第25話 失恋の味は
翔太とは子供の時から不思議と馬が合う。
僕は運動が好きな翔太と違って、インドア派だ。
サッカーは子供のころからよく翔太としていたけど……嫌いだ。そんなことより家でゲームしたり、アニメ見たり、本を読んだりする方がよっぽど良い。
「
学校の昼休み。一緒に教室で昼食を食べていると翔太がサッカーに誘ってくる。
「いや、やめとくよ。今日は家でネトゲやりたい」
「またゲームか。運動しろよ、運動を。お前は運動神経良いんだからさ、真面目にやればかなり良いトコ行くんじゃないか。もったいないって言うかさ」
翔太はこの前兄さんを亡くしたばかりだ。しばらく気を落としていた。でも最近、少しづつだけど元気になってきていた。
それはいいことだけど。
「もったいないって言われてもな。やりたくないんだから、しょうがないだろ?」
「はぁ。お前がサッカー部入ってくれたらなあ。絶対俺より才能あるよ。何というか、羨ましい」
翔太は女子お手製の弁当を食いながら言う。そのタコさんウィンナーを僕にも食わせろ。
まったく、羨ましいのはこっちの方だ。翔太は気さくで女子に人気がある。顔もイイ、家は金持ちだ。それに比べて、僕は人見知りをするし、女子と思っているように話せない。自分の顔はまあ普通、かな。家は貧乏じゃあないというくらい。
それに、……ああ、考えただけで。翔太のやつは、憎らしいほど羨ましい。
「……翔太、お前が言うと嫌味だろ。なぁ? 自分の境遇をよく考えてみてくれよ。いや、まあいいか。それよりちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「お前好きな子っているの?」
「……どうした突然?」
翔太はちょっと驚いたように、箸を止めて聞いてくる。確かに僕はこういう話題は苦手だ。今まで彼女なんていないし、翔太もそうだ。翔太のやつ人気はあるのに彼女を作ろうとしなかった。告白されても、断る。だからお互い女子関係の話題なんてほとんどしない。
「そういわれると困るけど。はぁ」
どう言おうか。俺は机の上で頭を抱えた。
「なあ、翔太。今お前が食ってる弁当だけどな。それって女子のお手製だよな?」
「ああ、愛が作ってくれた」
「……はあ。だからさ、ちょっと聞きたいんだよ。お前は人気があるだろ? 女子にな、全く憎たらしい奴だよ。ああ、そうだ。お前は人気がある、だから、そろそろ誰かと付き合えよ。お前を好きな女子は結構いるぜ。さっさと好きなヤツとくっつけ。でないと、お前を好きな女子がいつまでたっても諦められないだろ? 翔太が好きな女子がいるのなら……それ以外の女子の相手を空けてやれ。それが男子のためだし。なあ、そう思うだろ? 」
「何だ? 誰かに頼まれたのか? 聞いて来いって。いやでも居ないよ俺は。好きな奴なんて。好きでもない奴と付き合うつもりはないし。……それでどこの男子が聞いてきたんだ? それとも女子か?」
「……はあ。それを僕が言うと思うのか?」
「まあ、お前は言わないよな。でも、お前経由でラブレターはもう勘弁してほしいけどな」
「僕はな。ラブレターなんて、お前宛て以外のはもらったことないんだけどな、……さっさと死んでしまえ」
「おいおい。死ねって酷いだろ」
「ああ、ごめん。つい本音がでた。まあ、それはいいとして。じゃあ翔太、お前、好きな人はいないってことでオッケー?」
「そう言ってるだろ。オッケーオッケー」
気軽そうに応える翔太。
一応、翔太に好きな女子はいないと聞いた。後は報告するだけだ。
__放課後
「そういうことだよ。浅上さん」
「うん、ありがとうね。太一君」
「どういたしまして」
放課後の教室で浅上さんに報告する。
翔太はグランドでサッカーをしている時間だ。
教室には浅上さんの他にもう一人。秋葉原、愛さんがいた。彼女は何故か壁に向かってシャドーボクシングをしている。
「シッシッシッシ」
軽快な足さばきでジャブを打つ。
「アイちゃーん! 翔太君好きな子いないってー!」
「聞いてたわ! 今! 気合入れてるの! ちょっとほっといて~! シッシッシッシ」
やはり彼女は、これから翔太に告白するようだ。
翔太はどうするのだろう、幼馴染の彼女に告白されて。他の女子の告白は断ってきている。当然弁当も受け取らない。でも、愛さんの弁当だけは食べる。
わかってる、みんな二人の気持ちなんて薄々気づいているんだ。でも、二人ともはっきりと付き合ったりしない。翔太は好きな子はいないというから、女子も諦められない。
……願わくば、翔太が愛さんの告白を断りますように。ああ、こんなことを考える自分は嫌なヤツだ。
泣いてる愛さんは見たくない。でも、他の人には、とられたくない。
翔太のやつが羨ましい。
俺も愛さんの手料理が食べたかった。
いや、まだ希望はある。ほとんどゼロに近い確率だろうけど。二人は付き合ってない。万が一、翔太が断ったら、まだ俺にも希望がある。そうだよ、好きな人が、自分じゃあない人を好きでもなかなか諦めなんてつかないだろう。まして二人は付き合ってもいない。
そろそろ翔太の部活も終わる。
あと30分後くらいで、僕の恋がどうなるかはっきりするだろう。
「……あ、そうだ、忘れてた。太一君、これお礼だよ。アイちゃんお手製のクッキー」
少しボンヤリとしていたら、浅上さんがビニール袋に入ったクッキーをくれた。
「どうも、ありがとう」
僕は、それを受け取る。
__その日、やはり僕は失恋した。
前々からわかっていたことだ。
昔はよく3人でサッカーをしたな。
愛さんは翔太ばかりを見ていた。だから、僕はサッカーが嫌いになったのかもしれない。
もしかして、翔太は僕に気を遣っていたのかも。でも、やめてくれ。気にするな、これでよかったんだ。僕もすっきりした。
僕の幼馴染は二人で仲良く帰っていく。
今日はいい日だ。念願のクッキーが食べられたし。
だから、僕にとって失恋とは、甘いクッキーの味だった。
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