5月編
第21話 黄金週間 (パンでミック)
ゴールデンウイーク。
世界は滅亡の危機にあった。謎の伝染病が世界的に流行、この伝染病は致死率90パーセント。
この危機を救えるのは私たち四人しかいない。
「そういうことだよ! みんなで世界を救おう!?」
私は仲間であるアイちゃんと狂歌ちゃん、アザミちゃんに呼びかける。
「ボードゲームかな。うんうん、面白そう」
「えー。せっかくの休みなんだからもっと別のことしようよ」
「浅上さん? まずは宿題を済ませたらどうなの」
なんと、世界を救おうという気概のある仲間はアザミちゃんしかいない。
他の二人は気が進みませんという顔をしている。狂歌ちゃんに至っては私に宿題をすすめてくる、さすが学級委員。
「でも、宿題するの飽きちゃったし」
「けっこう出されているわよ、早いうちにやっておいた方がいいんじゃないかしら」
偶に親と一緒に長期休暇を取って旅行に出かける生徒がいるとかで、ゴールデンウイークに入る前に大量に宿題・課題が出た。でもこの部屋にいるメンバーは旅行とかに出かける予定は特にない。だから、休みに入ると私の家に集まって宿題をすることになったのだ。
「宿題ばっかりしてられないよ。ちょっとだけだから。ね、ね?」
「はあ。仕方ないわね、少しだけよ。みんなもそれでいい?」
「うん」
「まあいいわよ、気は進まないけどねー」
やった、仲間たちがやる気になった。これで世界を救える!
「でもこんなゲームやったことないわね、人○ゲームとかはやったことあるけど」
「ルールはいろいろあるけど、やってれば覚えるよ」
私はコタツ机の上にボードゲームを用意する。ゲーム盤置いて、マーカー置いて、プレイヤー駒置いて……
「何コレ?」
アイちゃんが半透明で小さなプラスティックを一つ手に取った。
「それは病原体」
「ふーん、色が4色あるんだ」
「そうそう。だから病原体の種類も4種類あるの。これで世界がやばいことになる前に特効薬をつくらなきゃいけないんだ」
「ふーん。まあさっさと、やってさっさと終わらせましょ」
みんなで説明書を見ながら、ルールを確認する。
ゲームの勝利条件はさっきも言ったように4つの病原体の治療薬を発見すること。
敗北条件はカード引けなくなるか、アウトブレイクしまくるか、病原体が置けなくなったらアウト。
さて、ゲームの開始です!
「ちょっと、どうしてそこへ行くのかしら愛さん?」
「うっさいわねえ。どこ行こうが私の勝手でしょう、あそこの病原体がやばいじゃん。もう弾けそうでしょうが」
「アソコは衛生兵のアザミが行くわよ、それよりも科学者でしょう貴方。こっちでカード受け渡して特効薬作ったほうが効率がいいわ」
「私はもう決めたのよ、そうした方がいいと思うんならアンタがこっちに来なさい」
「あ。ごめん、えぴでみっく引いた」
「うあ~、アザミちゃんそれ3回目だよね引きが強すぎる」
「えーと、取りあえず下からカード引いてと……」
「香港だけは、香港だけはやめて」
「うん……香港です」
「ぎゃああ」
まだまだ余裕があったのに、3回連続アウトブレイクしてしまった。
もうヤバい。
「うん、とりあえず赤をどうにかしないと」
「治療薬作る余裕もないわね、これ詰んでない?」
「諦めたらそこで試合終……」
「あんた、うっさい。私赤3枚あるから、あと1枚でいけるわ。誰か持ってない」
「アイちゃん私持ってる! 香港の赤もってるよ!」
「じゃあ香港行きましょう」
黄色と黒は治療薬がある。
あとは青と赤、盤面は赤をどうにかすれば行けるのではないか? という状況。
ここを乗り切れれば勝てる!
私とアイちゃんは香港で合流、無事カードの受け渡しも終了。アイちゃんのターンで治療薬も完成した。後はこの広がりまくった赤をみんなで駆逐すればもう勝利は目前だ。
「あ。ごめん、えぴでみっく……」
「最後のカードをここで!」
「取りあえずカード引いてと……」
「香港やめて、台北、バンコク、ホーチミンも……だめ」
「うん。……ホーチミンです」
世界は瓦解した。アウトブレイクした。病原菌が人類を汚染した。私たちは敗北した。
「ちょっとそこでホーチミンとかありえないんだけど」
「うん、ごめんねみんな」
「愛さん、アザミを責めるのは筋違いよ。そもそも貴方が最初に赤の治療薬を作っていればこんなことには……」
「何よ? 私のせいだって言うの!?」
「そう言ったのよ? 理解できなかったかしらね」
「ちょっとちょっと、アイちゃんも狂歌ちゃんもケンカしないでよー」
勝っても負けてもみんな一緒だよの、このゲームで仲間割れなんて二人は相性が悪すぎる気がする。
熱くなったアイちゃんと、狂歌ちゃんはこの日夕方まで病原体から世界を救う戦いに身を投じた。
私は世界が滅亡するくらいの病原体で死んでいく人たちを思い浮かべて過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます