第42話 水着的な夏 その4

「チィ! 話になんねえ! 俺はおじきと話をつけてくる。てめえは来んなよ」

「……どうして貴方に命令されなければいけない。行きますよ、じゃなきゃ、わざわざ此処まで来た意味がない」


「俺は専務だぞ! 部長クラスの下っ端が、偉そうに意見しやがって。目障りなんだよ! 俺が社長になったら真っ先にクビにしてやるからな!」

「どうぞお好きに。まあ、貴方が社長になれたら……ですがね」


「くそが! 舐めやがって。そもそも、お前らは総会の準備があるだろうが! 無視して来てんじゃねえよ。職務放棄だぞ!?」

「それは他のメンバーがやってくれてますよ。仕事を放り出して来た貴方と違ってね。私達は貴方の無能さにほとほと愛想がつきました。そもそも、今、貴方が専務の地位についていることすら不愉快です。そういう訳で、私は他のメンバーの代表で来きました。社長と会社の未来について話し合いをするためにね」


 玄関先にいる二人は白熱した議論をしている。

 この暑さと相まって、不快指数が急上昇。

 関わらない様にさっさと逃げよう。


「お。おい! お前」 

 うわ。移動しようとしたら、アロハに見つかった。

 うーん、どうしようかな。取りあえず、呼ばれたからには返事をしよう。それが人間の礼儀です。


「……なんでしょう?」

「へー、なかなかだな。お前、おじきの愛人か? 丁度いい、むしゃくしゃしてたんだ。一発やらせろ」

 アロハの男は私に近づいてきて、行き成りそんなことを言う。

 しまったな。礼儀知らずのお猿さんに返事するんじゃなかった。


「……愛人じゃあ、ありません」

「はぁ? なんだ、じゃあおじきの客か。なら、俺を知ってるだろ? 俺は雷蔵だ。俺と寝れば楽しませてやるぜ?」

「遠慮します」

「はあ!? お前バカだろ。……まあいい。無理やりっていうのも悪くないな!」

 そう言いながらお猿さんは私の腕を掴んでくる。


 私がびっくりしていると

「まったく、社長の客によくそんな事ができますね?」

 スーツの人が声を掛けてくる。


「おいおい! 俺の楽しみを邪魔するなよ?」

「どうしても、というなら邪魔はしませんが。貴方が少女をレイプする一部始終をカメラで撮らせてもらいます。総会で話し合う資料が増えて、こちらとしては嬉しい限りです」

「舐めんなよ! そんなの金でどうとでもなる。……なあ、お前これは合意だよなぁ? はいって言えば、100万やるぜ?」

「……い、いやです。やめてください」

「チィ! ……くそが!? メンドクせえ、てめえ処女か? 後々後悔すんぜ、1発100万のチャンスを逃したんだからなあ!」

 お猿さんはそう言いながら、別荘の中に入っていく。

 スーツの人はため息をついて、お猿さんの後を追う。


 玄関先で一人になった私。

 腕を組むと体が少し震えていた。

 あれだけ暑かったのに周りが急に寒くなったようだ。

 散歩とかの気分じゃあなくなった私はすぐ部屋に帰ることにした。

 部屋の中には出て行った時と同じようにアイちゃん、狂歌ちゃん、アザミちゃんがいた。


「あれ? 早いね」

 部屋に帰るとすぐにアイちゃんが声を掛けてくる。


「……うん、ちょっとね」

 私はその言葉だけ絞り出して、ベットにダイブ。

「……どしたの?」

 アイちゃんは私のベットに腰かけた。

 たぶん心配してくれる気がする。

「うん」 

 私、今涙目になってると思う。心配させたくなかったから、そのまま枕に顔をうずめておく。

 幸いにもアイちゃんはそれ以上聞いてこなかった。



  ____暫く私がベットでダウンしていると、トントンとドアがノックされた


「はい」

 狂歌ちゃんが返事をする。

 ドアを開けて、五十嵐さんが部屋に入ってきた。

「よかった、皆いるわね。ちょっと予定変更よ」

 五十嵐さんは部屋の中を見渡して言った。


「どうかしたんですか?」

 狂歌ちゃんが私たちを代表して、五十嵐さんに質問する。

「ええ。ちょっと予定外の来客よ。ほら、所長が言ってたでしょ? ボンボンとエリートだったかしら、そいつらが来たの。これから食堂で話し合いをするみたい。所長と私も巻き添え食らっちゃったわ」

「巻き添え?」

「ええ、うちの所長って重蔵さんの秘書みたいなこともしてるの。秘書っていうより雑用係かな。まあ、そういう訳で食堂で一緒にいなくちゃいけないの。ごめんね、この分だとアルバイト無しになるかも。ああ、前金は払うからそれは心配しないで」

「そうですか。じゃあ、私たちどうしましょうか?」


 五十嵐さんは腕を組んで、少し考えるような素振りをした。

「暫くは自由行動でいいわ。一応、午後4時には部屋にいてくれるかしら?」

「わかりました」


 時計を見ると時間は午後1時30分。

 まだ、四時まで時間はある。

 働かなくても良いなら、ラッキーだ。


「じゃあまたね。ああ、取りあえず食堂には近づかない方がいいわよ。えーと、アロハシャツを着たガラの悪い男。そいつがボンボンよ。質が悪いから見かけたら注意してね」


 五十嵐さんは最後にそんな忠告をして部屋を出ていく。


「暇になったわね、浅上さんはどうするの?」

 狂歌ちゃんがこれからの予定を聞いてきた。

 でも今、私は散歩とか海に行く気分じゃない。


「うーん。このまま少し寝るよ」

 そうすれば気分も落ち着くと思うから。


「じゃあ私とアザミは海でも見てくるわ」

「うん。またね、浅上さん」

 そう言って、狂歌ちゃんとアザミちゃんは一緒に部屋を出て行く。


 部屋には私とアイちゃんが残された。

「……それで? ホントのところ何があったのよ」

 アイちゃんが、私の顔を覗き込みながら言う。


「うーん、言わなきゃダメ?」

「ダメ」

「……ボンボンさんに襲われそうになった」

「はぁ!? 何よそれ」

「散歩に行ったとき、急に迫ってこられて。……あの、別に何とも無かったから。アイちゃん、顔怖いよ?」

「まったく、とんだクソね。……確か、そいつアロハを着てるんだったわよね? ちょっと両手の骨くらい折ってこようか?」

「いや、そこまでしなくても」

「上手いこと事故に見せかけるわよ?」

「ふふ。アイちゃん、どうやって事故に見せかけて骨折るの? 難しいと思うよ……でもありがとう。気が楽になった」

「……そう」


 アイちゃんに話したら楽になった。それにアイちゃんがいつもの調子に戻った気がするのも嬉しい。

 安心したら眠くなってきた。


「ねえ、アイちゃん。私少し寝るから。三時くらいに起こしてくれる?」

「わかった」


 部屋にアイちゃんがいるなら安心。アイちゃんアラームもセットした。

 さあ、嫌なことは寝て忘れましょう。


 おやすみなさーい。

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