第40話 水着的な夏 その2
「ではでは。依頼内容と言いますか、アルバイトの内容を説明します。まあ、やることは簡単ですよ。今回行く島で行方不明の男性を探すだけです。行方不明の男性は
私たちを乗せた車は港に向けて出発。車内で山田さんが今回のアルバイトについて説明を始めた。
「49です所長」
運転をしていた五十嵐さんが真っ直ぐ、前を見たままで答える。
「ああ、そうそう。すみませんねえ、ど忘れしちゃいました。はははは、えーと、その49歳の慎吾さんを探すだけです。簡単でしょ?」
確かにやることは簡単だけど、ちょっと疑問がある。
「……すみません、探偵さん。わざわざ部外者の私たちをアルバイトに雇ってまで探す理由は、何でしょうか?」
狂歌ちゃんが私の代わりに山田さんに質問してくれた。
「ははは。此処からがややこしい所でしてねえ。……居方ホールディングスって聞いたことありますよね? あの、半導体とか精密機械の名門企業ですよ。私たちがこれから行く沖合の島は、そこの居方ホールディングスの経営者一族の所有です。で、そこで行方不明になった居方慎吾さん。この人ですねえ……今の社長の息子さんでして」
山田さんの説明を大人しく聞く。でも、今のところ、そんなにややこしそうな話に聞こえないけどなあ。
「それでですねえ。実はもうすぐ、株主総会で次期社長を決める決議があるのですが……次期社長候補は五人いるんですよ。一人は行方不明の慎吾さん、もう四人は……まあ具体的な名前はいいでしょう。皆さんに直接関係ありませんから。ええと、他の四人の内、社長と血縁関係のある者は一人。まあ、この人を仮にボンボンさんと言いましょうか。はははは、一族経営の難点というか弱点というか。実力じゃあなくて血筋で社長の地位が決まるなんてちょっとどうかなぁと思いますよね? えーと、ボンボンさんを除いた後の3人は、親類とかじゃあなくて、会社で普通に実力がある人です。仮にエリートさん1、2、3とでもしましょうか?」
あれ? 一気に訳が分からなくなった。
社長候補が五人? 株主総会?
山田さんは混乱している私を見た。
「すみません、すみません。ちょっと分りにくいですよね。ややこしい所はですねえ。本来なら、行方不明の慎吾さんが社長で決まりだった所です。慎吾さんは実力も血筋も充分。もう、言うことなしですねえ」
「……えーと、その人がいなくなったから、揉めるってことですか?」
「その通りです! 浅上さん。ボンボンさんは人格と能力に難ありです。普通はそんな人、社長にしませんが。流石と言いますか、何と言いましょうか、一族経営の伝統がある居方ホールディングス。慎吾さんが総会までに見つからなければ、ボンボンさんが社長になる可能性は大きいです。古くから続いているだけあって、価値観も古臭いですよねえ? でもでも、エリートさんたち一派はこう言います。やっぱり会社の利益、未来を考えると実力のある人が良いに決まってるじゃあないか。それに対してボンボンさん。いやいや、これまでの伝統を何だと思ってるんだ、俺が社長になる、ならなければおかしい。お互い譲らない、ええ、ええ。揉める揉める。……まあ、それはいいですけど。問題は私の依頼人です……つまりですねえ、ぶっちゃけ言います。私の依頼人は今の社長、居方重蔵さんです。ですがこの方、殺人事件の可能性を考えています」
「はい?」
山田さんは、私の方を向いて言った。
でも、殺人事件? いきなり、人探しとか跡継ぎ問題から話が飛んだような?
「殺人事件、つまり、ボンボンさん、エリートさん一派、どちらかが未来の社長確定である居方慎吾さんを殺したのではないか? そういう風に思ったわけですよ重蔵さんは。重蔵さんがそう考えたのは、慎吾さんが行方不明になった状況がかなり不自然でして。それが理由かなぁ。ああ、それと慎吾さんが島で行方不明になった日は残りの四人、未来の社長さんになる可能性のある四人が慎吾さんと一緒に島でいた、というのもありますねえ。で、実際にその四人の内、誰が社長になってもおかしくない状況です。他の役員も悩んでますしねえ。そういう訳で、重蔵さんは息子さんが行方不明になったことを警察にも届けていませんし、探し手も大々的に確保できなかった。当然ですよねえ、株主総会の前に次期社長候補同士で殺し合いなんて、はははは。万が一その想像が正しかったら、会社のダメージは計り知れません。できるだけ、内々で処理したい案件です」
なんだがドロドロした話だなー。でも、私たちホントにこんな話聞いちゃって大丈夫なのかな?
「……山田さん? 内々って言いますけど、私達って完璧な部外者と言うか……」
心配になった私は山田さんに確認してみる。
「私は重蔵さんにお金で飼われているような身ですしねえ。ええと、すみません。こういうことは、言いたくないんですが。浅上さん達は、……言うなれば、特別な身分もない高校生です。もし、浅上さんたちが今回のことを話したとしても、誰も信じてくれないと思いますよ? 重蔵さんの想像通りだったとしても、居方ホールディングス側としては全力で否定するでしょうし。大企業の力って中々恐ろしいところがありますからね。えーと、浅上さん。今はまだ、事実は何も分かりませんが、仮に何かわかったとしても口外しないでくださいね?」
「しません、しません」
山田さんの言葉に私はビビった。
私は命大事に、お金も大事に、が信条です。
「という訳で、前金の代わりという訳ではないんですが。向こうの島に着いたら、携帯電話とかカメラとかを、お持ちなら預からせていただきます。と言っても、携帯はそもそも圏外ですので、持ってても通信はできないんですけど、最近のヤツはカメラ機能とかあるじゃあないですか。……皆さん申し訳ないですねえ、でも皆さんに万が一にも危害が加わらないようにする為ですので。あまり心配しないでください」
山田さんは私や、後部座席に座っている狂歌ちゃん、アザミちゃん、アイちゃんを見渡しながら謝る。
でも、そんな話聞いて心配するなって方が無理。まあ、万が一襲われそうになっても狂歌ちゃんやアイちゃんがいる。この二人ってかなり強いと思う。大抵の相手は返り討ちだ。よし、万が一の時は、私は後ろで二人の応援をしよう。
「さて、と。依頼の裏話はこれくらいで。最初にも言いましたが、僕たちがすることは単純です。居方慎吾さんを見つければいいだけです」
山田さんは改めて私たちのすることを教えてくれる、けど。
「ええと、山田さん。本当にそれだけでいいんですか? ほら、依頼人の社長さんは殺人事件と思ってるんでしょ。なら犯人を調べて欲しいとかは?」
「それは僕たちの仕事じゃあないですよ。ははは。まあ、犯人探しとか言われても僕そんなことできないですし」
「えー。山田さん探偵でしょ? 犯人見つけたりしないんですか?」
「しません、しません。そうゆうのは警察にお任せです。そもそも依頼されてないですし、重蔵さんも僕にそんなこと期待してないと思うなあ。ですから面倒ごとには巻き込まれないですよ。重蔵さんが僕に依頼してるのはあくまでも、慎吾さんの捜索です。そもそも、浅上さんたちと一緒に探すのって今日、一日だけですし」
「あ、そういえば探す日程とか聞いて無いと思ったら、今日だけなんですね。そんなに複雑な話なら泊りがけかも知れないって思ってました」
「すみません、すみません。言ってませんでしたね、実はもう既に僕たちだけで、島中捜索したんですよ。でも見つかりませんでした。実際、重蔵さんも、もう慎吾さんは見つからないと諦めているはずです。だから、捜索は今日で打ち切り。そんな最後の日に、僕が浅上さん達と一緒に探すとしても、見つかるなんて期待してないでしょう。……ええ、もし、重蔵さんの考え通り、殺人犯とかがいたとしてもわざわざ邪魔してこないハズです。今までも捜索中に変な邪魔なんてありませんでしたし。だから、このアルバイトは安全ですよ、浅上さん」
このバイト大丈夫かしら、と心配してた私の気持ちを察したのだろう。山田さんは私たちを安心させるような説明をしてくれた。
「一応、私たちの安全は考えてくれてたんですね?」
「当然ですよ! 浅上さんを危険な目に合わせるなんて、トンデモナイ!?」
でも、思うのだ。
「でも山田さん。少しは危険だと思ってるんですよね、だったら何で私たちをバイトで雇ったんですか? それも最終日だけ。今日一日ボーとしてればいいじゃないですか?」
「はははは、やっぱり浅上さんは鋭いですねえ。実は……成功報酬が惜しくなりましてね。見つければ1000万くれるっていうんですよ重蔵さんは!? 1000万、こ、これは大金ですよ。慎吾さんを見つけてくれる浅上さんと割ったとしても、うちの事務所には500万もの臨時収入が入る計算です。……困った時の浅上さんですよ! これで勝てる!! …………あ、痛!?」
へぼ探偵の頭に肘が入った。
後部座席の狂歌ちゃんが私の代わりに入れてくれたのだ。
そもそも、私はそんなドラ○もん的ポジションになった覚えはありません。
__へぼ探偵のどーでもいい話を聞きながら車に揺られ、船に揺られ、やってきました夏の離島。
砂浜に打ち寄せる波。
青い青い夏空。
空を支配するギラギラの太陽。
携帯も通じない、文字通り海の孤島。
あれ? そもそも私、軽い気持ちで割のいいバイトを受けた気になっていたけど。
なーんか、南の島でバカンス……みたいな雰囲気ではない様な?
……どうしてこうなった。
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