第51話 今はもうない過去 その2

 

 __くすくすくす。いいじゃない? 貴方には私がいる、そうでしょう?


「うん、わかってるよ」


 __辛いことも痛いことも、私が代わってあげるわ? さあ、さあ。聞かせて? 何か辛いことがあったのかしら?


「はぁ。……えーとね。今日もみんなに無視されちゃった。あああー。つーらーいー」


 学校からの帰り道、私はランドセルを背負いながら一人で歩く。

 皆は仲のいい友達と一緒に帰ってるから、羨ましい。

 いつか私にも、あんな風に友達ができたらいいと思う。


 __あら、水野君は貴方に話しかけてきたじゃない。もっとお話ししたら、どうかしら?


「でも上手く話せないし、……年上の男の子ってなんか苦手」


 __年上って言ってもそんなに変わらないでしょう? 4歳くらいよ、世間一般じゃあ私たちって子供だしそんなに気にすることないんじゃない?

「そうかなあ? うーん、でも苦手なモノは苦手」


 __そう。残念ねえ。まあ、いいわ。あなたにお友達ができたら私なんて用済みになっちゃうものね?

「そんなことないよ! 貴方は私。いつまでも一緒だよ」


 __くすくすくす。ありがとー、嬉しいこと言ってくれるわねえ。私もあなたと一緒で嬉しいわあ。

「うん、私たちずっと一緒だよ」


 私が一人でも寂しくないのは……この子のおかげ。厄除け、身代わりのための人形。でも、私にとってはかけがえのないお友達。たった一人の友達。いや、私自身かもしれない。それがこの子だ。

 ランドセルの中に大切に入れている、身代わり人形。


 この子と話しながら家に帰るののが私の下校時の日課。

 まあ、クラブにも入ってない私はそれくらいしかすることがない。



 下校時の時間になってもまだ蒸し暑い。

 空を見上げる。


 ああ、日差しが強くて、風が熱い。

 遠くから、セミの声が聞こえる。


 もうすぐ夏休み。

 夏休みになったら、何しようかな。

 しばらくクラスのみんなに会う予定もないし、家でぶらぶら気ままに過ごせる筈だから……って忘れてた。


 ラジオ体操がある。


 朝早くから元気のいいラジオの声で体操するという、私にとっては苦行でしかない行事が。

 まあ、体を動かすのは、まだいい。


 問題は、近所の広場ですること。近所の広場でするということは、私と家が近い水野君とか、その友達とかがやってくる。

 学校が休みでも、あの連中と関わり合いになるなんて。ああー、いやだなー。


 でも。ちゃんと、毎日参加してスタンプをもらってこないと夏休み明けに先生に怒られてしまう。

 お母さんも体を動かせって言うだろうし、ああー、ユウウツですー。


 せっかく学校に行かなくてもいいと思ってワクワクしてたのに……。



 __あら? 何か浮かない気分になってる?

「うん、ラジオ体操思い出したの」


 __いいじゃない、ラジオ体操。羨ましいわー、私は自分で動けないから、アレを見るととても羨ましいわよ?

「水野君とかと会うのが嫌なの」


 __そう? いいじゃない、私はあの子好みだけど。なかなか格好良いと思うわよ。


「そうかなー? あんなに元気な男の子ってなんか苦手だよ。やたら話しかけてくるし」


 __くすくすくす。いいわねえ、夜子が羨ましいわあ。いつか私も貴方みたいになれるかしらね?



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