第50話 今はもうない過去 その1

 

 小学生のころ。

 私はまだ幼くて、自分の感情もよくわからなくて。ましてや他人を思いやることなんてしなかった。

 つまりは自分勝手で、嫌な子供だったと思う。




 __思い出は私が、私たちが、そんな小学生だったころのこと。夏休み前に遡る。


「おい! 夜子、この前ボクが誘ってやったのにどうして遊びに来なかったんだよ?」

 学校の休み時間。

 自分のクラスの机でボーとしていたら、水野君が声を掛けてきた。


 ちなみに水野君は小学6年生。私は2年生。

 私たちの家は近所で、お互いの存在は知っていた。

 けど、その水野君が何故か私に話しかけてくるようになったのは1年前、私が小学校に入学してすぐだった。その時から水野君は何かとちょっかいを掛けてくる。


 うっとおしいので私は無視をした。

「なあなあ、なんとか言えよ」

「……」


「ちょっと! アンタ舐めてんの? 年下のくせに。せっかく水野君が話しかけてるのに。何か言いなさいよ」

「そうよ、そうよ。この前って水野君の誕生日会だったんだよ? 誘ってもらって無視ってどういうこと!」

 私が黙っていると、水野君の取り巻きの女子が文句を言ってきた。

 面倒だな。

 人間関係て面倒だ。

 いや、そもそも人間がめんどくさい。

 みんな死ねばいいのに。

 人形をのんびり見ている方が癒される。


 私はランドセルから、お気に入りの球体関節人形を取り出した。

 これはお父さんと、お母さんが作ってくれた私の身代わり人形で何かあると私を守ってくれる素晴らしいもの。いや、もはや私の分身と言ってもいいかもしれない。それくらいこの人形を気に入っている。

 取り出した人形を手に持つ。持っているとすごく落ち着く。

 人形の名前は無い。本当は名前を付けて可愛がってあげたい。でも、お母さんが身代わり人形に名前を付けるのはダメって言うから、悲しいけど名前を付けてない。


 __バン!

 私の机が強く叩かれた。

「ねえ! 人形なんかで遊んでないで何とか言いなさいってば!!」

「そんな人形遊びするって子供ねえー、それにその人形ってアンタそっくりで不気味~」

 人形を馬鹿にされて、私は腹が立った。この子の素晴らしさをまるでわかってない。

 私が文句を言ってやろうと、顔をあげると、

「ああ、さとちゃんもしーちゃんもいいよ、それくらいで。一度クラスに帰ろう」

 水野君が取り巻きに話しかけていた。


「えー、でもこの子絶対舐めてるよー?」「うん、もっと言ってやった方がいいよ」

「今度ボクが話すから。……それと言いたいことは自分で言うから、ワザワザついてこなくても大丈夫だよ?」

「イヤーついて行くー」「私も私も~」


 取り巻きを引き連れて水野君が自分のクラスへ帰って行った。

 全く……不愉快な連中だ。アイツらのせいで私はこのクラスで一人。特に女子からは嫌われているので友達なんていやしない。


 うん……本当は、本当は同級生の友達が欲しいです。


 でも水野君のちょっかいでダメだ。特に水野君の同級生の女子。アイツらが圧力的なモノを私のクラスの女子にかける。私の悪口、陰口を言ったりして、今や私は孤立無援。

 つらいなー。


 人形の右手をひょいと上げる。

 そのまま手を上下に振る。

 私の友達はこの子だけだ。まあ、仕方ないか。いないモノは、いないのだ。

 ぬあー、友達の作り方なんて知らないし。どうすればいいのでしょうか?


 まあ、困った時は何もしないのが私の方針。



 __小学2年生にして私はいろいろ諦めていた。

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