7月編
第34話 ホタルは光るか?
今日は、7月2日。
うちの高校では昨日の7月1日から期末テストが始まった。
私はこの前の中間テストで赤点を叩き出してしまったけど、……今回の期末テストはイケる気がする!
と言うのも、私は三週間前くらいに、狂歌ちゃんに足を刺されてからずっと散歩ができなかった。
その間アイちゃんや、狂歌ちゃんに強制的に勉強させられていたのです。
辛かったけど、頑張った甲斐があって、昨日のテストはできた。
週明けて、あと3日はテスト期間が残ってるけど、それも大丈夫そうだ。夏休みが、補習で削られることはなさそう。よかった、よかった。
という訳で。
「アイちゃん。狂歌ちゃん、ホタル見に行こうよー」
土曜日の夜。
私の部屋に集まっていた二人に提案する。
「はあ? 何言ってるの。まだあと3日試験が残ってるでしょ? ほら、勉強しろ」
「そうよ。油断してたら、また赤点取るわよ、浅上さん?」
アイちゃんも狂歌ちゃんもひどい。私はもう、勉強には飽きた。
「今年はまだホタル見に行ってないから、行きたいの。そろそろホタルの時期も終わっちゃうでしょ?」
足の怪我も治ってきた。リハビリに散歩に行きたい。
「ダメダメ。大人しくしてなさいよ。夜子ちゃん」
「そうよ。それにもう、7月でしょ。ホタルなんていないんじゃないかしら?」
「大丈夫だよ。きっとまだいるよ~。最近、散歩してないから体動かしたいの。それに…………あー。つらいなー足、痛かったなー。狂歌ちゃんに刺された傷は痛かったなー。あ、そうだ。刺されたし、サッカーボールみたいに蹴られたよね~私。あー友達にあんなに蹴られて悲しかったなー」
「うっ」
効果は抜群だ。
私の攻撃で、狂歌ちゃんは辛そうにしている。
「ちょっとちょっと、人が悪いわよ、夜子ちゃん。勉強したくないからって佐藤の弱みを突くんじゃない」
狂歌ちゃんは倒した。
後、私を遮る障害は、アイちゃんだけだ。
「アイちゃん、アイちゃん」
「何よ?」
「そう言えば、最近私たちと期末テストの勉強してて翔太君とあんまり会えてないんじゃないかな? テスト勉強の気晴らしに翔太君を誘ってみたら? ホタルでも見ようって。私たちも一緒に行くけど、二人とは離れたところで邪魔にならないようにするから。ね、ね?」
「………………しょ、しょうがないわね。まあ、偶には気晴らしもいいかもね」
__そうして、私を遮るものは誰もいなくなった。
やっぱり、一年に一度はホタルを見ておかないと。
アイちゃんと自転車を二人乗りして河原に行く。運転はアイちゃんで、私は自転車の後ろで荷台に座っているから楽チンだ。
狂歌ちゃんは一人で自分の自転車を漕いでいる。狂歌ちゃんがアザミちゃんと一緒にいないと変な違和感がある。だって、二人はいつも一緒だったから。
……実は、アザミちゃんは、最近落ち込んでいる。
いのりと会った後、死んでしまった赤ちゃんをみんなで埋葬して。アザミちゃんは、自分のしたこと、人殺しを後悔したみたい。だから、狂歌ちゃんと一緒に警察署に行った。
__でも。
「ねえ? 狂歌ちゃん、今日はアザミちゃんの様子はどうなのかな?」
家からホタルがいる河原まで時間がかかる、私は自転車の後ろから狂歌ちゃんに話しかけた。
「……今日も家に引きこもったままよ。私にも会ってくれないわ」
「そうなんだ。えーと、警察署に行ってどうだったの?」
「相手にしてくれなかった。……いえ、違うわね。きちんと私たちの話は聞いてくれたわ、でも、だからかしら。信じてもらえなかったわ。まあ、しょうがないのかもね? 人を殺しました、その殺した死体は消えてなくなりました。たぶん、死体が死体を食べたんだと思いますって言ってもね。信じる方がおかしいわ」
「うーん、アザミちゃんは嘘つかなかったのかな?」
「そうね。たぶん、疲れてたんじゃないかしら? いろいろあって。それに、仕方ないわ、上手く説明しようも無かったわよ。死体については、私たちが隠したんじゃあないしね」
「そう」
アザミちゃん、早く元気になるといいな。
河原に付くと、翔太君が来ていた。
アイちゃんが家を出る前に連絡してたけど、さすがに早いな~。
アイちゃんと翔太君は二人で仲良く、河原にある舟に行く。
あの舟はホタルの時期だけ、遊覧舟として使っているヤツだ。橋に係留してあったけど、二人は勝手にロープを外して舟に乗った。アグレッシブな行動で、手慣れている感じがする。きっと、前々からああやって遊んでたんじゃないかな?
さて、肝心のホタルは……居ないことはないけど、少ないなー。
ちょっと時期が遅かったみたい。やっぱり6月中旬が見ごろかな? うーん、でもその頃私は足が痛くて、動けなかったし。
「はあ。いいわねえ、愛さんは。彼氏さんと楽しいそうで」
狂歌ちゃんはカップルを見ながら、ため息をついた。
「うん。羨ましいよね」
私は狂歌ちゃんのつぶやきに同意する。
「……アザミもね。ホントは普通の女の子なのよ」
「うん? えっと、どういうこと?」
「普通に男の方が好きってこと。女の子が好きな私と違ってね」
「そうなの?」
「そうよ。私はアザミの弱みに付け込んでたようなもの。……でも、私は後悔してないの。アザミが望むなら何だってしてあげれるし、人を殺したことも後悔してない。アザミの気が済むなら、警察に出頭しても別にどうも思わなかったわ」
「うん」
「でもねえ? 本当にそれでよかったの? 結局私は、自分の好きなようにしてただけで。……私、アザミの助けになれてたのかしら。実はアザミを傷つけていた男たちと一緒で、私は自分の欲望のためにアザミを傷つけてたんじゃないかしら?」
「大丈夫だよ。だって狂歌ちゃんは、きちんと、アザミちゃんのこと考えてるでしょ? アザミちゃんも狂歌ちゃんと一緒だと楽しそうだったし」
「……だと、いいんだけどね」
川を見る。アイちゃんと翔太君は舟でゆっくり川を流れていく。その二人の側には幸せな空気でもあるのか、ホタルは他の場所より比較的多い。舟の周りを飛び回って、光っているのはオスのホタルだろう。メスは木に止まって、じっと動かず、でもオスの光に合わせる様にゆっくりと光る。
舟から目を離すと、ふと一匹のホタルが目に留まった。
そのホタルは他のホタルより、一層強い光で飛び回っている。けど、そのホタルの周りは、……真っ暗。相手のホタルはいない。
「……まるで私みたいね?」
狂歌ちゃんもその孤独なホタルを見ていた。
「狂歌ちゃん」
「あんなに光って、頑張っても。相手がいないんじゃあ意味ないわ」
「でも、頑張ってる姿は誰かが見てくれてるんじゃないかな? ほら、実際に私たちが見てるし」
「……ホタルって確か、オスもメスも光るのよね? きっと、あれはメスよ。気の違ったメスね。オスより、メスが好きで飛び回っているに違いないわ。そんなの相手にされるわけない。……無様ね」
狂歌ちゃんはじっと、一匹のホタルを見ている。最近、アザミちゃんと会えてないから寂しいそう。
あのホタルの相手がいたら、……光れば、少しは元気を出してくれるのかな?
二人で、一緒にホタルを見る。……中々相手は現れそうにない。
その時。
__プルルルルルルル、と音がした。
狂歌ちゃんの服のポケットがぼんやり光っている。
狂歌ちゃんはうっとうしいそうに、スマホを取り出す。けど、画面を見て表情が一変した。
「アザミ! ちょっと、大丈夫なの? うん、うん。……そう、心配したわ。昨日の試験にも出てこないんだもの。うん、じゃあ、来週には来れるのよね? そう、……よかった。それで__」
狂歌ちゃんは少し涙ぐんでいる。
よかったね。ホタルは光ったみたい。
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