6月編
第28話 カニのいる神社
深夜。
私はアイちゃんと一緒に神社に来た。
夜の神社はとても静か。この頃、日中は暑くなってきたけど、夜はまだ涼しい。だから私は夜の散歩が好き。
「へー。こんなところに神社あったんだ」
「うん。知らなかったアイちゃん?」
「知らなかった」
この神社はだいぶ古い。場所もわかりにくい所にある。知らなくて当然かもしれない。
「夜子ちゃん、今日もまた、死体を探すの?」
「いつも死体を探してるわけじゃないよー。今日はね、アイちゃんが翔太君と上手くいったでしょう? そのお礼参りをしようと思って来たの」
「え! あんたが死体を探してない時ってあるの!?」
「……なんでそんなに驚くのかな?」
確かに死体観察は私の趣味で、その趣味のためには死体探しは欠かせない。だけど、いつもいつも探しているハズはないし、探しても見つからない時もある。
「それよりもね。私がアイちゃんの恋愛が上手くいきますようにって、願掛けしてたほうに驚いてほしい」
「ふーん、そんなことしてくれてたんだ。夜子ちゃん、ありがとう、ね。でも、そんなの効果あるのかな。ま、確かに上手くいったけど、神様とかのおかげというより、夜子ちゃんがいろいろ相談に乗ってくれたおかげでしょう?」
「そうかも。でもね、この神社はとってもご利益があるんだよ!」
「そんなの聞いたことないけど。とってもボロいし此処。あんまり人来てないんじゃない?」
確かにこの神社はあまり有名ではないかもしれない。木造の建物は古い。塗装が剥がれている木の鳥居が幾つもある。石段も古くて、苔が生えている。アスファルト舗装されている場所なんてない、だけど、昔からずっとこうして此処にある。
「まあ、見た目は悪いかも。でも見て、ほら」
私は足元で動いた小さなモノを指さした。
「わ。カニだ。ここカニがいるの?」
「そうなんだよ。この神社、この時期になるとカニが来るの。特に満月の日とか雨の次の日は多いね」
「ふーん。それが何かご利益に関係するの?」
アイちゃんは足元のカニを見ながら聞いてきた。
「お母さんが言ってたんだけど……」
「え! 夜子ちゃんお母さんいたの!」
驚いたようにこっちを見つめてくるアイちゃん。でも、驚いたのはこっちの方だ。お母さんはいつも家にいるのに。
「……いや、いや。アイちゃん、ずっと私の家にいるのになんで知らないのかなー」
「……私は会ったことないけど」
「お母さんが作った料理とか食べてるでしょう?」
「え? あれ夜子ちゃんが作ってるんじゃないの!! いや、そもそも私3月くらいからずっと居候してたと思うけど、あの家で夜子ちゃん以外と会ったことないよ? えーと、……一応、一応聞いときたいんだけど。あの家って何人いるの?」
「お母さんとお父さんと私の三人だよ」
「お父さんいるの!!!」
「ええー? 何でそんなに驚くの?」
いい加減、ちょっとアイちゃんは失礼じゃないでしょうか。私にだって親はいる。
「……ちなみに、ちなみにだけど。お父さん何してるの?」
「うーん、具体的には知らないけど、たぶん人形とか作ってると思う。あとお母さんに言われて何処かに出かけてる? まあ、二人ともちょっと変わってるかなー」
「うわああああ。夜子ちゃんが変わってるって言うことは、すっごく、まともな人か。もしくは、トンデモなくぶっ飛んでるナニかだよね。ああー、聞くんじゃなかったわ。……気にしない、気にしちゃだめ。忘れろ忘れろ。いや、私は何も聞いてない。夜子ちゃんに親なんていない。いやいや、ちょっとお二人とも出張で県外とか行ってて会えてないだけ。そうよ、そう。何も変なことは……」
アイちゃんが頭を抱えて何かブツブツと呟きだした。大丈夫かな?
「話し戻しても良い? アイちゃん」
「あー、……うん。どうぞ、どうぞ。大丈夫だよー、大丈夫、大丈夫」
「お母さんが言ってたんだけど、この神社はねー。海に近くて、カニがよく来るの」
「ふーん。へー」
「カニは特別な生き物だって知ってるアイちゃん?」
「知らない。……それもお母さんの受け売り?」
「そうそう。蟹の死にばさみって聞いたことないかな、カニって執念深いらしいよ。海でカニはそれぞれの身の丈に合った執念を集めて、それをこの神社に持ってきてるんだって」
「夜子ちゃん、ちょっと待って。その話最後まで聞いて、私、大丈夫? なんか変な呪いとか掛かったりしない?」
「え。しないしない。大丈夫だよー。別に怖い話じゃないし」
「……そう、ならいいわ」
「それでねー。カニはこの神社の本殿に祀ってある神体にそれを奉納しているんだって。ほら見て、参道にカニが沢山いるでしょう? 広い海でたくさんの執念を集めて沢山のカニがここの神体に奉納してるの。だから、人間はあまり来てないけど、この神社のご神体はとても力を持ってるの」
「……そこへ、今から私たち行くの? 私だけ、帰ってもいい?」
「アイちゃーん、願掛けして、願いが叶ったらお礼をしないと」
たぶんそれが礼儀だし。
さあ、鳥居付近にある水場で手洗い口瀬ぎをしよう。
柄杓で水を左手、右手と順番にかけ、左手に水をくみ口をすすぎます。
「くちゅくちゅ、っぺ。はい、アイちゃんも」
「うーわー。なんか、えー。カニもこの水場に来てから奥に行ってるように見えるけど? てか、奥に行けば、行くほど気色悪いぐらいにカニいない? えー、なんかトンデモないトコに連れていかれようとしてない私? 大丈夫? ねえ大丈夫なの?」
何故か、しぶるアイちゃんを連れて、私はお礼参りに行く。
ありがとうの気持ちは大切だと思うから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます