこなかった。
もし、何かしてくれば反撃してやるつもりだったのに。……残念。
いのりはまだ治らない。
お母さんが言うには、完全に治るまで1ヶ月くらい係るらしい。
私の友達を1ヶ月も、入院? この場合入院でいいのかな? まあ入院でいいか、いのりを1ヶ月入院させた罪は重い。
それに、下手をすればいのりは死んでいた。
だから殺さなくては。特に最後までいのりを奪おうとした水野くんは許さない、許さない、許さない、許さない、と私は殺意を新たにする。
でも、どうしよう?
包丁突撃作戦は失敗に終わってしまいました。
不意打ちで殺そうとしても水野くんは殺せなかった。
次はどうやって殺そうかなと、頑張って考える。
幸い、今は夏休みだ。
学校がある時に殺すより、夏休み中の方が殺しやすい気がする。何となくだけど。
うーん、良いアイデアが思い浮かばないなー。
自分で考えても分からないときは、他の人がどうやっているかを参考にしよう。
ええと、ほら。偶にニュースで殺人事件を流している。あれは、犯人さんはどうやって相手の人を殺しているのか。
最近見たニュースでは、確か刃物で人を殺していた。あ、少し前にヤクザさん同士が拳銃で殺し合っていたヤツもあった。
……刃物は失敗したし、拳銃なんて持ってない。
「ううう。……本当にどうしよう?」
上手い方法が思いつきません。
いつも相談相手になってくれていた、いのりもいない。寂しいなぁ。
__プルルルルルル プルルルル プルルルル
あ。玄関の方で、電話が鳴っている。今日はお母さんいたかな?
私が部屋を出ると……電話の音が止んだ。
「夜子ー。水野くんから電話よー」
お母さんはいたみたい。でも、……水野くんから電話? なんの用だろう?
「……もしもし」
私は電話にでた。
「よ、よう。夜子。どうだ調子は?」
最悪です。早く貴方を殺したいです。
「……別に」
「そ、そうか! まあ、俺もこの前のことは気にしてないぜ! ほら、ボクらもお前に酷いことしちゃったしな。包丁を向けられたことは、忘れてやるよ! ありがたく思えよ! 本当だったら、お前先生やお母さんに叱られてるぜ! ボクが黙っていてやってるおかげだからな! ……な?」
「…………」
「と、ところで? あの。お前覚えてるか? 約束」
「……約束?」
なにか水野くんと約束したかな?
「おい! 忘れてるんじゃあないだろうな? ほらこの前、三人で、夏休みに○○○○ランド行くって言ってただろう! まあ、ちょっと。さとちゃん、しーちゃんとお前は……相性悪いみたいだけど。それは心配するなよ! ちゃんと考えてあるから。遊びに行くときはお前とボクで行こうと思ってるんだ。あの二人とは別の日に行くことにして……あ、ボクのお母さんは一緒だけど。それはいいよな? なかなか子供だけで夢の国には行かせてくれないだよ」
子供だけでは夢の国へ行けないなんて、世知辛い話です。
でも、困ったな。二人きりなら、チャンスがあるかもしれないけど、水野くんのお母さんもついてくるのかー。
「……やっぱりやめる」
殺せそうにないし、やっぱり夢の国に遊びに行くなら好きな男の子と行きたい。
それに、もう友達になるつもりもない水野くんと行ってもしょうがないし。
「……はぁ!? え、ええ? おいおいおいおい! ど、どうしてだよ? 約束しただろう! こっちは楽しみにしてたって言うのに……」
うん? 楽しみにしていた? あれ、もしかして……水野くんは。
水野くんも私を殺そうとしている!?
……そうか、そうですか、なるほど。なかなかやるな。油断させておいて、私を殺すつもりだ。
私はこの前、水野君を殺そうとした。だから水野君は殺される前に、私を誘い出して殺すつもりですね。
いつも私をいじめて楽しんでいる水野君だから、きっとじわじわとなぶり殺しを狙っているはず!
……危ない危ない。これは、私も警戒しないと。
「おい! ……い、いや。……なぁ? いいだろう? この前のことはお互い水に流してさぁ。お前の顔も綺麗に治ってるし、俺も包丁向けられたことは気にしないって言ってるじゃないか。いつまでも喧嘩してても……なぁ。お互いちょっとあれだ。すれ違い的なモノがあったとは思うけど、いい加減に仲良くしようぜ?」
ふん。私はそんな言葉に騙されない。
「お前も好きじゃないかあのキャラクター。ええと、なんて名前だった? 目が一つで不気味な……」
「○○○○は不気味じゃないもん!」
まったく水野君の感性が信じられない。
あのつぶらな瞳を持つ心優しい彼を……不気味、不気味って言った?
「ああ、それだ、それ。そいつもいるぜ夢の国には、この前映画やってたばかりだけど、キャラクターグッズとかも売ってるらしいよ? 欲しいだろ、夜子?」
「……欲しくない」
「この前のお詫びも兼ねて買ってやるよ。ああ、それといつもちょっと意地悪しちゃってるから。……その、いや。まあいい、とにかく買ってやるって! お前よく録画で○○○○が出てる映画見てるだろ? おばさんに聞いて知ってるんだ。あ、でも。おばさん、あまりテレビの見過ぎはどうかって心配してたぞ? 好きでも限度ってもんがあるから、ちょっとは控えろよ?」
……ふぁあああ。お母さん!? なんで水野君に私のことを相談してるの!?
私がテレビを見ていても、いや多少見過ぎでもそんなことを水野君に言わないで!
「おーい、夜子聞いてるか?」
「……き、聞いてる」
「そか、よかった。一緒に遊びに行ったら、○○○○だったか? アイツのでっかいぬいぐるみ買ってやるよ。でっかい奴見たことあるか? ほぼ等身大サイズらしいぞ?」
「行きます!」
「お? ……おお! そうかそうか。じゃあ楽しみにしてるぜ! ああ、遊びに行く日は7月の31日だからな。忘れるなよ、じゃあなー」
__ブツ。ツーツーツー
……あ。つい反射的に返事をしてしまった。
あれ、うーん。これはまずいかもしれない。私、水野君の罠に引っかかってしまったかも?
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