第46話 肝試し 前編

 

 夏休みも残り2週間程度。

 昼間から家でゴロゴロするのも勿体ないと思って外出してみたけれど……あー、暑い。

 暑くて死ぬ。

 もう、本当に勘弁してほしい暑さだ。


 私こと、浅上夜子の趣味は死体観察。

 悲しいことに趣味のためには歩かなければいけません。


 暑さにうんざりしながら空を見上げると、薄い雲がある。

 雲があれば少しはマシかと期待してた。でも歩いてみると全然涼しくない。……悲しい。

 この時期の昼に散歩するのは自殺行為かもしれない。


 もう後30分くらい歩いて見つからなければ家に帰ろう。


 何処かに死体落ちてないかなーと思いながら、家の近くを散策。


 ぶらぶら、あちーあちー、と散歩してると、道端のユリが目に入った。

 ユリと言っても、狂歌ちゃんとアザミちゃんのことじゃあなくて。植物のユリ。


 道端には、ユリが沢山咲いている。

 気になったのでスマホで調べてみる。


 咲いているのはタカサゴユリという種類のユリだった。

 真っ白な花が一つの茎から3つ咲いている。花はすこし俯いているけど、ヒマワリのように元気いっぱいの花と違って好感が持てる。

 こんなに暑いんだから、花と言えども俯きたくもなるだろう。


「君の気持ちは分かるよ、うん」

 ユリに向かって言っておく。

 共感できるお花を見つけたので、そろそろ帰ろうかな。5分も経ってないけど。



 私が夏の太陽に敗北して家に帰っていると。


「千代ちゃーん。大丈夫?」

「え、これマジでヤバくない? 何か顔色が……」

 道端で中学生くらいの女の子が一人倒れていた。

 倒れている子の側には、心配そうに見ている女の子二人がいる。


 倒れている女の子の様子を見ると……顔は赤い。体がピクピクしている。

 うん。典型的な熱中症の症状に見える。

 同じ太陽に負けた者同士、放っておくのも気が引けるな。


「ねえ、大丈夫?」

 大丈夫じゃあ無いのは分かってるけど、一応そう声を掛けた。


「え?」「あ、すみません。……この子ちょっと気分が悪そうで」

 側の二人が返事をする。


「その子返事はできる?」

「はい。えと、出来ます。でも、ぐったりしてて元気がないというか……」

 側にいる女の子の内、日焼けしていてショートカットな女の子が答える。

 なるほど、返事はできるのか。取り合えず、救急車を呼ぶのが一番良いんだろうけど。


「ふーん。たぶん、熱中症だね。何か冷たい飲み物持ってる?」 

「……いえ」

「早く体を冷やした方がいいよ。家に来る? 近くだから」 

「え? いいんですか?」 

「うん、いいよ」


 私は熱中症になっている女の子をおんぶした。

 このまま家まで連れて行こう。

 でも、ちょっと重い。むむむ。この子、胸が大きい。背中に当たるこの何とも言えない脂肪の塊。……助けるの止めようかな?


「どうしたんですか?」

 おっと、私が良からぬことを考えていると眼鏡の子が声を掛けてきた。

 この子は髪の毛を左右でおさげにしている。

 最近はあまり見ない髪型だ。


「何でもないよ。いや、ちょっと重かっただけ。えーと、悪いんだけど背中押してくれない?」

「はい。そいつ無駄に育ってますから」

 胸が。私を見る二人の目はそう言っている。


 私は無駄に育っている胸の子を家まで連れて行った。



 __家に入ってクーラーの部屋でスポーツドリンクを飲ませると、胸が大きい子はすぐに復活した。


 さすが、胸がデカイだけあって、しぶとい。

 この胸がデカイ子は千代ちゃんと言うらしい。おさげメガネは早苗ちゃん、ボーイッシュな子はエリ子ちゃんという名前であることが判明した。うん、どうでもいいな。


「お姉ーさん、ありがとーございます! 助かりました」

 スポーツドリンクを飲みながら千代ちゃんが言う。


「いいよ、いいよ」

 千代ちゃんは復活すると、とても元気な子だった。仲間だと思ってたのに……私の苦手なタイプだった。


「はあ。生き返った感じですー」

「ほんと、ビックリした。海からの帰りで急に道に座り込むんだから」

「そうよ、そうよ。お姉さんが通らなかったら、どうなってたか」

「ごめんごめん。いやー、ちょっとはしゃぎ過ぎたかなー。ほら、私って可憐な乙女だからさー。アンタらみたいに体強くないんだよねー。アハハハハハ」

「何が可憐な乙女よ?」「もっと性格改善してから言え」「煩いバーカバーカ」「キャハハハハ」「アハハハハハ」 


 女三人寄れば姦しい。

 まあ、元気になってよかった。


 しばらくテレビで高校野球を見ながらお喋りをする。


「あ。そうだーお姉さーん、この辺で肝試しするのに良い場所って知りませんか?」

 千代ちゃんがそんなことを聞いてきた。

「肝試し?」

「はい。私たち、今夏休みでエリ子の家に遊びに来てるんですけど、今エリ子の家クーラーが壊れてるんですよ。直るのは明日って言うし、今晩は何処かで肝試ししたいなーって」

「女の子だけで?」

「はい。ここいらで誘えるような男子いないし。ちょっと寂しいですけど……あ! 怪談話をしてもいいかなーと思うんですけど、お姉さん何か怖い話知ってます?」


「うーん、特には知らないよ」


「そうですか……じゃあやっぱり肝試しかなー、夏なら一度はやっておきたいんですよねー」

「千代、女だけでやるのって変じゃない? 肝試しって男子とイチャイチャするためのイベントでしょ?」

「でも男子いないじゃん」

「あーあー、隆君が此処にいたらなー」

「誘うの早苗?」「無理」「じゃあ一緒じゃん、キャハハハハ。あ、そーだーエリ子は誰かいないの? 誘えるような男子」「い、いないわよ」「おーおー何だ何だ。あやしいー」「あやしー」「いないって言ってるでしょ!?」「きゃー」「キャハハハハハ」


 むう。みんなテンションが高いなー。それに、仲良しオーラが出ている。


「あ。すみませんー。こっちばっかりで話しちゃって」

「いや、別にいいよ」

 千代ちゃんが私に話しかけてくる。


「えーと、とりあえず女だけなんですけど。どこかいい場所知りませんかー?」


 肝試しにいい場所か。

 あ、そうだ。


「潰れたホテルとかは?」

 この前、狂歌ちゃんとアザミちゃんが大量殺人をやらかした場所があった。アソコ、肝試しにはもってこいではないかしら?


「えー、そんな所あるんですか?」

「あ、あそこですか……あそこはちょっと本格的過ぎじゃあ?」

「お、エリ子も知ってるの?」

「いや、地元では有名と言うか。今は不良のたまり場だよ、危ないと思う」

「んー、その不良って昨日、エリ子が言ってたおまじないで居なくなったんじゃなかった?」

「そうだけど、何か不気味だし」

「いやいや、それが良いんじゃん。肝試しなんだからさー、ゾクゾクしよーよー」


 

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