第29話 二つの天秤が傾く先は その1

「終わったー。私は自由だー!」


 放課後。

 やっと中間テストの補習が終わった。

 五月中旬にあった、中間テストで数学Ⅱと英語がレッドだったのだ。

 疲れたし、辛かった。


「おつかれ、夜子ちゃん。じゃあ帰ろ」

 机に突っ伏していた私に声がかかる。顔をあげると、アイちゃんがいた。


「アイちゃんー。待っててくれたんだー。ありがとー」

「……いやいや、まだ日が高いでしょう? 一人で出歩けないから仕方なくよ、仕方なく」

 私がお礼を言うと、アイちゃんは呆れたように片手をあげた。


「でも、アイちゃん頭いいんだね。赤点一個も無いなんて、すごいねー」

「あのねえ、夜子ちゃん。うちのクラスで赤点叩き出したのなんて、アンタくらいでしょ?」

「古典は満点だったのにー」

「そっちの方がすごいと思うけど? 古典なんて英語より理解できないわ」

「私は英語とかのほうが苦手」

「それにしても、中間テストで赤点とっただけであんなに課題が出るのね。夜子ちゃんのやってる量見て、軽くひいたわ」


 それは私もびっくりした、課題と補習をこなすだけで一週間くらい掛かった。

「まあ、終わったし良かったよー。あー、疲れたー。家に帰ってゆっくりしよー」

「そんなに油断してないで、期末テストに向けてちょっとは勉強しなさいよ? 確か7月の頭くらいから試験開始でしょ?」

「うわー。イヤことを言わないでよ」

「毎日コツコツやればいいのよ、今日も少しは勉強しましょう。ほら、後三週間くらいしかないわよ」

「真面目だなー。アイちゃんは。でも今日くらいはゆっくりさせてー。さっきまで補習受けてたし、いいでしょ?」

「まったく、しょうがないわねえ」

「アイちゃん、今度の期末前に勉強教えてね?」

「はあ? 何言ってるのよ、まず自分でやりなさい自分で。そうしないと身につかないわ」

「やってわからないトコ、教えてね? また翔太君とのデート、協力するから」

「……しょうがないわね」


 よし、アイちゃんの協力を取り付けた。ふふふ、翔太君を餌にすれば、アイちゃんは簡単に釣れる。

 それにしても、今度の期末テストは赤点無しでいきたいものである。期末テストで赤点だったら、夏休みが削られてしまうだろうし。


 アイちゃんと二人で家に帰る。最近は翔太君と一緒にいるアイちゃんの後をつけることが多かった。けど、やっぱりアイちゃんと二人で一緒に帰るほうが楽しい。仲のいい恋人の後をつけるなんて、私にとっては罰ゲームでしかない。こんなことを仕事にしてるヘボ探偵はやっぱり、ちょっとおかしい気がする。


 __家に着いた。


 私は自分の部屋に行って、ベットに倒れこむ。

「あー。しあわせー」

 思わず声が漏れる。


「ちょっと、制服のままベットに寝ないでよねー。シワになっちゃうよ?」

「はーい」

 アイちゃんに怒られてしまった。

 服を着替えよう。そして、今日は部屋でゴロゴロしてよう。疲れてるから、散歩もなし。


 __ピンポーン


 あれ? インターホンが鳴った。誰か来たのかな?

 私は玄関に出ていく。


「浅上さん、やっと補習終わったのね」

「うん、大変だったねー浅上さん。お疲れ様ー」


 狂歌ちゃんとアザミちゃんがやって来た。

 家の時計を見ると午後6時。二人がこんな時間に来るなんて珍しい。


「狂歌ちゃん、アザミちゃん。どうしたの?」


「今日の夜ちょっとお願いしたいことがあるのよ。補習も終わったし、浅上さん暇でしょう?」

「確かに暇だけどー。疲れてるし、今日は家でゴロゴロしてたいの」

「暇なのね。ちょっと協力してほしいんだけど?」

 狂歌ちゃんのプッシュがすごい。


「えーと、どうしたの?」

「ほら、この前言ってたでしょう? 私たちの人助けの件よ。それでね、今度はちょっと人数が多いから大丈夫かなと思って」


 うん? 人助け? 人殺しの間違いではないでしょうか。

 狂歌ちゃんは眼鏡に手を添えながら言う。

 横にいるアザミちゃんも不安そうに首をかしげている。


 この二人は一見ただの高校生に見えるかもしれない。でも、そうではない。かなり変わってる。二人はなんと! 女の子同士でお付き合いしているのです。


 それと、狂歌ちゃんのスカートの中を見た男の人はたぶん死ぬ。アザミちゃんに男の人が性的に襲い掛かろうとしても、きっと死ぬ。

 二人の人助けさつじんの方法は、アザミちゃんを囮にして、男の人が油断したところを狂歌ちゃんがスカートの中に隠しているナイフでバッサリいくというスタイル。

 アザミちゃんも催涙スプレーを隠し持ってるから、このコンビの人助けさつじんから逃げれる男の人ってかなり少ないと思う。


「人数が多い?」

「うん、そうなのー。今回はね、たぶん六人くらい。浅上さん、後始末大丈夫かな?」

 アザミちゃんは何気なくいうけど、6人! 多いなー。

 どうだろ? いのりのやつ、6人も処分できるのかな?

 うーん、もういっそ人違いだって説明してみようかしら? いつまでも、いのりが死体処理するとは限らないし。そもそも人殺しはあんまりよくない気がする。


 ……よし、二人に本当のことを話そう!


「まあ、立ち話もなんだから上がって? 私の部屋でお話ししようよ?」

 でも、ちょっと怖いから部屋に誘ってみる。私の部屋にはアイちゃんもいるしね。


「わかったわ」

「うん、いいよ」

 お二人の承諾も得られたし、部屋に案内する。


 部屋では私服に着替えたアイちゃんが私のベットで漫画を読んでいた。


「ちょっと、浅上さん? なんで愛さんがいるのかしら」

「はぁ? 私がいちゃいけないの?」


 うわ。アイちゃんと狂歌ちゃんがにらみ合ってる。そう言えばこの二人仲が悪かった。

 そもそも、私はアイちゃんに、狂歌ちゃんとアザミちゃんの人助けについて説明してなかった。

 それに、狂歌ちゃんとアザミちゃんに、いのりについて説明しようとしたら、アイちゃんの体についても説明しなければいけないだろうし、これはちょっと大変かもしれないです。

 …………どうしよう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る