二刀流


 修行を始めて数日──。


 星河は二刀流に挑戦していた。

 野球で二刀流と言えば、投手と野手の両方をする事だ。高校までならば珍しくもないが、大学・社会人・プロでは異例の存在。


 とは言え、星河が挑戦している二刀流とは……。



 ガキィンッと音がした。2本の木刀が打ち合った際の音だ。

「今のを防ぐのかよ、お兄さん──」

 ユウが距離を取り、木刀を肩に担ぐ。

「やるじゃんか」

「僕は、アクションも出来るイケメンだからね」

 両手に木刀を携えた星河が、その場でバク宙を披露。

 やはり、イケメンをイケメンたらしめるイケメンっぷりである。

 老師は「はふはふ」言いながらカップラーメン食べてる。



 星河が二刀流をしているのは、ラーメン食べてるイケメン老人の指示によるものだった。

 これも修行という事だろう。


 星河が使う木刀は、少し短め。リーチの差をなくすためだ。星河とユウでは、身長差が15センチほどある。


 一方、ユウの方は長めの木刀を1本だけ使っていた。それを構え直した彼女が、青年に問う。


「まだまだ、いけるよな?」

「もちろんだとも」

「それじゃ……行くぜ!」

 一気に距離を詰めた彼女が、連撃を繰り出す。星河は、それをギリギリのところでさばいていた。

 彼の頬を冷や汗が伝うが、それすらもイケメンな星河。だが、このままではジリ貧というやつである。

「おらおらぁっ!」

 ユウの巨乳が揺れるが、そちらに気を取られる星河ではない。なぜならば、彼がイケメンだからである。


 老師は「大きくなったものじゃ」と、孫娘の成長に目を細めていた。多分、身長の話だろう。彼もまたイケメンなのだから。



 カップを床に置いた老師が、星河に助言を授ける。

「左の剣を使うのじゃ」

(左?)

「その左の剣、飾りではあるまい」

 2本の木刀を使うのは、案外難しいものだ。星河は右利きで、必然的に、右手に持った剣を使いがちである。


 だが、それでは──。


(二刀流の意味がない、か。よし!)

 2本とも使うように意識を変えると、左で受けた方がいい攻撃がある事に気付く。

(この剣は、飾りじゃあない!)

 さっきまでは右で受けたものを、左で受けて見せた。ユウの攻撃は続くが、右だけでさばくより、両方を使った方が防御に余裕が出来る。


「投球も同じじゃ」


(投球も同じ……?)

 剣戟の中でも、老師の声は星河の耳に届いていた。

「右投げでも、左腕は飾りではないのじゃよ」

 それを教えるための二刀流だったのだろうか。真意は定かではないが。



 しばらくして、ユウが再び距離を取った。わずかに呼吸が乱れている。

「すごいな、お兄さん。だったら、これでどうだ?」

 納刀するような動作をした後、腰を落とすユウ。木刀なので鞘はないが、彼女の左手は、見えない鞘を掴んでいるかのようだ。

(あの構え……居合か?)

「ちゃんと防いでくれよ、お兄さん。その顔に傷を付けたら、あんたのファンに殺されかねないんでな──!」

(消えた!? いや、下か!)


 ヒトの目は、上下の動きに弱いと言われる。ゆえに、横に動く変化球に比べて、下に落ちる変化球への対応が遅れるバッターは少なくない。


 ユウが消えたように見えたのも、彼女が急激に体勢を低くしたからだ。

 体を沈み込ませつつ星河に肉迫し、彼の懐に潜り込む。咄嗟に剣を交差させる星河だったが、その時にはユウが抜刀の動作に入っていた。


 2本の内、右に持っていた木刀が宙に舞う。


(しまった!)

 その表情すらもイケメンだが、ユウの攻撃には続きがある。

 逆袈裟に放たれた刃が、今度は袈裟斬りに切り替わった。左の剣1本で受けるが、第3撃──真下から真上への攻撃で弾かれてしまった。

「っ!」

 両手の得物を失った星河は、無防備な状態。


(とどめだ──!)

 上段からの振り下ろし。

 それが、星河の頭部を捉える寸前で止まった。


 ユウが寸止めをした──のではない。


 ユウの剣は、星河の手によって止められていた。

 

 そう──。文字通り、星河の手によって止められていたのだ。


「……白刃取り……!」

「……何とか、成功したようだね」

 やたらとキラキラした冷や汗を垂らし、イケメンは苦笑した。


 老師は「2人とも、見事じゃった」と健闘を讃えた。

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