第45話 とある田舎の噂話
夏休み。
中学二年の千代と早苗は、千代の親戚になるエリ子の家に遊びに来ていた。
千代と早苗、エリ子は同級生だ。
「あっつー。ねえエリちゃーん、クーラー効かせてよー」
千代がエリ子に言う。
「……だから、クーラー壊れてるって」
「ちょっと、マジ? あり得ないんだけど。暑すぎるわー、クーラー壊れてるなら遊びに来なかったのにー」
千代は畳に仰向けになりながら言う。
「いやいや、急に壊れたんだからしょうがないじゃん? それに海風が気持ちいいでしょ、夜だし。そんなに言うほど暑くないと思うけど」
「そうよ、千代。千代は普段クーラーのある部屋にしかいないからそう感じるのよ。充分涼しいわよ?」
早苗が千代に言う。
「都会っ子に、ど田舎の空気は厳しいわー。あー」
「……おい。アンタ昼間は海で、やっぱり田舎のきれいな海はサイコー来てよかったー、とか言ってたじゃない」
「昼間は昼間の私ー。夜の私とは違うのよー」
「まったくワガママ娘が。……それとシャツの間から、おへそ丸見えよ、ちょっとは慎め」
「あーつーいー」
千代は指摘を気にせず、畳の上を転がる。
「全く、しょうがないわね」
早苗はため息をつきながら言う。
「おー。そうだ、そうだ。夏と言えば怖い話よ、涼しくなるような話。ほらほら、エリちゃーん。田舎ならではの話、何かないのー?」
千代が起き上がって、言った。
「アンタね。……田舎、田舎言い過ぎ。それ、田舎者は傷つくから」
「ごめん、田舎者ー」
「てめ、反省してないなー」
エリ子が千代に掴みかかった。
「きゃー。ちょとー、アハハハハハハ! くすぐるッ! くすぐるのは反則!?」
「おらおらー」
「アハハハハハハ!?」
「はいはーい。二人してふざけてないで。千代は声高いから、大声出すと近所迷惑じゃない?」
エリ子と千代を止める様に早苗が言う。
「はーはー、……そーだよー。エリちゃーん、私の美声を聞いた男の人がカワイソだからそれくらいにしてー」
「は? 何言ってるの?」
「だからー、私の美声に釣られて男の人がやって来るでしょ? そんでー、この家には可愛い子が居るんだなーて期待しちゃうでしょ? んで、んで。出てきたのが私じゃなくて、ヒンヌーのエリちゃんだったら男の人はきっとがっかりしちゃ……」
「てめー!?」
「キャハハハハ!? だ、だからそこはダメって……あ。アハハハハハ!?」
「アンタは! ちょっと! 胸がデカいからって! いい気になってるでしょ! 私だってね! これからよ、これから!」
「……あ! あ! そこ、そこ、揉んじゃあ!? ああああああ!」
「……暑苦しいから、エロい声出すのやめろ」
早苗が言う。
____
「……はーはーはー」
「……はーはーはー、よ、余計な汗かいた」
エリ子と千代は息を荒くしていた。
「……二人とも騒ぎ過ぎ。見てたこっちも暑苦しいよ」
早苗は呆れながら、言う。
「ねーねー、エリちゃーん? クーラー」
「……お前はまだ言うか」
「そういえば、何だっけ。怪談話とか、怖い話をするって言ってなかった?」
エリ子と千代がまた騒ぎそうな様子を見て、早苗は別の話題を振った。
「あーそうだったねー。ほらエリちゃん何かない? 聞いてシンゼヨー」
「……何で私が」
「あー、クーラーなくて暑いなー。エリちゃんはおもてなしの心が無いんだなー、遠路はるばる遊びに来た私たちに、こんなひどい仕打ちを……」
「ああもう! わかったわよ、適当になんか話してあげるわよ」
「よし。さあ、話せ」
千代がエリ子を促す。
「アンタは、……もう。この辺りの怪談話かー。んー、あー。そう言えば最近は結構あるわね」
「お。そうなんだ。どんなのがあるの?」
「ええとね。嫌いな男の人を殺すおまじないとか、首をくくる幽霊の話とか、死体を掘り起こす女子高生の話とか、車を食う犬の話とか」
「え? 意外と、沢山あるね?」
驚きながら言ったのは早苗だ。
「んー、そう? ここら辺って季節ごとにいろいろな話があるよ。あー、男の人を殺すおまじないは最近までかなり効力があったみたいだし」
「えーえー。おもしろそー、それどんなの、どんなの? 私も嫌いなヤツいるんだよねー、そのおまじないで、やっちゃえる?」
千代が笑いながら言う。
「……いや、無理だと思うよ。そのおまじないっていうのはね、紙に嫌いなやつの名前を書いて。えーと、この町に高校あるの知ってるでしょ」
「知っている知ってる1校だけだよね? エリ子も進学はアソコにするの?」
「うーん、まあ家も近いしそこにするつもりだけど……」
「えー、都会の方にしよーよー。私の家から通ったらいいじゃん」
「そう言われてもねー、……まあ考えとくわ。……って話逸らさないでよね!」
「ごめーん」
「えーと、その高校の近くに小さな祠があるんだけど、その祠の前の賽銭箱に嫌いなやつの名前を書いた紙を入れればいいの」
「なんだ! 簡単じゃん! やろうー、やろうー?」
「話は最後まで聞きなさいよ、その賽銭箱ね。もう無いの」
「……へ? 無いの?」
「そう。無い」
「なーんだー。じゃあ、無理かー。面白くなーい」
千代はまた畳に寝転がった。
「でも最近までは、本当にあった?」
早苗が聞く。
「ええ。賽銭箱も、効力のほうも……あったみたい。何でもそこの高校の先生とか近所の不良グループがいなくなったらしいし」
「ふーん。でも、いなくなっただけでしょー? 嫌いなやつを殺すっていう感じじゃないんじゃないかなー?」
寝ころんだまま千代が言った。
「まあ、そうかもね」
「面白くなーい、もっとこう。背筋がゾゾゾってなる話無いのー?」
「そう言われも……ね。そっちはどうなの? こっちと違って大きな街でしょ? 怖い話はないの?」
「うーん。恋人を食う女の話とか、自動販売機でジュースを買い続ける女とか?」
「なにそれ? いや、最初のは怖い気もするけどジュースを買い続ける女? それのどこが怖いの」
「だよねー。でも見たら不気味じゃない?」
「そうかな? うーん、どうだろ」
「まあ、どこも結局聞いたような話ばっかりかー。世の中そんな特別なことがあるわけじゃないし、面白くなーい」
「平和でいいじゃない、外国の爆発テロとか見るとそう思うよ?」
「まーねー。でも、私たちには関係ないよー」
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